ようこそ

 凛とダングルは朝食を済ませ、教会を出る為に一階の出口付近にいた。


「世話になったのう」

「いえいえ。神の祝福がありますように願っております」


 修道服を着た女性にダングルがお金らしきモノを渡すのを凛が横目で確認していた。


「ダンさん。その……」

「構わんよ。最初に会った時に言ったであろう?お主は客じゃ。遠慮はしなくてもよい」

「……うん」


 お金を払わせる行為には抵抗がある凛。


「元気がないぞ?どうした」

「うん!……何でもないわ。ありがとう、ダンさん!」

「うむ」


 ダングルはニカッと笑うと教会の大きなドアを開け、外に出た。


「うわ~~~~!!」


 教会を出でて街並みを初めて見る凛は大きな声を上げて歓喜した。

 町並みはこの世界では平凡な物で、二階建ての家は教会か宿屋かなど限られており一階建ての建物が多い。


 凛は外を確認していなかった。

 これはダングルが危険だと言って開ける事を止めた為だ。


 朝は凛が起きると同時にダングルがドアを閉め外を見る事が出来なかったのである。

 ただ凛は外の騒音などがしない為、のどかな村だと思い込んでいた。


 だが、実際は道もキレイに舗装され、家屋もキレイに並び道は人で一杯だった。


「ん?あぁそうじゃったな」

「え?なにが?」

「ようこそ『マミニャール帝国』へ」


 ――マミニャール帝国。……あぁ、やっぱりここは異世界だわ!! すごく神秘的だもの!!


 車イスで初めて行った夢の国を彷彿とさせるその光景は凛が感動するには十分で今は健康な身体で自由に歩き、散策する事が出来る。

 小学生が秘密基地にワクワクを覚える感覚と同じワクワクを凛は感じていた。


 顔は笑顔が溢れ、これまでにない程のトキメキを抑えられない凛。


「ダンさん!!」

「何じゃ?」

「予定変更よ!マミニャールの街並みを見るわよ~~!!」

「こら待て!……待たんか~い!!」


 凛の暴走が始まった。


「ダンさん!これ買って~」

「高いわ!!」

「え~。じゃ~これは?」

「あの……それは売り物じゃなんで」


 店員さんを困らせる凛。


「そうなの?」

「はぁ~。行くぞ!リン」

「あ!ちょ!ダンさん!!女の子をそんな簡単に持ち上げたらダメなのよ!!」


 流石は女の子だ。

 数々ある武器や防具や道具などには一切の興味を示さないのに綺麗な小物や装備品に目が行くのであった。

 そしてその全てが高額であった。


 凛はこの世界の文字を知らいので値段を見ても理解できないので、ダングルに全て欲しいを言い、全て却下された。


 このままでは今日中に城まで行けないと悟ったダングルは強硬手段に出た。

 ただ単にダングルに肩に担がれただけだが。


「……軽すぎる。もっと肉を食わんか。肉を」

「向こうの世界じゃ私は病弱な美少女だったのよ?太る以前の問題よ!」

「……」


 美少女という言葉に若干の抵抗を感じるダングルだが、その事を聞くと凛が怒ると何となく分かる為、口を閉じた。


「ダンさん。いつまで私を担いで移動するの?」

「城までじゃ」

「自分で歩くわ。ちょっとはしゃぎ過ぎたって反省してるし」

「……そうか」


 コレが男子であるネタを知っていたのなら「反省はしている。だが、後悔はしていない」と言い、ダングルを困らせるのだが今回は出番がなかったようだ。


「ん~~!!」


 ダングルに下された凛は軽く身体を伸ばす。


「……隙あり!!」

「させぬわ」

「あぁ!!」


 逃げ出そうとした凛を再び捕獲したダングル。


「私の完璧な演技が!!」

「まったく……」


 言葉は知らずとも行動で示すのが凛であった。


 そう言って凛を肩に担いだまま歩き出すダングル。


 ブツブツと文句を言う凛を暖かい目で見るダングルの表情は手の焼く孫を育てるお爺さんの顔だった。

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