8



 綾芽に抱っこされたまま部屋に戻ると、さっそくお手伝い開始だ。



「んしょっと。……ふぃー。おふとんしいたよー」

「ほな、先に寝とき。自分、汗かいたんで風呂入ってくるわ」

「んー」



 綾芽はそう言うと、大浴場へ行ってしまった。


 まだ眠くないし、持ってきたデジカメをポチポチといじって待ってようっと。一人で眠れないからなんかじゃない。ないったらない。


 それから待つこと二十分。



「……何や自分、まだ起きとったん?」

「んー。これのつかいかた、かくにんしてたの」

「それ、デジカメやん。どうしたん?」



 綾芽がれた頭をきながら隣にやって来た。



「おじいちゃんがね、くれたの。これでのこしておきたいものをのこしなさいって」

「……ふーん」



 生返事をされたかと思うと、デジカメを横から取り上げられた。



「あやめ?」

「ほら、笑って笑って」

「えっ? えっ? イエェーイ!」

「……自分、そのノリの良さは海斗そっくりやわ」



 ふむ。それはどういう反応をすればいいのかな? 

 とりあえず、海斗さん面白くて大好きだから、め言葉だと思っておくよ。自分で勝手に思っとく分には自由だもんね!



「なんや、もう結構ぎょーさんってはるやん」

「うん。ここにもどってくるまえに、いえのしゃしんとかおかーさんたちとのしゃしん、いっぱいとったの」

「へー。さすが神さんの家や。池とかあるんやね」



 確かに神様の家で間違ってない。だって、うち、神社だもの。

 でも、あれは神様の社の敷地に私達家族が土地を間借りしてるようなもんであって、私達の家って言われると厳密には違うような。


 ……まぁ、いっか! 



「ほな、明日はバックアップ用のカード買いに家電屋行かんとな」

「へ?」

「こんな本体だけのメモリ数じゃ足らへんやろ。これからも思い出増えてくんやから」

「……うん! いこ!」



 綾芽は本当に優しい。


 嬉しい気持ちを抑えきれずに、まだ頭を乾かしきれていない綾芽の背に飛びついた。



「ちょっ、服が濡れるで」

「だーいじょーぶっ! えへへー」

「……ほんま、かなんわ」



 綾芽がポツリと苦笑交じりに言い漏らす。強い綾芽が敵わないなんて、もしかして私って最強なのかもしれない。


 ふと時計を見ると、もう零時れいじだ。そろそろ寝なければ夏生さんが怒りに来る。

 そう思って布団に入った時、廊下を歩いてくる足音が聞こえてきた。


 噂をすれば……ってしてないけど、考えていればなんとやら。



「いつまで起きてるつもりだ!」

「いまからねようとしてたのー」



 部屋の襖を勢いよく開けられ、夏生さんの特大雷が落とされた。



「せっかく寝かけてたんを起こすやなんて、夏生さんも悪やわー」

「うるせぇ! ぜってぇ寝てなかっただろ!」

「見てないんやから分からんですやろ?」

「だぁーっ! いいからさっさと寝ろ!」



 こうやって二人の掛け合いを聞いていると、初めてこのお屋敷に来た時のことを思い出すなぁ。

 ……へへっ。やっぱり、この感じ、好きだなぁ。



「なつきしゃん、あやめ」

「あ?」

「どないしたん?」

「おやすみ!」



 二人は瞬きを数回した後、代わる代わるに頭を撫でてくれた。

 そうすると不思議なもので、眠くなかった気持ちが段々薄れていく。



「お帰り。小さな僕らの神さん」



 眠りに落ちる寸前、優しい声が耳に届いた。



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