8


◇ ◇ ◇ ◇



 夢の中は便利だ。だって、行ったことのない所にもいけちゃう。

 たとえば、ここ。どこなんだろう?


 霧が立ち込める中で周りを見渡しても、何もない、誰もいない。



「みやびちゃーん」



 誰だろう? 声がする。

 聞いたことがあるような、ないような。懐かしいような、そうでないような。


 とりあえず、呼ばれているんだからそっちへ行ってみよう。



「待て。アレの呼びかけにはこたえるな」

「……どうして、ここにいるの?」



 私の夢の中なのに、アノ人がいた。

 今までは黒髪黒眼と色だけみればどこにでもいそうな人?だったけど、今は銀に近い白髪に赤眼。


 ……そっか。こっちがいわゆる本性・・、なんだ。


 似たような白髪に赤眼でも、巳鶴さんにはない人外感がこれでもかというほどただよっている。そう考えれば考えるほど、違和感というものが全くなかった。

 


「みやびちゃーん」



 まただ。

 霧の向こうから誰かが私を呼んでいる。


 そちらに足を向けようとすると、肩を掴んで止められた。



「そなたはここを夢の中だと思っているようだが、そうではない。ここは夢とうつつの境の場。アレは我が友がお前を探し、呼ばう声。前に言っていた友神だ。優姫が説得したくらいで聞き届けるような者ではないと思ってはいたが」

「……なんてこった」

「蛇神は執念深い。一度ねらいをつければ、想いをげるまで諦めん」

「だれのせいだとおもってるの?」



 その間も呼ぶ声が聞こえてくる。



「早く目を覚ませ。向こうで過ごしているうちはまだ目くらましになっている」



 ……私のうらぶしを全く意に介せず、よくもまぁスルーしてくれたもんだ。


 まだまだ文句の一つも言い足らないと口を開くと、両目を片手でスッとおおわれた。すると、私の意思に反して、みるみるうちに意識がここから遠ざかっていく。



「良いな? あの声には応えるな」



 最後に聞こえてきた声に、“貴方あなたの声にもな”と思ったのは、今の私にできる精一杯の反抗だった。



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