第4話

 断捨離に心して取り組むのである。


 まずは髪型。




 近所のお安い美容室は凄く混んで、五十分待ち。その間、仕事中の彼にメールをした。


『なんか傷つく』


 それはこんな理由があるから。


「母が言っていたよ、子供ができても連れてくるなって。遊びに行くのはいいんだよ。けど、もう子育てが終わった所に子供をあずけるのはどうかな」


 わかる、私が甘かった。子供を週に一度くらい親元にあずける母親になろうと企んでいたのは。


 でも「こないで」と言われると、傷つく。全部を拒絶されたみたいで。


 病気のせいか、私は人の言葉を過剰に悲劇的に受け取ることがある。


 今回も、私の受け取りかたが悪いのだろうか。


 謝りながら、そんな厳しい話ではないというメールをよこす彼に少しもやもやとしながら、番号を呼ばれ案内されたドレッサーに着席する。


 美容師さんはハキハキ早口で明るく話す人だった。


 仕事は何をしているのかと聞かれ、仕方なく若い時の仕事を話す。全く休みなく話す人であった。


「介護の仕事とか向いているんじゃない? 話しかたが優しいし」


「ちょっと事情があって仕事はできないんです」


 少なくとも、一般的な仕事は難しい。理解のある環境でなければ。


「え、ほら職業訓練とかもあるし」


 実は障害者なんですとも言えない。世間の理解はだいたいこんなものなので、笑ってごまかす。障害者手帳をもらい七年でようやく身につけた『落ち着いた対応』をすることができた。


「ありがとうございました」


 穏やかに店から送り出される。成長したな、自分、と思いなから、やがて反対の気持ちも出てくる。


 仕事かあ。


 自分にとっての仕事は、家事全般。


 もっと、しっかりしないと。




 帰り道、ゴミを捨てる専門誌をコンビニで買った。いてもたってもいられない気持ちにかられたのだ。どうしてだかわからないまま、断捨離を開始する。


 本棚から溢れている本も本棚の本も、ぐっと少なくしなくてはならない。彼氏の入居予定の部屋は狭いのだ。


 読んでいない本、もう読まない本を棚や箱から出しまとめる。


 どんどん山になり、富士山みたいになるから不思議だ。


 本棚くらいの箱がまるまると空き、小さな箱も空だ。本の富士山を眺めながら思った。私、できないことをしようとしてきたんだ。




 何も障害に理解がないのは健康な人だけではない。障害者本人ですら自分のことを理解していないのだ。


 私は甘かったのだと思いながら、少しもやもやが晴れた気持ちになる。




 彼との電話。


「断捨離はいいけど、巻き込まないでくれよ」


「勿論、寝室に物を置いていいよ。でもリビングには物を置かないでね」


「わかった。自分も物をどうするか少し見直してみるよ」


 巻き込む、という言い方にひっかかりを覚えながら、でもまあ見直すと言ってくれたのだからいいや、と思う。


 気持ちの断捨離ができると心地良く過ごせる。


 断捨離はこれからが本番である。


 富士山になった山からは外れた、大切な物達を片づけなくては。




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