5
急げ急げ急げーっ!
この変人さんのせいで、余計な時間を食ってしまった。
時間が分かるものは何も持っていないからあれだけど、腹時計的にはお屋敷を出てからもう三十分は経っている。もうそろそろ戻ってくるという綾芽達よりも早く帰らねばならないというのに、気ばかりが
空いている私の右手は、やや前向き加減になっても離そうとしない変人さんがさっきから握ったままだ。無駄口を叩かず、大人しくついてきてくれて本当に助かる。
すぐそこまで見えてきた門まで、バタバタと急ぎ足で駆けていく。門の所にいた門番さん達に声をかけるのもそこそこに、玄関へ続く小道を
そして、この買い出しにもようやくゴールの瞬間がやってきた。
「つい……たー」
玄関の戸を勢いよく開け、達成感に満ち
いたのだ。鬼が。いや、夏生さんが。
私の帰りを待ち受けるかのように上がり
「一人で出かける散歩は楽しかったか?」
「……た、ただいまもどりました」
「で? どこをほっつき歩いてたかはその袋を見れば分かる」
「あい」
えぇい! 私が悪かったんだ。お
……やっぱり、できればお説教三十分コースでお願いします。
夏生さんは変人さんをチラリと見て、
訳すと、誰だ、こいつは。ということですね? 了解です。
「……」
で、結局のところ、誰なんだっけ? 変人さんです?
駄目駄目。そんな紹介したら、まず間違いなく夏生さんから絶対零度の眼差しを
……ブルルルルッ あっ、悪寒が。
私のその様子を見て、変人さんは器用に
「この者はお前が世話になっている人間か?」
「え? あい。そーでしゅ」
そう答えると、変人さんはズイッと私の前に出てきた。
「我が娘が世話になった。連れ帰る故、
「は? 娘?」
ちょっと待て。
いかん。リハーサルというものをすべきだった。
違う。違うんだよ、夏生さん。この人、お父さんじゃないから。絶対違うから。
だから、そんな冷ややかな視線を送ってくるのはやめてください。ガラスのハートなんだよ、私の心臓って。簡単に粉々になっちゃうんだよ。
……誰のがだって?とか突っ込んだ人。後で倉庫裏に集合しようか。話がある。
一方、夏生さんはブルブルと首を振る私を半眼で見て、視線を変人さんに移した。
「違ぇって言ってるぞ?」
「うむ。久しぶりの再会に照れておるのだろう」
どこからそんな妄想生まれたよ!?
……あーやーめー! あやめさーん! 早く帰ってきてー! というか、この状況、誰でもいいから助けておくれー!
「ちび、帰ってきたの?」
「かおるおにーちゃ!」
そんな願いが多少なりとも通じたのか、薫くんが奥からひょっこり出てきた。
目にも止まらぬ早さには程遠いけど、それなりの早さで靴を脱ぎ捨て、びゅんっと薫くんの背後に回る私。薫くんの服をぎゅっと
全く状況が分からず、私を人差し指で指差しつつ夏生さんの方を見る薫くんは、面倒くささ半分困惑半分といった表情を浮かべている。
「なに? これ」
「知らん」
夏生さん! ちゃんと状況説明! 超面倒くさいって顔に出てる!
つ、疲れた。
なんとかここに至る経緯を夏生さんと薫くんに説明し終えた。
「それで、結局あんたは誰なの?」
そうなのだ。そこなのだよ。私達が一番に確認すべき点は。
しかし、問うても帰ってくるのは、私のパパさんだという頓珍漢な答えのみ。
これはもう警察の御厄介ではなくて、精神科のお医者様のところへ連れて行った方がいいのかしらん。
「ただいま戻りましたよって……どないしはったん?」
「誰だ? こいつ」
いつまでも玄関口で話していたものだから、仕事から帰ってきた綾芽と海斗さんにばったりと鉢合わせた。海斗さんも別件で外に出ていたから、近くで合流したのだろう。
二人も二人で、変人さんを除いた私達三人が何とも言えない顔で出迎えたのを見て、何かを悟ったらしい。
「とりあえず、中入りましょ。薫、お茶くれへん?」
「分かったよ。海斗は?」
「俺もよろしくー」
「了解」
薫くんは助かったとばかりに引き受け、厨房へ引っ込んでいった。
「で? 君はなんでコンビニの袋なんて持っとるん?」
「……あ」
「ん?」
いやん。怖ーい。……はい、後でしっかり怒られます。
とほほ。結局綾芽に怒られるだなんて、一体何のために頑張ったのか。
んん? あれ?
これって私、骨折り損のくたびれもうけ……いやいやむしろ、くたびれ感増す材料自ら背負ってきた?
今日の占いは一位だったのに、いい結果の時って当たらないもんだなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます