11
大変だぁ。私の知らない人がいる。
「薫くん。調理器具の位置だけど、僕が知ってるのと変わってる?」
「全く変えてません! 全部そのままです! あ、チビの皿とかが増えたので、食器棚を一つ買い足して、食器類は動かしました。でも、言ってくれたら僕が出します!」
嬉々として見えない
他の調理人さん達もそんな薫くんを見て苦笑いしつつ、黒木さんの存在に嬉しそうにしている。
「ねぇねぇ」
「ん? なんや?」
「おにーさんがいると、かおるくんごきげんだね」
「あぁ、そらそうやろなぁ。なにせ黒木さん、ここの先代料理長やから」
「ほっ!」
なるほど。
それで薫くん、こんなに懐い……慕ってるんだ。
「じゃあ、湯を沸かしておいてくれる?」
「分かりました!」
「君はこっちでお団子作ろうね」
「あい!」
薫くんが早速鍋の準備をし始めた。鼻唄まで聞こえてきちゃってる。
瑠衣さんが来ると思って超絶不機嫌だったところに、自分の大好きな人も一緒に来てくれたら、そりゃあ嬉しいよねぇ。
それにしても……変わり過ぎて……ププッ。
「なによぅ。あの子ったら、まったく。私だって可愛がってやってるっていうのに」
「
「ふん」
瑠衣さん。残念ながら瑠衣さんに味方してくれる大人はいないみたい。
でも大丈夫! 瑠衣さんのこと、私は好きだよ!
度々厨房に入って料理をすることになったから、綾芽が日曜大工してくれて作ってくれた台を厨房の隅から持ってくる。
手も洗って、さぁ、準備万端です。
「はい、君が作る分はこっちね。ここに白玉粉と砂糖を入れてるから、まずはこれを軽く混ぜて」
「はぁーい」
混ぜるのは得意です、私。この小さい手でも問題なくできるから。
黒木さんは計量カップを取り出して、ちょっとずつ私が混ぜてるボウルの中に水を入れてくる。
一回、夏に瑠衣さん達と和菓子を作ったことがあるから分かるよ。
「みみたぶ、ぷにぷにのやわらかさになるまでねー」
「そうそう。……ほら、瑠衣さんも綾芽さんも動く!」
「えぇー。自分、見とるだけのつもりなんですけど」
「文句を垂れない! 夕食、抜きますか?」
「それはあかんやろー」
夕食を
それを黒木さんが手で制した。
「君と瑠衣さんはあっち」
「は?」
「え?」
黒木さんが指さす方を見ると、薫くんが凄い早さで手を動かしていた。
調理台のトレイの上にはラップが敷かれ、その上にはすでに丸められたお団子が所狭しと並べられている。
「この子だけで全員分作れるわけがないでしょう?」
「……えぇー! 私、雅ちゃんと作りに来たのにぃ」
「全員分て。ほんま、勘弁してや」
瑠衣さんも綾芽もぶつぶつ文句を言いながらも、大人しく薫くんの元へと向かった。
私だって、三人には負けていられない。
「ぷにぷになったー」
「じゃあ、今度はそれを丸めようか。一口大に作るんだよ?」
「あい」
一口大、一口大ね。了解です。
こねて、ちぎって、まるめて、こねて、ちぎって、まるめて。
……じゅる。
いかん。
「はいはい。まだ味見でもダメだよ。完成してからにしようね」
「……あい」
ぐぬぬ。おあずけかぁ。
餌を前に待てと言われるワンちゃん達の気持ちがよっく分かった。
「うん、これで最後だね」
「そーでしゅ」
「それじゃあ、これをお湯の中に入れてくるから、君はここから動いちゃダメだよ?」
「あい」
グギュルルルゥ
「……あはっ」
「……」
先に言っておこう。お腹の音の犯人は私です。
だって、なんかお腹が空いてきちゃったんだもの。生理現象なんだもの。仕方ない。
「お使いにきた日もパンケーキ、おかわりして二枚食べてたもんね」
「しーっ! しーっ!」
綾芽達はパンケーキを食べたことは知っていても、おかわりまでねだったことはまだ知らない。
常日頃、おやつも含めての栄養管理を徹底している薫くんにとって、それは聞き捨てならない発言だ。
今日もこのままいけば薫くんのおやつを食べられるのに、それがバレてしまえばおやつは当然なし。
そんな勿体ないことできるかって? できるはずがなかろう!
しかし、この必死の口留めは功を奏さず。
私のお腹の音を聞きつけた薫くんが冷蔵庫の中からプリンを出しかけたが、そのまま黙って戻された。
あぁ、プリン……また明日。
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