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◇◆◇◆



 それから三日。


 今日は綾芽達が帝様に呼ばれて南のお屋敷に来るらしい。


 都のみんなのために結界を張って守るという重大使命を帯びた私はちょーっと背が伸びた気がする。








「……と、いうわけだ」



 客間に通された夏生さん、綾芽、海斗さんの三人に帝様から例の話が切り出された。



「ちょっとすいません。自分、会わないといけへん人がいるのを思い出しましたわ。行ってきてもえぇですか?」

「うむ。構わんぞ」

「おおきに。すぐ戻ります」



 綾芽が帝様に断って席を立ってどこかへ行ってしまった。


 ニコニコしてたけど、よっぽど楽しい用事だったのかな?



 それから五分が過ぎ、十分が過ぎた頃。


 私の中にある考えが浮かんだ。



 綾芽さん、もしかして、迷子になってるんじゃあるまいか。



 だって勝手知ったる東と違い、ここは南のお屋敷だもの。


 ちょっと立ち寄ったことがあるくらいだろう綾芽と違い、私はここに数日も住んでいる。


 ここの間取りに関しては私の方が知っている。つまり先輩だ。フッ。



「ふむ。今度は何を思いついたのやら」

「おい、チビ。陛下の前だぞ。その小憎たらしい顔を引っ込めやがれ」

「ハッ。……そーだった。なつきしゃん、いた」

「俺がいちゃ悪ぃか。俺がいちゃできねぇようなアホな考えはとっとと捨てちまえ」

「アホとはなにごとか」

「そうだなぁ。雅、お前はこんなにも素直で分かりやすくて御しやすい良い子だというのに」

「……陛下」



 帝様がよしよしと頭を撫でてくれるのを、夏生さんがもの言いたげな顔をして見てくる。



 ……おっといけない! 早く綾芽を探しにいってあげなきゃ!!


 きっと迷って困ってるだろう。


 それか諦めて適当な場所で時間を潰してそうだ。むしろ、そっちの線の方が高いかもしれない。



「あっ! おい!! どこに行くんだ!?」

「かいともそこでまってていーよ」



 いざ行かん! 綾芽探しの旅へ!!


 あ、お土産の薫くんお手製ずんだ餅は私の分食べずに置いといてね?


 フリじゃないからね? 絶対だからね?







「自分、言わへんかったっけ? あの子が力を使う反動は今のとこは食欲だけやけども、ほんまのとこはまだ分かってへんからあんまり使わせへんように見張っといてって。なぁ、自分ら、何してるん?」


「あ、やめ、……さーん」



 段々と小声になり、しまいには普段はしないさん付けもしてみた。


 綾芽の声が聞こえてきた部屋の襖を開けてみたら、真正面に背を向けた綾芽。そしてこちら側を向いて座らせられている蒼さんと茜さん。もちろん正座でございます。



「お邪魔しましたー」



 後ろから追ってきた海斗さんに襖をピシャリと閉めてもらった。


 こ、こわっ……。



「おうおう、怖かったな」



 こちらを一瞬振り向いた綾芽の顔を見て固まった私を海斗さんが抱き上げてくれた。


 トントンと完全に宥めに入っている。



「綾芽ー! チビが脅えてっぞ!」



 海斗さんが中に声をかけると、暫くして襖が開いた。



「堪忍な」



 先程とは打って変わり、いつも通りの気怠そうな顔を浮かべた綾芽が戻ってきていた。

 美人が真顔でキレると怖いんだから自重というものをして欲しい。切実に。



「ほら」



 綾芽が廊下に出てきてこちらに向かって手を広げてくる。


 それはこっちに来いって合図なんだろうけど、今は無理よ! 

 だってそれくらい本当に怖かったんだもん!



「……」

「ちょっ、俺を睨むなよ!」

「別に睨んでへんよ?」

「じゃあその目はなんだよ。鏡を見てこい鏡を」

「……そんなことあらへんやろ?」

「二人をこれ以上脅すなって」



 振り向いて部屋の中で肩を寄せ合っていた二人に綾芽が尋ねるのを海斗さんが窘めている。


 どうした!? 海斗さん!

 今日なんだかカッコイイー!!


 最後に見た時は一緒にはいても、決して言葉を交わさず、目も合わせなかった葵さんと茜さん。


 今はお互い離されまいと抱きしめ合っている。



「もうなかなおりー?」

「えっ?」

「「あっ」」



 二人揃って自分達が喧嘩中ということを忘れていたのか、私が尋ねてようやく思い出したみたいに声を上げた。



「かいとー」

「あ?」

「おろしてー」

「はいよ。ほら、行くぞ?」

「えっ?」



 海斗さんは二人に声をかけ、勢いつけて私を宙に放り投げた。


 飛んでいく先は葵さん達の手元。



「あ、危ないじゃないですか!」

「はってーん!!」

「はってん!? 何がはってん!?」

「まさか今の宙投げが八点ってこと!?」



 うん、そう。


 だってズルしちゃったからね。ちょびっとばかし飛距離が足りなかったから力使っちゃった。


 だからちょびっとお腹空いたぁー。


 おやつの時間までもつかなぁ?



「自分、今、力使わへんかった?」

「ツカッテナーイ」



 受け止めてくれた茜さんの胸に顔を埋めて隠した。


 そーっと指の隙間から覗くと、綾芽がジト目でこちらを見ている。


 すると、葵さんが綾芽と私達の間に入って、私を挟むように抱き込んできた。


 さすがお兄ちゃん。弟とチビを護ろうとするなんて兄の鏡だね!



「……はぁ」



 綾芽は溜息をついて、どこかに行ってしまった。


 きっとさっきの部屋に戻るんだろう。



「チビ、俺も戻るから二人に連れてきてもらえよ?」

「じぶんでもどれるよ!」

「はいはい。じゃな」



 信じとらんな? ぐぬぬ。



「雅ちゃん、あのね、綾芽さんもみんなも心配してるんだからあんまり力を使っちゃダメだよ」

「ダメよ。だって、しめーだから」

「しめー? 指名? 誰かに指名されたの? 断るんだよ、そういうのは」

「ちーがーう。し・め・い! おしごとなの!」

「あ、使命。日本語って難しいね」

「他にももっといい使命をあげるから。力を使わなくてもできるようなやつ」

「みかどさまがね、あやめたちのかわりにみやこをまもってって。みーんなをまもれるんだよ?」

「あー……でもね、それで君がどうにかなっちゃったら僕達も、もちろん綾芽さん達も悲しむよ?」

「なく?」

「そうだね。泣いちゃうかもね」

「おにのめにもなみだ」

「そう……って、夏生さんも綾芽さんもいないよね?」

「大丈夫。いないよ」

「良かった」



 さっと葵さんが廊下を確認して、茜さんはホッと胸をなでおろした。


 二人の中での鬼はあの二人なんだね。綾芽はたまーにだとして、夏生さんはよっく分かる。



 さて、仲直りしてそうだけど、もう喧嘩はしないって宣言してもらいましょうか。


 私、大好きなみんなにはずっと笑顔で仲良くいてもらいたいもの!



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