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 「ま、そういうわけだから、当分君の側にくっついてることにするよー」


 「はあっ!?」


 「だってー、何かの拍子に君だけ元の時代に戻られても困るじゃーん? どっちかっていうと、僕の方が先に戻りたいくらいだしー」



 そう言った後、ナイトは目を周囲にチラリと向けた。



 (七……いや、八人か)



 竹林を掻き分けて男達が出てきた。


 どう見ても堅気の奴らではない風体だ。



 「おいおい。このご時世に異人の格好なんてしやがって」


 「こりゃあ、こらしめねぇとなぁ」


 「有り金全部よこしな」



 (……浪士、か)



 蛍が毎度お馴染みのパターンに呆れて物も言えずにいると、ナイトがより笑みを深くして口を開いた。



 「ねぇ、君達強いー?」


 「はぁ!? そのお綺麗な顔に傷つけられたくなかったら、さっさと


 「へぇー。……傷、付けてくれるんだぁー?」


 は、何……がっ、……はっ…」



 ナイトは銃を取り出すことなく、男の腹に蹴りを一撃食らわせた後、肩を掴んで引き寄せ、顔面に膝を叩き込んだ。



 「ねぇ、僕の顔に傷付けてくれるんじゃないのー? あ、身体でもいいんだけどねー」



 その男の髪を引き掴んでポイっと投げ出し、本当に楽しそうに男達を痛めつけていく。


 そして、当然のようにナイトには顔どころか身体にすら傷一つついていない。


 むしろ、指一本触れさせていない。



 「何なんだよ、こいつっ! 化けもんかよっ!」


 「おいっ! 退くぞっ!」


 「ま、待てっ! 待ってくれっ!」



 動けなくなった男達をまだ辛うじて動ける仲間が肩を貸して、一目散に逃げていった。



 「あーぁ、行っちゃった。つまんないなー」



 道端に落ちていた小石をコツンコツンと蹴る姿に、先程までの鬼神じみた空気はない。


 言うなれば、オモチャを取り上げられた子供の様だ。



 「ここ涼しいなぁー。僕のお気に入りの場所にしよーっと。さ、戻ろうよー」



 本気でついてくるらしいナイトに、蛍は心底嫌そうな目を向けた。



 「ねー、僕、こっちではうーん、紫輝しき。うん、朝霞紫輝にするー」


 「は?」


 「僕の名前ー。だから紫輝って呼んでねー?」


 「朝霞を名乗るつもりか? 朝霞の私を殺そうとしておいて」


 「細かいことは気にしたら駄目でしょー? それに言ったじゃん。君は殺さないって。っていうか殺せないよー」



 帰り方も分かんないしーと、唇を尖らせて言うナイト……紫輝の言葉に確かに嘘はない。


 ここで放っておいて屋敷に戻っても、どうせついてくるだろう。



 蛍はトッと地面を蹴り、刀を抜いたそのままの勢いで紫輝の首筋に刃を当てた。


 首筋からは時を待たずしてプクリと南天の実のような赤い血がにじみ出てきている。


 しかし、紫輝はそんなものを意にも介さず、かえって面白いものを見るかのように目を輝かせた。



 「……へぇー。やっぱり、朝霞の人間は違うなぁー。ゾクゾクしちゃうよ」

 

 「黙れ。貴様、変態か。……お紺さんを危険な目に合わせてみろ。その時は私が先にお前を殺す」


 「あのお婆さんに興味はないよ。さっきのは君が大人しく来てくれないからちょっと脅しただけー」


 「……ちっ」



 (そういうのが余計にタチが悪い)



 それはつまり、今後もそういう機会があれば遠慮なくその手段をとるということに他ならない。


 脅すにしても、さっきの言動だ。


 まこと、暗殺者というか、紫輝という男が分からない。



 鼻唄混じりに辺りを見回す紫輝に、蛍は眉が寄っていくのを抑えることができなかった。



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