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□ □ □ □



 ふっふふーん。


 縁側で足をブラブラさせ、待つこと数十分。待ち人はまだ来ない。



「まだ来ないんやったら部屋の中で待っといてもえぇんちゃう?」

「ダーメ。いちばんにきづいておむかえするの」

「一番もなにも、門番が通さなあかんのやから、門番が一番やろ」

「おしごとのじゃまはダメ」

「……偉い偉い」



 綾芽はさっきまで隣で足を組んで座っていたけれど、とうとう縁側に寝っ転がってしまった。こらえ性のない人だ。


 今日は待ちに待ったお月見の日。

 神様に晴れるようにお願いしてたら、ちゃんと晴れにしてくれた。


 ありがとう、天の神様!



「ふあぁーっ」

「あやめ、ねちゃダメ」

「そうは言うても、こんな昼寝日和びよりの日に縁側におって眠くならん方がおかしいわ」

「もうすこしだけ! もうすこしだけ、まってて!」



 もうすぐ瑠衣さん来るから!

 私だけじゃ薫くんと瑠衣さんが険悪ムードになった時、ちゃんと止められるか不安だから、綾芽には絶対一緒にいてもらわなきゃ。薫くん、今日すでに不機嫌だし。



「あ、車の音してるやん。来はったんとちゃう?」

「ホント!?」



 綾芽がそう言ってから数分後、門に二人組の男女の姿が見えた。



「みやびちゃーん!」



 ホントだ!

 しかも、瑠衣さんだけじゃなくて、あの店員のお兄さんもいる!



「ん? なんや。誰かと思えば、黒木さんやないの」

「やぁ。今日は荷物持ち兼、運転手兼、雑用係としてり出されてね」

「そらお疲れさん。ほな自分、ちょっと寝ますわ。もう来たからえぇやろ?」



 綾芽が起き上がり、軽くびをして私に問うた。



「かおるおにいちゃまとけんかになるからダメ」

「えー。喧嘩けんかなんかしいひんて。今日は・・・。なぁ? 黒木さん」

「そうだね。君の前で喧嘩なんて大人気ない真似、するわけないですよね?」

「……喧嘩なんて……いつもしてないわよ」



 瑠衣さん、声が小さくなってるよ。


 確かに、瑠衣さんからしてみれば喧嘩なんてしてないのかもしれないけど。だって、あれは完全に薫くんをあおって、おちょくって、遊んでるだけだもんね。



「黒木さん!」



 綾芽を何とかして動かそうと試行錯誤していた時。

 バタバタと門の向こうからくだんの薫くんが走って出てきた。



「どうしてここに!? 連絡してくれればいいのに! さ、上がってください。今、お茶出しますね?」



 見たことがないような笑みを浮かべ、薫くんは店員のお兄さん――黒木さんの腕を引いた。さりげに、黒木さんが持っていた荷物も半分受け取っている。


 ……薫くん。貴方は私の知ってる薫くん?



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