出会い
凛は自分に意識が戻る事に戸惑いを隠せなかった。
夢から目覚めるような感覚が自分の死を否定し、動揺した事で覚醒が促されて目が覚める。
目が覚めた凛は起き上がる前に身体の異常を確認する。
これはもはや凛の癖の様なモノで、起きたら身体の異常を確認する習慣なのだ。
それが二十年間の毎朝だったのだから。
そこで凛は違和感を感じた。
正確には違和感がない事が凛にとって、途轍もない違和感であった。
腕を見れば注射の後がない事に気が付き、頭の違和感にも気が付いた。
頭を触るとサラサラと手に感触がある。
「……髪が……ある」
服を着ている事、靴も履いてる事も気が付き起き上がる。
「ここは……」
凛は辺りを見渡す。
そこは部屋で自分は祭壇の棺の中で寝ていた。
――ドン!!
「きゃー!!」
凛が起きた先の部屋に一つしかない扉が強い音と共に開かれた。
悲鳴を上げる凛だったが、人の気配がしたので目を向ける。
そして、そこにはダングルがいた。
……凛に剣を自分に向けたダングルが。
「……お主か」
そう言って剣を持ったまま凛の方へと歩いていく。
凛は動けなかった。
ダングルの目がどこまでも冷たく、自分を殺す気なのだと思ったからだ。
「あぁ……あぁあ……あうぅあ……」
近づくダングルを見て奥歯がガタガタとなる凛。
「……な!?」
何故か分からないが、ダングルが驚きカタカタと鎧を震わせた。
凛はただじっとしていた。
喋って怒らせたら切り殺されると思ったからだ。
「……セティーニャ」
ダングルの手から剣が落ちた。
――ガシャーン!
と言う音が部屋を反響し、大きな音になる。
凛も身体をびくつかせた。
ダングルは膝を付いた。
ダングルが膝を付いた事で顔の高さが逆転する。
凛はダングルの顔をしっかりと見る。
「……えっ!?」
ダングルは凛の顔を見て泣いたのだ。
凛は涙を流すダングルに声を掛けた。
「だ、大丈夫……ですか?」
ダングルはハッと目が覚めたように目を見開き、自分が泣いている事に気が付く。
「あ、あの……」
「……そうじゃな。そうじゃよな」
何か自分で納得したダングルは落ちていた剣を拾った。
凛は剣に脅え、緊張した表情をした。
だが、ダングルは拾った剣を鞘にしまい、その場で凛に頭を下げた。
「脅えさせてすまなかった!!……できれば名前を教えてはくれんだろうか」
凛は目の前のダングルの変わりように戸惑いを隠せなかった。
「……頼む。私はお主に危害を加えん!」
更に頼み込むダングル。
その圧に凛は重い口を開けた。
「……えっと。あの……」
以前に凛が軽度のコミュ障である事を記したが、この場でも発揮した。
恐怖という感情も混ざり、言葉が出ない。
何を言ったら良いのかを頭で考えては気が変わって殺されてしまうんじゃないか?
と頭を過り、上手く言葉に出来ないのであった。
「あぁ。すまない。……名前を伺うなら最初に自分の名前を言うのが常か。ワシはダングルと言う。近しい者にはダンと呼ばれている。お主の名は?」
「えっと。……は、花々 凛です。えっと……凛と……呼ばれます」
「そうか。……リンか」
顔を上げたダングルの目を見た凛は殺されるという恐怖が無くなり、つっかえながらだが、名前を言った。
何故なら目の前にいるのはただのお爺さんだ。
と、凛は思ったからだ。
現にダングルの表情は柔らかくなり、親切な近所のお爺さんの様な雰囲気を出していた。
「リンよ。……急ですまんが、ワシについて来てはくれんか?」
「えぇ!?」
「安心して良い。お主はワシが命を懸けて守る。必ずじゃ」
凛はその言葉に力強さと心を感じた。
いろいろと考えていた凛だが、直観的に思った。
――この人は悪い人じゃないかも……。
そして。
「分かりました。ついて行きます」
「うむ。……もっと軽い感じで話しても良いのじゃぞ?あ、いや。ワシが怖いがらせてアレなのじゃが、これからよろしくと言う意味を込めてな?」
「えっと……?」
ダングルの言ってる事が正直、意味が分からない凛。
「えっとじゃな?……仲良く……せぬか?」
「……」
ダングルの表情は不安と凛を怖がらせないようにとの気遣いで強張り、かなり歪に笑顔をみせた。
凛はその表情を見て。
「アッハッハッハッハ!!」
笑うのであった。
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