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 目を開けると、一瞬ココがどこかが分からなかった。


 最近まで寝泊まりしてた南のお屋敷でも、もちろん見慣れた東のお屋敷でもない。



「……あ、そっか」



 一週間前、東の皆と一緒に都に戻ってきた私。


 それからすぐに年末年始に向けての準備が始まり、とんでもなく忙しい日々が続くらしい。それと時を同じくしてちょっと厄介な人が都に帰ってきたらしい。だから、あんまり私を都に置いておきたくはないらしい。


 全部全部“らしい”。


 それも当然で、これは全て神様修行の師匠である千早様から聞いたものだからだ。


 早々に出かけることだけを告げられ、着の身着のままでココへやって来た。



 半分追い出されるような形になってしまったことにいつまでも文句を言うつもりはないけど、それならそれで私に直接言ってくれてもいいのにさ。



「目が覚めましたか?」



 少し離れた所から、穏やかでいてかつ僅かに低い声音で話かけられた。


 振り向くと、何やら長い巻物を広げたままこちらを見てくる男の人が椅子に腰かけていた。



「うしおさま。ごめんなさい。ねちゃってました」

「お昼を食べた後ですからね。今日はお茶にも誘われていますから、今のうちにお昼寝を済ませておくことは良いことですよ」

「甘い」

「いたっ!」



 潮様が飴なら、潮様の笑顔にすっかり油断していた私の頭を背後から例のハリセンで叩く千早様は当然鞭だ。


 というか、そのハリセン、本当に気に入ったんですね。


 全く喜ばしくないことに、叩き方に磨きがかかっているような気がする。



「千早。女の子の頭をそのように叩いてはいけませんよ」

「大丈夫だよ。この子、頑丈だから」

「そういうことではありません」



 潮様に手招きされ、叩かれて僅かにジンジンする頭をさすりながら立ち上がって歩み寄った。


 乱れた髪を潮様が男の人にしては細い指でかしてくれる。



「まったく。……どうですか? もう元老院での生活には慣れましたか?」

「はい。ありがとうございます」



 巳鶴さんや橘さんみたいにとても気を使ってくれていつも傍に置いてくれるのに、この元老院、人外の人達が働く場所の中で潮様はかなり偉い位置の存在だ。


 今日だって本当は忙しい合間をぬって色んなことを教えてくれていたのに私ってば……なんで寝ちゃうかなぁ。本当にごめんなさい。



「そんなに悲しい顔をしていてはダメですよ。眠くなってしまうのは仕方ないことです。ここは天気が変わらずほぼ年中春の陽気ですからね」



 私でも眠くなります、と、潮様は慰めるようにしゃがんで視線を合わせ、微笑みかけてくれた。


 ほんとにもう。優しい人、大好き。



「どうでもいいけど、もうすぐそのお茶の時間なんじゃないの?」

「……本当ですね。この書類を片付けてしまいたいので、ちょっと待っていてくれますか? それか、二人で先に向かってくれても」

「待ってるから、さっさと片付けて。君はさっきの復習でもしてて」

「はぁい」



 千早様も持っていた本に目を落として続きを読み始めた。


 潮様の机の上に乗っている書類の量はあと少し。


 そう時間はかからないだろうけど、千早様の言う通り復習しながら大人しく待っていよう。



 えっと、今、確認されている人外にはとても種類があって、その中でも神様っていうのは、自然から生まれたもの、信仰から生まれたもの、神同士、または神との間に生まれたもの、大体三種類に分けられる。私の場合、三つ目だ。

 神様は一柱一柱その神様が得意としている力があって、似たような力を持つ神様はいても、力の強さや力の特性がやっぱりどうしても違ってくる。これについて、私の力はまだ未知数らしくて、だからこそ元老院での修行というか勉強が必要だと判断された。


 私の力って、やっぱり傷を治したりすることだよねぇ。もう何回もやってるし。



「お待たせしました」

「ほら、行くよ」

「あ、まって!」



 置いてかれると困る!


 だって、ここ、すっごく広いんだもの!



 トイレに行こうとして迷いかけてあやうく粗相をしそうになったのはさっさと忘れてしまいたい記憶だ。



 部屋の入り口にいる千早様を追いかけ、潮様の執務室を後にした。




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