序章
天気が良いから
親子とはとても思えない男女の二人組が歩いていた。
「リンよ。何でそんなに機嫌が良いのだ?」
「え?天気が良いからに決まってるじゃない!」
凛は笑顔で道を歩いていた。
鼻歌付きで。
「……本当に違う世界なのね」
ボソっと声を出す。
辺りは草原で石や地面がちらほら見え、家などはない。
「ふむ。せっかくじゃ、お主がいた世界の話を聞きたいのじゃが問題ないか?」
鎧を着て腰に剣を携えた衰えが全く姿を見せない爺さんが凛に質問をする。
「ないと思いますよ?えっと、ダングルさん」
「ダンで構わんよ」
「じゃ~ダンさんね!」
「うむ」
満面の笑みの凛につられてダングルも少し笑顔になる。
「私がいた世界について話せば良いのよね?」
「そうじゃ。念の為に言っておくがワシの興味じゃ」
「別に疑ってはないわよ~」
髪をかき上げながら少し頬を膨らませる凛。
「じゃ、じゃから念の為じゃよ!」
「あはは!……まぁ良いわ!」
慌てるダングルを見て笑い出す。
ダングルもからかわれた事を悟ると髭を撫でて少し不機嫌になった。
前を歩く凛はダングルの事を気にせずに話を始める。
「……私は生まれつき身体が弱くてね。二十歳で死んじゃったのよ」
「っ……」
いきなりハードな話を聞かされ答えに戸惑うダングル。
「これと言って満足な人生とは言えなかったけど……良い人生だったわ」
「……質問をしても?」
「良いわよ」
後ろを振り返らずに答える凛。
少しだけ声に元気がなくなった。
「なぜ、そう思える」
凛は振り返りダングルの目を見て答えた。
「両親が泣いて私の死を悲しんでくれたのよ?良い人生だったって事でしょう?」
「……」
「ダンさんは居るの?アナタが死んで泣いてくれる人が」
「……妻は泣いてくれる。……と思う」
ダングルはバツが悪そうに答えた。
「あははは!奥さん大切にしなくちゃダメよ?」
「ハッハッハ。……そうじゃな」
そう言って並んで歩く二人。
だが、ダングルの様子が変わった。
「下がれ!!」
剣を抜き、凛を守るように前に出た。
「え?どうしたの?ダンさん」
「……付けられてたか」
凛の質問に答えないダングル。
凛もダングルの身に纏う空気が先ほどのおじいちゃんの空気から戦人に変わり戸惑いを隠せない。
「出て来い!!さもなくば問答無用で斬るぞ!」
ダングルの声にビクっとする凛。
「どうも~山賊モドキで~す」
「子分で~す」
「子分二で~す」
「子分三で~す」
「子分二十三で~す」
そう言ってぞろぞろと出て来た者達。
「……こんな場所に山賊が出る訳もない。何者だ」
背後の凛を守るように敵との距離を取り、時間を稼ぐダングル。
「だから山賊モドキって言ってんだろう?」
「えっと。金目の物を置いてけ!さもなくば殺す!だっけ?」
「そうそう!似合ってるよ!お前!」
二十四人はキレイな鎧と剣を持ち、とても山賊とは思えない装備をしていた。
「反派閥の者か……。首謀者はザギオルだろう?」
「「「……」」」
盗賊と名乗る者達の目つきが変わった。
「分かりやすい……」
ダングルの後ろでボソッと凛が声を漏らす。
「ここでアンタと連れを殺せって話なんだよ。素直に殺されてくれないか?」
盗賊モドキ全員が剣を抜いた。
「無理な相談だ。……妻に土産を買って帰らんといかんのでな!」
「チッ!やれ!お前ら!」
二十四対一の戦いが始まった。
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