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◇ ◇ ◇ ◇



 帰ってきてから数日が経ち、秋から冬に変わろうとしている日の夜もとっぷりとけ。

 満月が部屋の中に差し込んでいるおかげでほんのりと明るい。


 そんな夜。


 私はハッと目を覚ました。


 なんだか今日の夢はすごかった。昼間おじさん達と見ていた任侠にんきょう映画の影響かもしれない。爆発音だけがやけにリアルに聞こえてきた気がして、まだ心臓がドドドッて早鐘を打っている。


 でも、ここがどこだかはっきりしたし、ここなら安心安全。それに、まだまだ夜明けには程遠い。


 もうひと眠りしようと寝返りを打った時、襖の向こうをバタバタと走る音がしてきた。


 こんな時間によくもまぁ、恐れ知らずな。今に夏生さんが怒り狂い、鬼の所業もとい罰則が言い渡され……ないなぁ? 



「城の連中は何してんだよ!」

「陛下はご無事か!?」

「先に向かった海斗と連絡つかへん。ちょっと自分、行ってきますわ」

「俺も行く! 巳鶴さんは救護班を準備しといてくれ!」

「分かりました!」



 どうやらお城で何事かがあったらしい。


 まだ残る眠気をぐしぐしと目をこすりながら追っ払い、襖をほんの少し開けてみた。



「どーしたのー?」

「あ、雅さん」



 綾芽達とは反対方向に走りだそうとしていた巳鶴さんと目が合った。


 巳鶴さんもまだ白の寝間着のまま。


 よっぽどの緊急事態みたいだ。


 巳鶴さんは私を抱き上げると、急ぎ足で大広間に向かった。



「すみませんが、少し、いえ、もしかすると、たくさん貴女あなたの力をお借りしなければいけないかもしれません。お手伝い、してくれますか?」

「おてつだいー? いいよー!」



 どーんと任せてくださいな。


 胸を握り拳で叩いて見せると、巳鶴さんはニコリと笑ってくれた。しかし、すぐに表情を改めると、私にここで待っているように言ってどこかへ行ってしまった。


 しばらくして戻ってきた巳鶴さんは寝間着のままたすき掛けしていて、おじさん達にキビキビと指示を出し始めた。



 そしておよそ十分後、私は安請やすうけ合いしたことを早くも後悔こうかいした。


 大広間に入りきらないほどの火傷やけどを負った人達。中に運びこまれてもすぐにむしろをかけられ、外に運ばれていく人の姿もある。


 これは私の想定範囲を軽く超えていた。

 ふっと頭をよぎるのが、こちらの世界に来たばかりの時、戦場で目にした光景。あの時も、こんな風に命がいくつも風前の灯火にさらされていた。

 


「雅っ! こっちだ! 陛下を見つけた!」



 ……しっかりしろ、私! 私はここに、綾芽達を助けるためにいる。目をそむけている暇などないっ!



「んっ! いまいきましゅ!」



 海斗さんが呼ぶ方へ、人をかき分け走った。



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