吹き飛ばす

「……。……ろ!」

 

 ――もう朝なの? なんか身体が怠い。もう少しだけ寝かせて~。


「……きろ。起きろ。リン!」

「……はぇ?」


 目を覚ます凛。


 辺りに人はおらず、ダングルのみ。


「あれ?えっと?」

「覚えておらんか?……起きなくて良い。そのまま寝ておれ」


 ダングルは凛の意識が戻った事を確認し、そのまま寝るように促した。


「あ~。何となく覚えてるわ」

「……」


 渋い顔をするダングル。


「……どうしたの?ダンさん」


 凛はダングルの表情に気が付き質問をした。

 ダングルは髭を撫で、しばらくして口を開く。


「アレはお主だったのか?」

「さっき言った通りよ。私だけど私じゃないわ」

「どういう事だ?」

「ん~」


 寝ながら腕を組み、しばし考える。


「考えたけど、よく分かんないわ!」

「……お、お主」


 ピクピクと頬を痙攣させるダングルの表情を見て、少し焦る凛。


「分かんないモノは分かんないのよ!私も驚いてるし、訳が分かんないのよ~!」

「ハァ~。そう言う事にしておこう」


 凛に質問する事を諦めたダングル。

 少し肩を落とす。


「あはは!!」

「……どうしたのじゃ?急に笑いおって」


 満面の笑顔で答える凛。


「無事で良かったわ!ダンさん!」

「……そうじゃな」


 その言葉を受け、ダングルは髭を撫でながら上を見上げた。


「……少し疲れたわ。……眠い」

「寝るがいい。目が覚める頃には安全な場所じゃ」

「……エッチな事したら吹き飛ばすからね」

「せぬわ!!」

「あははは!!……おやすみ。ダンさん」

「……あぁ。おやすみ」


 凛は直ぐに寝息を立て、寝てしまった。


――――――


「……はぇ?」


 目が覚める凛。


「ふぇ?……ここは」


 自分がベットに寝ているのに気が付き周りを確認する。


「あら?目が覚めたのね」


 そう言って声を掛けた女性。

 服は修道着を着ていて顔が整っており、とても綺麗な人である。


「あ、えっと。おはようございます?」

「フフフ。おはようございます。もう太陽は沈んでしまいましたがね」


 凛は長年、人とのコミュニケーションを取る事が少なかった為、軽度のコミュ障である。

 いきなり目の前に知らない綺麗な女性を目の前にして、何も思いつかずに挨拶をしてしまったのであった。


「あはは……。そ、そうですよね~……」


 気まずい雰囲気が流れる。


「おぉ。目が覚めたか」

「ダンさん!」


 部屋にノックも無く入って来たダングル。


「どうしたのだ?」

「あ、えっと。……何でもない」


 少し恥ずかしくなって布団に潜った凛。


「フフフ。では、私は下にいますので」

「すまない。感謝する」


 修道着を着た女性は一礼して部屋を出た。


「ふ~」


 ベットの近くにあった椅子に座るダングル。


「ダンさん。ここはどこなの?」

「教会の中じゃ。ここならそこらの宿より安全じゃよ」

「ふ~ん」


 そう言って起き上がる凛。


「……そう言えばあの盗賊?達はどうなったの?」

「逃がしたよ。攻撃する気があれば容赦はせんかったがな」

「……そう」


 少しだけ嬉しそうな凛の表情を見て顔をしかめるダングル。


「……体調はどうだ?」

「ん~。向こうの世界にいた時より好調よ!」

「そ、そうか」


 日本にいた頃の凛の体調を知らないダングルは軽い返事しかできないのであった。


「あぁ!ダンさん!大変よ!!」

「ど、どうした」

「……お腹が空いたわ」


 しばしの沈黙。


「プッ。……クックック。アッハッハッハッハ!!」

「何よ!ダンさん!笑う事無いじゃない!!」


 顔を赤らめて恥ずかしがる凛。


「クックック。分かった。飯を持ってくる。そのまま待っていろ」

「は~い」


 部屋を出るダングル。


「……お父さん。お母さん。私は異世界に転生してしまいました」


 そう言いながらお腹がグ~と音を立て、ダングルがご飯を持って来るのを待つのであった。

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