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 ダングルの話が終わり、凛は一人になりたいとダングルに言うと以前にセティーニャが使っていた部屋に通された。

 荷物はそれほど置かれていなく、ベットとクローゼットと机と小さなタンスしかなかった。


 クローゼットとタンスには物は入っていない。


 凛はベットに横になっていた。


「……父さん。……母さん」


 凛は軽くホームシックになっていた。


 ―コンッコン。


 ドアを叩く音がした。

 音の強さからダングルではなく、ルイナだと予想した。


「……どうぞ」


 そして部屋に入ってきたのは予想通り、ルイナだった。


「……大丈夫?」

「……」


 凛は嘘でも大丈夫だとは言えなく、沈黙を選んだ。


「隣、いいかしら?」

「……」


 リンはルイナが座るスペースを作った。


「……ごめんなさいね。あの人は不器用なのよ。とても」

「……そう……ですね」


 思い出すのは初めて会った出来事だった。

 仲良くしよと言う言葉もたどたどしく、顔も変にひきつってる顔が浮かんだ。


「……ありがとう。リンちゃん」

「え!?」


 ルイナの言葉に耳を疑う凛。


「あの事件以降、あの人は笑顔をしなくなったわ。だけど、今日はあの人の笑顔が見る事が出来た。リンちゃんのおかげね」

「……私は。……私は何も……」


 そう言ってポロポロと涙を流す凛。


 ルイナは泣くリンをそっと抱きしめた。


「あの人から少し事情を聞いたわ。……心細いなら私が少しでも支えになるわ。お願い、無理はしないで……」


 そう言ってルイナも涙を流す。


「あ”ぁ”~~~!!……うぅぁあああぁぁぁぁぁ~~~~~~!!」


 二人は涙を流しあった。


 その二人が泣く部屋のドアの前で一人の老人が立っていた。

 言うまでもなく、ダングルである。


 二人の話を盗み聞きする気は全くなく、純粋に凛が心配で訪ねようとしたのだが先客がいた為、入る事を躊躇した。


 部屋の中から泣き声が聞こえると、ドアを開けようとする手を戻し、音を立てずに部屋を去るのであった。


 頬を伝う涙が、ダングルの心象を語っていた。


――――――


 早朝。

 凛はルイナと共にダングルの部屋に突入した。


「ダンさん!! 朝よ~~!!」

「なんじゃい! 朝から騒がしい!!」

「凛ちゃんが何か思いついたそうよ?」


 凛の横で笑顔で答えるルイナ。


「な、なんじゃ?」


 ダングルは女子二人から良い予感が全くしない事で不安な気持ちが増す。


「私!! この家に住むわ!!」

「わ~~い!」

「………………はぁ?」


 ダングルは凛が言った言葉をかみ砕いて寝ぼけた思考をゆっくりと動かした結果、意味が分からない。と出たようだ。


「ルナさんにこの家に住んで良いって言われたからこの家に住むわ! よろしくね! ダンさん」

「……ちょっと待て。ルイナよ。それは本当か?」

「えぇ!! 詳しい話を聞いたら住む家も着る服も無いって言うじゃない! しかもアナタ、この子を不安な気持ちのまま、城に連れて行こうとしてたなんて考えられないわ!」

「いや、しかしな~。城でも部屋を貸してもらえるし、衣食住には困らないと……」

「駄目よ!!リンちゃんは今日からこの家の家族です!!この決定は絶対です」

「じゃから……」

「生活が苦しいので剣を売りますよ?」

「よし。凛は家族じゃ!!」

「あははははは」


 夫婦のコントを見て、両親のじゃれ合いを思い出した凛はとてもいい笑顔で笑うのであった。

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