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□ □ □ □



 それから三日。

 今日は綾芽達が帝様に呼ばれて南のお屋敷に来るらしい。


 都のみんなのために結界を張って守るという重大使命を帯びた私だけど、ちょーっと背が伸びた気がする。








「……と、いうわけだ」



 客間に通された夏生さん、綾芽、海斗さんの三人に、帝様から例の話が切り出された。



「すいません。自分、今すぐ会わなあかん奴らがおるのを思い出しましたわ。ちょっと行ってきてもえぇですか?」

「うむ。構わんぞ」

「おおきに。すぐ戻ります」



 綾芽が帝様に断り、席を立ってどこかへ行ってしまった。


 ニコニコしてたけど、よっぽど楽しい用事だったのかな?



 それから五分が過ぎ、十分が過ぎた頃。


 私の中にある考えが浮かんだ。


 綾芽ってば、もしかして、迷子になってるんじゃあるまいか。だって、勝手知ったる東と違い、ここは南のお屋敷だもの。ちょっと立ち寄ったことがあるくらいだろう綾芽と違い、私はここに数日も住んでいる。つまり、ここの間取りに関しては私の方が知っている。つまりのつまり、先輩だ。フッ。



「ふむ。今度は何を思いついたのやら」

「おい、チビ。陛下の前だぞ。その小憎たらしい顔を引っ込めやがれ」

「ハッ。……そーだった。なつきしゃん、いた」

「俺がいちゃ悪ぃか。俺がいちゃできねぇようなアホな考えはとっとと捨てちまえ」

「アホとはなにごとか」

「そうだなぁ。雅、お前はこんなにも素直で分かりやすくて御しやすい良い子だというのに」

「……陛下」



 帝様がよしよしと頭を撫でてくれるのを、夏生さんがもの言いたげな顔をして見てくる。


 ……おっといけない! 早く綾芽を探しにいってあげなきゃ!

 きっと迷って困ってるだろう。それか、諦めて適当な場所で時間を潰してそうだ。むしろ、そっちの線の方が高いかもしれない。



「あっ! おい! どこに行くんだ!?」

「かいともそこでまってていーよ」



 いざ行かん! 綾芽探しの旅へ!


 あ、お土産の薫くんお手製ずんだ餅は私の分食べずに置いといてね? フリじゃないからね? 絶対だからね?







「自分、言わへんかったっけ?」



 綾芽の声が聞こえてきた部屋の襖を開けてみたら、真正面に背を向けた綾芽がいた。そして、こちら側を向いて正座させられている蒼さんと茜さんも。



「今のとこ、あの子が力を使う反動は食欲だけやけど、ほんまのとこはまだ分かってへんから、あんま使わんよう見張っといてって。なぁ、自分ら、何してるん?」

「あ、やめ、……さーん」



 段々と小声になり、しまいには普段はしない“さん”付けもしてみた。


 こ、こわっ……。



「お邪魔しましたー」



 後ろから追ってきた海斗さんが、襖をピシャリと閉めた。



「おうおう、怖かったな」



 こちらを一瞬振り向いた綾芽の顔を見て固まった私を、海斗さんが抱き上げてくれた。トントンと完全になだめに入っている。



「綾芽ー! チビがおびえてっぞ!」



 海斗さんが中に声をかけると、しばらくして襖が開いた。



堪忍かんにんな」



 先程とは打って変わり、いつも通りの気怠そうな顔を浮かべた綾芽が戻ってきていた。美人が真顔でキレると怖いんだから、自重というものをして欲しい。切実に。



「ほら」



 綾芽が廊下に出てきて、こちらに向かって手を広げてくる。


 それはこっちに来いって合図なんだろうけど、今は無理よ! だって、それくらい本当に怖かったんだもん!



「……」

「ちょっ、俺を睨むなよ!」

「別に睨んでへんよ?」

「じゃあ、その目はなんだよ。鏡を見てこい、鏡を」

「……そんなん、あらへんよなぁ?」

「おいおい。これ以上、蒼達をおどしてやるなって」



 どうした!? 海斗さん! 今日はなんだかカッコイイー!


 最後に見た時は、一緒にはいても、決して言葉を交わさず、目も合わせなかった蒼さんと茜さん。今はお互い離されまいと抱きしめ合っている。



「もうなかなおりー?」

「えっ?」

「「あっ」」



 二人揃って自分達が喧嘩中ということを忘れていたのか、私が尋ねてようやく思い出したみたいに声を上げた。



「かいとー」

「あ?」

「おろしてー」

「はいよ。ほら、行くぞ?」

「えっ?」



 海斗さんは二人に声をかけ、勢いつけて私を宙に放り投げた。飛んでいく先は蒼さん達の手元。



「あ、危ないじゃないですか!」

「はってーん!」

「はってん!? 何がはってん!?」

「まさか、今の宙投げが八点ってこと!?」



 うん、そう。だって、ズルしちゃったからね。ちょびっとばかし飛距離が足りなかったから、力、使っちゃった。

 だからかな、ちょびっとお腹空いたぁー。おやつの時間までもつかなぁ?



「自分、今、力使わへんかった?」

「ツカッテナーイ」



 受け止めてくれた茜さんの胸に顔を埋めて隠れる。そーっと覗くと、綾芽がジト目でこちらを見ていた。

 すると、蒼さんが綾芽と私達の間に入って、私を挟むように抱き込んできた。


 さすがお兄ちゃん。弟とチビを護ろうとするなんて、兄の鏡だね!



「……はぁ」



 綾芽は溜息をつき、部屋を出ていった。きっと、さっきの部屋に戻るんだろう。



「チビ、俺も戻るから二人に連れてきてもらえよ?」

「じぶんでもどれるよ!」

「はいはい。じゃな」



 信じとらんな? ぐぬぬ。



「雅ちゃん、あのね、綾芽さんもみんなも心配してるんだから、あんまり力を使っちゃダメだよ」

「ダメよ。だって、しめーだから」

「しめー? 指名? 誰かに指名されたの? 断るんだよ、そういうのは」

「ちーがーう。し・め・い! おしごとなの!」

「あ、使命。日本語って難しいね」

「他にももっといい使命をあげるから。力を使わなくてもできるようなやつ」

「みかどさまがね、あやめたちのかわりにみやこをまもってって。みーんなをまもれるんだよ?」

「あー……でもね、それで君がどうにかなっちゃったら綾芽さん達も、もちろん僕達も悲しいよ?」

「なく?」

「そうだね。泣いちゃうかもね」

「おにのめにもなみだ」

「そう……って、夏生さんも綾芽さんもいないよね?」

「大丈夫。いない」

「良かった」



 蒼さんがサッと廊下を確認して太鼓判を押すと、茜さんもホッと胸をなでおろした。


 二人の中での鬼はあの二人なんだね。綾芽はたまーにだとして、夏生さんはよっく分かる。怒るとホントに鬼だもの。


 さて、仲直りしてそうだけど、もう喧嘩はしないって宣言してもらいましょうか。


 私、大好きなみんなにはずっと笑顔で仲良くいてもらいたいもの!



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