13



 縁側に盛り付けが終わったお月見団子を並べ、庭には立食用にテーブルが出された。取ってきたススキを花瓶にいれ、三宝の横に置く。お月見パーティーの準備は順調に進んでいった。



「おなかすいたねぇ」

「まだ見回り行ってはるから、待っとかな」

「はーい」



 後の料理は自分達で作るからと厨房を追い出された綾芽と一緒に、縁側でみんなが帰ってくるのを待つ間がとても長く感じる。


 その間にも運ばれてくる料理。

 早めに作っておいても大丈夫なサラダとか、お酒のつまみの枝豆とか。何かの魚のカルパッチョも作っていたけど、あれはまだ冷蔵庫の中かな?


 グギュルグルグルルルルルルゥ



「ほんま腹ん中に時計入れとるんと違う?」

「えへへ」



 このお腹の虫。いつもの夕食の時間、一時間前をお知らせしました。



「おっ、ちょうどいい所にいるじゃねーか。ちょっと手伝え」



 夏生さんが庭を通りかかり、クイッとあごで門の方を指した。



「えー? なんです? この子の見張り中なんやけど」

「みはりっ!?」



 おもりされてるんじゃなくて、見張りされとったんか、私!



「ならチビ、お前も来い」

「ういー」

「「は?」」

「りょーかいでっす!」



 か、海斗さんの真似しただけなのに。綾芽も夏生さんも怖い。




 夏生さんについて門を出ていくと、隣の駐車場にトランクが空いた一台の車が止めてあった。


 その横には劉さんと……んん?


 どこかで見たことがある猫背のお兄さんが立っている。マスクとグラサンで顔を隠した姿は怪しげな風貌であることは言うまでもない。

 そのお兄さんも私の姿を見て、途端に慌てているのが分かった。そわそわとしきりに周囲を見渡している。



「わたし、みやびでしゅ。だぁれ?」

「あ、え……兄弟【兄者】」

「這個孩子不記住【この子は何も覚えてないよ】」

「あー」



 なぁに? その、“あー”は。



「はじめまして、子瑛しえい、いいます」

「しえーさん? しえーさんとりゅーはおんなじくにのひと?」

「そう。さいきん、きた」

「そっかー。よろしくおねがいしましゅ」



 お近づきのハグ――を、しようとしたら、全力で避けられた。


 そっか、あんまり人からは触られたくない人だったのか。

 失敗失敗。ごめんなさい。



「みやび、くる」

「はいはーい」



 劉さんに代わりに抱きかかえてもらうと、子瑛さんからなんだか熱視線を浴びているような気がする。


 もしかして、たった一人の同郷者がとられたみたいでイヤ?

 それはすまなんだ。



「在擔心什麼?【なにを恐れている?】」

「我怕其他前辈嫉妒【他の先輩からの嫉妬です】」

「是愚蠢的家夥【バカなやつめ】」



 二人の間でよく分からない会話がされている間にも、綾芽は夏生さんにキリキリ働かされている。仕事はどうやらトランクに詰められていた大量のお酒運びだったようだ。


 抱っこされて動けないから、とりあえず応援だけ。


 頑張れー!


 ……っとと。劉さん、いきなり子瑛さんに私を押し付けないで。

 ほら、子瑛さん固まって……んん?


 劉さんから子瑛さんにバトンタッチされて、子瑛さんの懐に潜り込むことになった私。至近距離から子瑛さんの顔を見ることに成功した。


 そして、その顔は……。


 子瑛さんの頬に手をあて、グラサンに手を伸ばした。



「……あーっ! あのときのおにいちゃま!」



 なんたる偶然。

 子瑛さんはスーパーで親切にしてくれたお兄さんでした。


 外されたグラサンを取り戻すのは諦め、子瑛さんは遠い目をして笑っていた。



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