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◇ ◇ ◇ ◇



「ほら、できたぞ」

「きゃー! オムライスー!」



 試しにスプーンを入れてみると、卵がフワァっと両側に裂けていく。その向こうにはチキンライスの赤い色が見え隠れしていた。


 しかも! 大人版のデカデカサイズ!


 ありがとうございます、ありがとうございます。



「なつきしゃんもおりょうり、じょうずねー!」

「まぁな。黒木に教えてもらった」

「ほぉー!」



 それはそれは、味が楽しみですね。

 それじゃあ、遠慮なくいただきます!



「……フワァートローウマウマー」

「なんだそれ」



 美味しいってことだよ!


 巳鶴さんも食べたいの? そんなこっちをジッと見て。

 仕方ない。ちょこっとだけよ?



「大丈夫ですよ。全部食べてしまって構いません」

「むむ。おいしいよ?」

「お腹が減ってないので大丈夫です」



 そう? もったいない。

 夏生さんが料理してくれることなんて、なかなかないのに。


 ……あ、そうだ。



「ねぇねぇ。くろきしゃんって、なんでるいおねえちゃまのところではたらいてるの?」

「……」



 あれ? もしかして、聞いちゃいけないことだったの?


 顔を一斉に曇らせた皆の表情を見て、むくむくと罪悪感が。


 ご、ごめんなさい。



「なし! いまのしつもんなし!」

「別に構いやしねぇ。皆知ってんだから、いつかは耳にも入るだろうしな。余計な脚色ついた話を聞くよりも、正しい話を教えといてやる」



 ごくり。


 なかなかに深刻そうな話が出てきそうなので、思わずつばを飲み込んだ。



「黒木がここを辞めたのは、今から三年前だ。三年前の夏、あいつはある女と街中を歩いている時に、その女のストーカーだった野郎に背後からされた」

「えっ!?」

「幸い、防弾チョッキとか着こんでいたから、命に別状はなかった。だが……暴れるストーカー野郎を取り押さえる時に負った利き手の手首の傷だけはどうにもならなかったんだよ。重いもの、こんだけの人数の食材の入ったフライパンとかな、それを思うように振るえなくなったアイツは自ら料理長の座を降り、ここすら辞めた」

「……」



 お、思った以上にヘビーだった!


 でも、良かったぁ。黒木さんが死ななくって。

 その時のストーカー、目の前に連れてきてくれたら、私が報復してあげるのに!



「そんで、その時の女ってのが瑠衣だ」

「る、るいおねーちゃま!?」

「だから、黒木を慕ってる薫からは目の敵にされてるってわけだ。まぁ、元々瑠衣の性格上、薫で遊んでたからけむたがられてはいたがな。あぁ、瑠衣はあの事件のことをすっかり忘れてるからな。間違っても口に出すんじゃねぇぞ? 目の前で自分の顔見知りが刺されりゃ、一般人は当然自己防衛として忘れようと身体が反応するさ。この一件、薫以外は誰も瑠衣が悪いなんて思っちゃいねぇよ。悪いのはストーカー野郎だ。現に、黒木の再就職先は瑠衣んとこだろう?」



 確かに。いくら心が広い聖人君子でも、嫌いな人のところで働こうなんて思わないだろう。


 それに、薫くんが怒ってるのは、黒木さんがここを辞める要因になったのが瑠衣さんだったからじゃなくって、ここを辞めて瑠衣さんのところで働きだしたからっていう方だと思うなぁ。

 自分は一緒に働けなくなったのに、姉弟子は一緒に働けてるの、ずるい! みたいな? 



「そんで、黒木が瑠衣んとこに再就職した理由だがな。別におかしくもなんともねぇ。あいつが瑠衣にれてんだよ」

「ほっ!」

「瑠衣はあの見た目だしなぁ。金もあるってんで妙な輩に近寄られやすいからな。気が気じゃねぇんだろ。これも瑠衣には言うなよ?」

「……ほほぅ? りょうかいでーす」



 別に邪魔なんかしないよ。

 だから疑り深い目を向けてこられるのは心外です!


 ……大好きな人達には幸せになってもらわねば。ウッヒッヒ。



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