長い物には巻かれるべし
1
◆ ◆ ◆ ◆
市街地から少し離れた場所には小高い山がある。
その山には自然に切り立った崖があり、普段ならば崖の近くは危険だからと人が近寄ることは滅多にない。あって、度胸試しの学生や一部の大人だけ。
しかし、今は若い男が一人、崖に腰を落ち着け、この国の頂点に君臨する者が住まう城の方を見下ろしていた。
辺りを警戒する素振りを全く見せないその男の背後に音もなく忍び寄った。
「ねぇ、もうじき準備が整うんだけど」
「あぁ、今行くよ」
僕がすぐ近くまで来ていたことには気付いていたようで、驚きもせず振り向きもせず、生返事だけが返ってくる。
まるで月に
「常世の元主宰神の娘、か」
「なに? また適当な
「いや、駒ではないよ。そうだね、あの子は色んなモノをおびき寄せてくれる
「奏お姉ちゃんも? ……僕、そいつ嫌いかも」
「まぁまぁ。子供同士仲良くおやりよ」
「ちょっと! 僕はもう子供じゃないっ!」
「そう。なら、上手くやれるよね?」
「もちろん。任せてよ」
口元に緩やかな
すると、次の瞬間、都中に
とはいえ、じきにこの火の勢いは収まる。延焼することもなく、建物被害はあの城だけであることが
「さて、あの子が奏の庇護下に入ったからね。神籍に連なる者は元老院としても護衛対象にあたるし。ここぞとばかりに彼らも出張ってくるだろうから、ここはひとまず
「他は? いいの?」
「あぁ、いいよ。まだ、ね。今日のところは
「陽動ってわけ?」
「まぁね。事態の鎮静化までどれだけかかるのか、彼らのお手並みもついでに拝見できて一石二鳥ってところだね。 ……さ、もう行くよ」
「……うん」
最後にもう一度、眼下に広がる光景を見下ろした。
炎に照らし出され、
「人間なんて、そのまま根絶やしになればいいのに」
ぽつりと
すでに立ち上がって背を向け、
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