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 「あら? 召し上がらないの?」


 「あー……あんまり人が作ったのって食べたことないんだよねー」



 朝餉あさげの席にはつくものの、一向に箸を動かそうとしない紫輝にお紺が尋ねた。


 箸で卵焼きをツンツクと刺すばかりでそれを口にいれようだなんて考えてもいないようだ。



 「人が作ったのって……ご両親とかが作ったのは?」


 「……両親は生まれた時からいないんだよねー。天涯孤独ってやつ? まぁ、そのおかげで今、組織の一員として働けて生活に何不自由なく暮らせてるんだけど」


 「……ごめんなさい」


 「謝らなくてもいいよー? この時代の方がそういう人っていっぱいいそうだし」


 「この時代?」



 紫輝が口にした失言に、聡明なお紺はやはり首を傾げて反応した。



 「紫輝。おしゃべりはそこまでだ。黙ってさっさと食え」



 同じ時代に生きている、ということになっているのに、紫輝の言い方だと、まるで別の時代の人間であるかのようにとらえることができる。


 まぁ、それは真実、変えようのない事実なのだが。


 お紺にはこれ以上厄介事に関わらせるわけにはいかない。


 事実を知るのは自分と紫輝だけで十分だ。



 蛍はそれ以上の紫輝の失言を抑えるために紫輝に厳しい視線を送った。



 「ごめんってー。そんな睨まないでよー」



 紫輝はブツブツ言いながら卵焼きを小さく切り分け、ジッと見つめた後えいやっと口に運んだ。


 お紺は感想が気になるのか、その様子をしかと見届けている。



 「……これ、なんて言うの?」


 「これ? 卵焼きって言うのよ」


 「ふぅん。……まぁまぁだね」



 口ではそう言いつつも、先ほどまでは小さく切っていた卵焼きも、残りはまとめて口の中へ放り込まれた。


 食べている時の紫輝の顔も、心なしかいつもの何を考えているか分からない笑みではなく、純粋に味を楽しんでいる笑みだ。


 お紺もそれが分かるのか、ニコニコと自分の分を摘んでいる。



 「うん、決めた。お婆さんも何かあっても殺さないよ。約束するね」


 「まぁ。それは嬉しいわね」


 「だって蛍さんが殺しちゃダメって言うし、僕も結構気に入ったしー」


 「あらあら」



 あらあら、ではない。


 本気ではなかったとはいえ、一度は自分に銃口を向けた相手にこんなにも親切にできるなんて。



 (心根が優しいというか、懐が広いというか)



 ふふふと笑うお紺と普段よりも多少は人間らしく笑う紫輝を見て、蛍の心中は溜息にまみれていた。



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