二年前
ダングルが重い口を開け、昔の話をする。
「今から二年前のある日、この街にモンスターが侵入する出来事があったんじゃ。この街には結界が施されいるからモンスターは入る事は出来ん。じゃが、出入り口は別じゃ」
街には東西南北に出入り口があり、その四か所には厳重な警備が敷かれている。 そこを通るのは人も多いが商人なども多く、商人は馬車を使う場合がある。
その馬車を牽くのは馬のようなモンスターである。
凛も街を散策した際に馬車を見かけ、馬ではない生き物がいる事に驚いた。
この出入り口以外に侵入経路は無く、羽を生やしたモンスターでさえ塀を超えて中に入る事は出来ない。
「一台の商人の馬車の片輪が壊れ、馬車の中にいた凶暴なモンスターが檻から脱走し、街に入ってしまった。じゃが、警備がしっかりと機能していた為に全てその場で倒す事が出来た」
十匹程度の狼のようなモンスターは警備兵に全て首を切り落とされ倒された。
「じゃが、その後が問題じゃった」
ダングルは机の上で両拳を握る。
「警備兵はモンスターの死骸を外ではなく、下水に捨ててしまったのじゃ」
決して警備兵が怠慢だったのではく、モンスターの死骸は下水に捨てる習慣があったからだ。
「不運にもモンスターの死骸にメスがいたのじゃ。そして、出産が近かった。死んでいる事が明白な死骸だった為にろくに調べずに捨ててしまったんじゃな」
ダングルの握った拳を隣に座るルイナが手を添える。
「モンスターの子は下水で生まれ、成長した。半年で親と同じ大きさになり、外に出た」
凛は静かに聞く、ダングルの顔を見ながら。
「ことの発端はゴミが漁られるという小さな出来事が切っ掛けじゃった。そして、小さな家畜が襲われ、目撃情報も現れ、我らが捜索する事になった」
少し口調が荒くなり、声に怒りが入る。
「結果を言えばそのモンスターは全て倒す事が出来た。…………数十人の被害者を出してな」
「……数十人」
目を見開き、手で口を塞いで驚く凛。
「我らがしっかりとしていれば被害はゼロに出来たのじゃ!……ワシが手を抜かなければ……」
涙を浮かべるダングル。
「……ダンさん」
小さくダングルの名を呟く凛。
「すまん。取り乱した。……我らはこの事件がモンスターではなく、この街の餓えた者達の仕業だと思い込み、捜索に手を抜いていた。あまりに厳しく取り締まると生活も出来ん者達がでるからじゃ」
凛はホームレスのような人たちと思っていたが、おおむね正しい。
厳しく取り締まれば、死んでしまう者達が出る為、ダングルは部下に手を抜くように言っていた。
「そして、初めて人的被害に遭ったのは……ワシらの孫じゃった」
「……」
凛は声が出なかった。
「あの日は良い天気でなぁ。家の外で遊びに行ってくると言って飛び出して行ったんじゃ。……じゃが、帰って来んかった」
ルイナがダングルの隣で涙を流す。
「発見されたのは事件が解決した時じゃった」
奥歯を強く噛みしめ、無理やり声を出す。
「……孫はその時点では生きていたよ」
凛は嫌な予感がした。
「モンスターの……苗床になり、精神が死んでいた」
「そんな……」
凛は目に涙を浮かべ、首を左右に振った。
「孫は……最後に小さな声でワシに言ったよ……『殺して』とな」
「……」
凛の頬に涙が流れる。
「ワシは自分の剣で孫を―」
「もういいわ!!」
凛が大きな声を出してダングルの話を遮る。
誰も喋らず沈黙が流れる。
この沈黙を破ったのはダングルだった。
「話は終わりじゃ。……すまない。つまらない話を聞かせてしまって」
「……」
凛は両手で顔を覆い、顔を左右に振る事でダングルと対話した。
ルイナも涙を流していた。
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