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◆ ◆ ◆ ◆



 夏生さんから事件解決の一報が入ってから数時間後。


 スマホが再び振動した。


 液晶に表示される名前を見て思わず顔をしかめてしまった私を、傍にいる陛下が不思議そうに見てくる。



「……はい」

『遅い! 空港に着いたから迎えを寄越してちょうだい』

「空港? 貴女は今、海外では」

『いいから早く!』



 その後、すぐに一方的に電話を切られてしまった。



「……アレ、か」

「はい。いかがされますか?」

「機嫌を損ねても面倒なことになる。誰か迎えをやってくれ」

「承知しました」



 比較的手が空いていると思われる者に手早く連絡をとり、空港へ向かわせた。


 今年も残りわずかだが、なかなかどうしてこうも問題になり得ることが次々と。



「橘」

「はい」

「あの子はおそらくアレに目の敵にされ、手酷いやっかみを受けるだろう。会わさずにいたいものだが」

「そう、ですね。あの方は彼によくなついておいででしたから」

「……ふむ。あの子にはこのまま地方巡りをさせるのも手かとは思うが」

「それは……彼がゆるすでしょうか。そもそも、夏生さんに一任しているとはいえ、あの子の存在は私達以外にものどから手が出るほど欲しい存在。たまたま彼が一番先に保護して、単じゅ……んん、警戒心なく懐いてくれたからコチラ側にいるにすぎません。あの方がどの程度の間いらっしゃるつもりなのか分からない以上、目を離す期間が長くなる可能性があるのも考えものかと」

「うーん」



 仮御所としての役割を現在担っている南の屋敷の庭へ目を向ける陛下の視線の先を追う。


 南の長であった鳳さんの気風か、整然としておりどこか冷たさをはらんでいるが、庭園としては非常におもむき深い。


 そこへはらりと天から雪が舞い降りてきた。


 あの子が行っている温泉郷もおそらく今日明日にでも雪が降ると聞いている。


 小さな足跡をつけながらはしゃぎ回るあの子の姿が早く見たいと、悩む頭と疲れた心は穏やかな日常を求めていた。



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