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◇ ◇ ◇ ◇
お芋が入っているらしき紙袋を抱えて橘さんが戻ってきた。
……どったの? その眉間の皺。
夏生さんみたいにデフォルトになっちゃうよ?
「雅さん。この部屋に結界を張るか、盗聴できないようにしていただきたいのですが、できますか?」
「まっかせっなさーい!」
そんなの朝飯……じゃなかった昼飯前なのだよ。
ふんっ! バーリーアッ!
ほら、あれですよ。みんなも子供の頃やってたでしょ? 鬼に捕まりそうになるとつい言っちゃうヤツ。あれ? それはタイムだったっけ? まぁ、どっちでもいいや。
できたぞよ? ムフン。
「どうやらできたようだぞ? なんとも見事なドヤ顔だ」
「まったく。海斗さん達の影響ですね? 今度よくよく言っておかなければ」
「それで? どうした?」
「それが……」
橘さんが帝様に促されて紙袋の中に入っていた紙を取り出した。その時、芋の良い匂いが部屋に立ち込めた。
……ジュル。
「はい、ご褒美です。まだ少し熱いですからね。よくフーフーするんですよ?」
「あ、あい。ふーふーする」
いかん。つい顔に出るところだった。
私はこの見た目だからまぁセーフだろうけど、滅多にというか絶対言いそうにない橘さんがフーフーとか言うと、なんだか分からないけどニヤけてしまう。
橘さんは私に銀紙で巻いた芋を渡すと、帝様と凛さんとさっきの紙を囲んで何やら難しい話をし始めた。
私にはさっぱり分からんから、ここで大人しくお芋食べてまーす。
あ、おかわり自由でいいのかな?
「ふむ。確かにこれ以上後手に回るのはいただけんなぁ」
「はい。せっかく情報があるのなら、ここは積極的に動いてもよろしいかと」
「しかし、東はまぁ、夏生の指示で動くとして、南と北、それに西をどう動かすかだ。特に西は大将の鳳さえ制御ができん始末。下手に動けば向こうにこちらの動きを悟られる。……凛、お前ならどうする?」
「……東と北、南と西で都を中心として二方に分かれて龍脈を探します。そうすれば、指令系統的にも
「そうですね。南と西であれば、隊長代理である凛さんよりも権限行使力が高い鳳さんの指示系統が優先。鳳さんも南の隊員にも命令を出しやすい。東と北もこの分け方で何の問題もないでしょうが……」
「……都を守る力が手薄になる、か」
「数名それぞれ残していくのも手かとは思いますが、いかんせん国内の龍脈は四方八方に張り巡っています。それを確認していくには人員が絶対的に足りません」
「……なに、心配はいらぬ。今まではそうであったかもしれんが、今は違う」
「陛下?」
二つめぇ。
わわっ! なになに? 何事?
帝様に抱き上げられ、お膝の上にちょこんと乗っかった。
お話聞いていたようで聞いてなかったの。左の耳から入って右の耳からおさらばよ。だから、今の状況がさっぱり分からない。
とりあえず……何かを期待されてるってことでオーケー?
「雅、そなたはどの程度結界を張れる?」
「けっかいー? んー。このおやしきと、みちむこうまでかな?」
「都全体には届かぬか。困ったな」
「こまる? みかどさま、こまっちゃうの?」
「あぁ。夏生達が都を離れて龍脈を確認しに行く間、私達で都を守らなければならない。だが、この間のような人外のモノには対処ができない。ただ、事前に結界を張っておけば大抵防げるというわけだ」
「ほほぅ」
「もう少し結界を広げるにはどうしたら良いか。……いやはや、困った困った」
帝様は身体を少し反らして腕組みをしながらウンウン
いつもなら的確な助言をしそうな橘さんもだんまり。もちろん、凛さんも同じく。
「この都を守る使命を果たしてくれる心強い者が必要なのだが、一体、どこにいるのだろうか」
使命、だって?
今、帝様、心強い者が必要って言った?
「みやこをまもるのがしめい?」
「あぁ、そうだ。普段は綾芽達がこの任を担っているがな。都にいない間はその者が綾芽達の代わりだ。きっと、帰ってきた時もの凄く褒めてくれるであろうな」
「ほめられる? みんなに?」
「あぁ。頑張った褒美に美味しいものをたくさん与えてもらえるかもしれぬぞ?」
「おいしいもの……いっぱい」
「休暇もとらせるつもりだから、目一杯遊んでもらえるかもしれん」
「いっぱい」
「だが、私には思い当たる者がいない。さて、この重大な任務を任せられる者はどこにいるのか」
「やる! じゅーだいにんむ、やります!」
「おぉ、やってくれるか」
「あい!」
時代劇の三郎親分も言ってたしね!
“俺は都を守るっていう使命を果たすぜ。拾ってくれたお奉行のためだ。当然じゃねーか”ってね!
綾芽達が都の治安を守るのがお仕事なら、一緒に住んでる私も都を守るのがお仕事よ。
だからね、私、頑張ります!
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