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◆ ◆ ◆ ◆



 ……何をやってんだ、あのチビは。


 その間にも増えていくいいねとリツイート。当然のように見回り中のはずの綾芽のアイコンが早くも表示されている。他にも、稽古中のはずの奴らのアイコンまでポコポコと増えていく。



「……てめぇら、携帯見てる暇があんなら見回り行かすぞ、この野郎っ!」



 障子を開け放ち、声を張り上げた。


 ピコン、と、また一つ音が鳴る。

 見ると、隣で茶をすする巳鶴さんのものだった。



「……」

「どうせ、凛が何の前触れもなく着せ替えたんでしょう。ただただ、されるがままにしていた結果だと思いますよ」

「……はぁ」



 そうだろうが、そうじゃなく。


 あぁ、胃が痛い。



「それよりも、勅命が下りたとはいえ、よくすんなり許可しましたね」

「ん? ……まぁな。なんだかんだ言って、あいつはよくやってる。それに、どんな状況になるか分からん以上、陛下とあいつをセットにしておくのは悪かねぇ」

「確かに。あの子に何かあれば、お父上が出てこられるでしょうし。人外の方々とも繋がりができたようですから、いざとなれば機転を利かせていただけるでしょう」

「まぁ、あくまでも保険だ。そういう状況がないに越したことはない」

「……ふふ」

「なんだ?」

「いえ、あなたも随分と丸くなったと思って」

「は?」

「さて、私は離れに戻りますね」

「あ、ちょっ、おい!」



 巳鶴さんはさっさと仕事場である離れに行ってしまった。


 俺が丸くなった? 今の会話でどこにそんな要素があったんだよ。


 そんな中でも、さらに増えていく、いいねとリツイート。しばし画面を見つめた後、そっと指を伸ばした。


 やりかけていた書類仕事に戻るために画面を裏返し……



「おい」

「うおっ!」



 背後というよりも、もはや息がかかりそうな位置から声をかけられ、思わず体がビクッとなった。


 断じてビビったんじゃない。驚いただけだ。



「先程見ていた写真、我にも」

「……頼むから、気配を消して背後に立たんでくれ」

「消したつもりはない。早くしろ」

「ったく。直接撮りに行きゃいい話だろうが」

「アレは我がいると途端に不機嫌になる」

「自覚はあんだな。……っと、今更だが、敬語の方がいいか?」

「別に構わん。言葉など、意思疎通が図れれば問題ない」

「ならこのままいかせてもらうぜ。……ほらよ」

「うむ。感謝する」



 打ち出してやった写真を大事そうに懐にしまい込む雅の父親の姿を見ていると、なんだか妙に物悲しくなってくる。


 娘にあんな態度取られれば死ぬ、とかなんとか誰かが言ってやがったな。子持ちの小林か? いや、育休申請出した藤沢だな。

 今にも死んじまいそうな顔して言うもんだから、上司である海斗まで加勢して申請押し通しやがった。別に海斗あいつまで出て来なくたって、却下するつもりなんざねぇってのによ。



「おい」

「今度はなんだ?」



 チビの写真なら、そんなに数持っちゃいねぇぞ?



「龍脈を探せ」

「は? ……おい、ちょっ、待て!」



 意味深な言葉を吐いた後、すぐに消えちまった。


 龍脈? 龍脈って、あの龍脈だよな? それを探せ?



「おい、誰かいるか?」

「ここに」



 すぐに隠密の一人が呼応した。



「チビの父親が、龍脈を探せだと。手分けして新たな龍脈が現れていないか、すでに分かっている龍脈に異変が起きてないか探れ。人数が足りなきゃ他のところにも応援を出してもらうよう要請するから言え」

「はっ」



 とりあえずは東だけで探ってみるか。


 だがなぁ、これで人間の言うことなら根拠を提示されるまで信用ならねぇが、神さんの言葉とあっちゃ……なにかあるのは間違いねぇだろう。


 ……はぁ。

 巳鶴さんに胃薬の補充を頼むっきゃねぇな。




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