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◆ ◆ ◆ ◆



 ふぅ。ここらで一休みとしましょうか。


 母屋にある厨房でなにか軽食をもらおうと離れを出て、母屋の廊下を歩いている時だった。



「おい。チビが泣いてるんだとよ」

「雅が? 一体どうしたんだ?」

「俺もついさっき聞いたばかりなんだけどな。なんでも、さっきチビが帰ってきた時に、綾芽さんがほんの冗談のつもりで隠れたんだと。俺達も刀の手入れしてだろ? それで誰もいなくなったと思ったのか、びっくりして泣いちまったらしい。今、綾芽さんの部屋にいるから、ちょっと様子見にいってみようぜ」

「おぉ」



 部屋から出てきた二人組と丁度鉢合わせた。

 私に気付いた彼らはゲッと顔を引きつらせ、部屋の中へ足を引き戻していこうとする。



「お待ちなさい」



 ススッと閉められていく障子をガッと掴むと、中からヒッと悲鳴らしきものが聞こえてきた。

 でも、今はそんなこと、気にする必要もない些事さじに過ぎない。



「今、貴方達が話していたのは本当ですか?」

「は、はいぃ」



 可愛らしい願い事は度々すれど、子供らしく泣くことは滅多にないあの子が泣いた?


 ……綾芽さんはご自分があの子にとってどんな存在なのか、まったく理解できていないようですね。


 右も左も分からない土地、しかも戦場で。幼い子供が一人放りだされて平気でいられるはずがない。きっと、本当に怖かったはず。

 そんな時、そこから助け出してくれただけでなく、その後の面倒まで見てくれる彼を親のようにしたうのも無理ないでしょうに。



「今さらですが、彼にはきちんと言い聞かせなければ。……邪魔をしました」

「い、いえ」

「お気になさらず」



 研究も一段落つきましたし、綾芽さんも部屋にいるようですし。

 ゆっくりと、お話しする時間が持てそうですね。


 そう、ゆっくりと。



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