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◇ ◇ ◇ ◇



 南のお屋敷に着くと、帝様と橘さんはお仕事があるらしく、部屋にこもってしまった。お仕事の邪魔はできないから、大人しく通された部屋で持ってきたパズルで一人遊び。


 しばらくすると、報告が終わった蒼さんと茜さんがりんさんという南のNo.2をつれてやって来た。


 凛さんは、お屋敷の中だというのに頭から薄い衣を被っている。薄い茶色の髪は床に届くほど長くて、私だったら何かの拍子に思わず踏んじゃいそうだ。しかも、これまた中性的な美しいお顔をしていらっしゃる。同じ系統の綾芽が桜なら、凛さんは……カスミソウ?


 綾芽は会ってすぐに抱っこしてくれたから男だって分かったけど、この人はどっちかなぁ?



「……あっ」

「……」



 凛さんは黙ったまま部屋を出て行ってしまった。



「おこっちゃった?」

「大丈夫大丈夫。あの人いつもあぁだから」

「きっと何か思うところでもあったんだよ」



 思うところって、私だけやっぱり送り返すってことかなぁ? 夏生さん達に苦情言ってるとか? なんでこんなガキをよこしたんだ!とかなんとか。


 ……帰ったら雷落ちるんだぁー。



「大丈夫だって」



 蒼さんに慰めてもらっていると、廊下から誰かの声がした。



「凛さんが、そこの回廊を無表情のまま鼻歌混じりにスキップしてたんだが、何があった?」 

「……ほらね?」



 ……ご、ご機嫌うるわしいようで。良かった、のかな?

 茜さんと蒼さんも、目を合わせてくれなくなったけど、本当に大丈夫?


 しばらく葵さんと茜さんとパズルの続きをして待っていると、障子の向こうに影ができた。



「凛さん?」

「どうぞ入ってください」



 一番近くに座っていた茜さんが手を伸ばし、障子を開けた。

 すると、やっぱり外に立っていたのは凛さんだった。しかも、何か黒いものを両手で持っている。



「凛さん、それ、なんです?」

「……」



 蒼さんの質問には答えず、凛さんは私の横に膝をついた。脇に手を伸ばされ、ちょっと身構えたけど、ただ立たされただけだった。


 蒼さんも茜さんも、お互いに顔を見合わせて首を傾げあっている。



「……」

「……? ひゃっ!」

「凛さん!?」



 脇を抱えていた手をそのまま上げ、私に万歳の恰好をさせた凛さんはそのまま私の着ていた服を脱がせた。そして、私達が何事かと慌てているのをよそに、持ってきた黒い何かを私の脚元に広げていく。



「これ……ネコ?」

「着ぐるみ、ですか?」

「そう」



 初めて聞いた凛さんの声は穏やかで、ちょっぴり低い声色だった。


 足を通して、手を通して……わぁお、ぴったりサイズ!



「どぉでしゅか?」

「可愛いよ!」

「うん、最高!」



 くるりんと回って自分でも確かめてみた。


 うーん、尻尾がちょっと気になるけど。よしよし、サービスだ。ネコポーズ!


 カシャッと何かが鳴る音がして、そちらを見ると、凛さんが携帯を片手に持ってこちらに向けていた。それから、のんびりしてそうな見た目にそぐわず、華麗なる手捌てさばきで何やら操作をしたかと思えば、今度は茜さん達の方からピロリンと音が。



「……凛さん、マジいい仕事っぷりです」



 どうやらどこぞで共有された模様ですね。

 ちょっとさっきのは油断してたから、撮り直しを所望します!


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