初めから

 凛は落ち着き、ルイナの肩に手を添えて目を瞑りながら身体に力を入れていた。


「どうだ?」

「……ダメだわ。回復できない」


 目を開け、ダングルの方に顔を向けてそう言った凜。


「そうか」


 少し残念そうな顔をするダングル。


「リンちゃんありがとうね。でも、このくらいの傷はへっちゃらよ~」

「でも、ルナさん……」

「……もう、泣き虫なんだから。大丈夫よ。傷なんて安静にしていれば治るわ」

「う、うん」


 肩には既に包帯が巻かれ、傷跡は見えない。


「……」


 一人気まずい感じで凛を見る者がいた。

 デイルである。


 リンもデイルの視線を感じ、二人は目と目が合う。


「……」

「……」


 何も言わず、無言の時間が過ぎる。


「いつまで見合っておるんだ……」


 ダングルが呟くように言葉を話す。


「「……」」


 二人から『助けて……』という意思が込められた視線を送られる。


「はぁ~」


 なんでワシが……。

 と、言葉に出てはいないが、ため息にそのような感情が込められていた。


「……最初から始めればよいだろう」


 凛は初めはダングルの言葉を理解していなかったが、数秒後に理解した。


「……ふぅ~。……私、花々凛です」

「私はデイル。魔族よ。……本当にごめんなさい」


 頭の角の先端がリンの方に向いた。


 日本式の謝罪の仕方だった。

 腰を九十度曲げ、誠心誠意の思いを込めた謝罪。


 凛はデイルの姿を見て、力が抜けたように少しフラッとした。


「リン!?」


 ダングルが支えようとしたが、必要はなかった。


「……私こそ、ごめんなさい。アナタを殺そうとしたわ」

「あなた……!?」

「リン!?」

「リンちゃん……」


 全員が警戒のレベルを上げた。


「……心配しないで。今の私は怒ってないから」

「……」

「凛が謝りなさいって言ってる気がして出てきたのよ。私のしでかした事だしね」


 無意識に後ろに下がろうとするデイル。

 今の凛の雰囲気は怖いのだろう。


「本当にごめんなさい」


 デイルがしたように、腰を曲げて謝る凛。


「……謝罪を受け入れるわ」

「……そう。良かった」


 二人は握手を交わす。


「……あぁ。忘れるところだった」


 そう言うと、凛はルイナの方に近寄った。


「ダンさん? どうしたの?」


 ルイナと凛の間に入るダングル。


「何をする気だ」

「……傷を治すのよ。私なりの謝罪のつもりよ」

「……」

「大丈夫よ、アナタ」

「ルイナ……」


 ダングルはルイナの強い目を見て、その場を少しズレた。


「……ごめんなさい。ルイさん」

「アナタはやっぱりリンちゃんね。安心したわ」


 笑顔を受けるルイナ。


「……どうかしら? 凛は人を殺そうとするかしら?」


 ルイナの肩に手を添える。

 それと同時に手から淡い緑の光が漏れ出す。


「リンちゃんは神様でも偉人でも英雄でもないただの女の子よ? 普通の人なら人を殺そうとする程の憎しみを持つ事は普通の事よ? 何もおかしい事はないわ」

「……ありがとう、ルイさん」


 凛の手が離れる。


「ルイさん。凛は……。私は普通の女の子よ。この力もなぜあるかも分からない。だからもしも私が……」

「大丈夫よ。私がちゃんと叱るわ。アナタがもし悪い方に行ったら何度でも正しい方に導いてあげる」


 凜はニッコリと笑うと、フッと身体から力が抜けた。


 ルイナの方に倒れ、ルイナが優しく抱きしめた。

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