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 お菓子をくれなきゃイタズラしちゃうかもねー。イタズラは怖いよー?


 そう言って回って、やっと当日。


 やってきましたハロウィンです!



「ふーふふーん」



 着替えもバッチリやりましたよー?


 肩の部分が髑髏どくろ模様のレース調で、上下繋がっている黒のフレアスカートの背中には羽と尻尾がついている。頭にはとがった耳のカチューシャも装着済み。


 今日の私、ちびっこ神様からちびっこ悪魔様に変身しました! 皆様どうぞ悪魔っ子とお呼びくださいな。


 ちなみに、本日の衣装提供元は瑠衣さんです。

 例のパンケーキを食べにお店へ行った時にお話したら、すっごく乗り気になってくれて、その足でデパートへ直行。二人でキャッキャとショッピングを楽しませてもらいました。荷物持ちしてくれた黒木さん、その節はどうもありがとう。


 そんでもって、今日は瑠衣さんもお仕事が終わったら着替えてきてくれるんだって!


 そんなわけで機嫌よく庭を歩いていると、丁度薬草園から出てきた巳鶴さんとばったり会った。



「おや、可愛いらしい悪魔さんですね」

「みつるしゃん! とりっくおあとりーと!」

「はいはい。お菓子ですね? ちゃんと用意してありますよ」



 着物の袖に手を突っ込んで、出してきたのはペロペロキャンディーのファミリーパック。ちゃんとキシリトール配合なところが巳鶴さんらしい。



「ありがとう!」

「一日一個ですからね?」

「あい」



 虫歯コワイもんね。

 歯磨きはちゃんとしてますよ? 綾芽が。


 頂きましたペロペロキャンディーをこの日のために用意した白い大きな布袋に詰めた。クリスマスのサンタかよってツッコミはなしだ。


 それじゃあ、お次へ行こう。


 バイバイ、巳鶴さん。研究頑張って。








 次の獲物……ごふんげふん、を見つけるべく、庭を徘徊はいかいし、門の前までやって来ました悪魔っ子。


 門番さんにはお菓子もらえなくても悪戯しないよ? お仕事中だからね。


 ……おっとっと? 丁度交代の時間みたいですね。誰もいない。



「お嬢ちゃん」



 ん? お嬢ちゃんって私のこと?


 この屋敷にはお嬢ちゃんと呼ばれるのに相応ふさわしいのは私しかいない。まぁ、呼称は大体そんなお上品なものじゃなくって、チビとかチビ助とかだけど。


 とりあえず、私を呼んでいると思しき声がする方へ顔を出した。



「お嬢ちゃん、おいしいお菓子をあげよう」

「おかし? とりっくおあとりーとまだいってないよ?」

「とりっく?」



 門の外にチョコレートの箱を差し出してくるおじさんが立っていた。

 このおじさんは私が散歩に出た時、よくお菓子をくれる優しいおじさんだ。綾芽も知ってる。つまり、顔見知り。


 それでも今回はトリックオアトリートを言ってからお菓子をもらうのが醍醐味だいごみなのに。まぁ、くれるって言うならもらいますよ? お菓子大好きだもの!


 門の外に出て、チョコレートの箱を受け取った。



「ありがとー、おじしゃま。もうお仕事終わったの?」

「あぁ。もうすぐ終わるんだよ」

「そうなの。ごくろーさまでしゅ」

「うん。君が一緒に来てくれたら、それで終了なのさ」

「え?」



 チョコレートを袋に詰めていたら、おじさんが急に私を抱え上げた。


 なんだかよく分からない匂いがする布を鼻に押し当てられ、ふっと遠のいていく意識。



「ごめんなぁ」



 悲しそうにつぶやくおじさんの声が、最後に耳へ届いた。




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