3月22日 -Play ball!- 1/2
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新しい連載、とても楽しみです。世界観やキャラクターの面白さは勿論、込められた想いに泣けました……これを書くまでに君が経験してきたことを知っている分、ちょっと極まっちゃいました。
責任持って、描ききってください。とはいえ。
年度が明けたら、今度はお互いに受験生ですからね~、あんまり時間も取れなさそう。そこはちゃんとセーブしてほしいです、私と違って君には学校もありますし。いま早くに読ませてくれることよりも、一年後に君が晴れ晴れとした心で書いてくれることの方が大事です。
それに、この前から関わらせてもらっているミュージカルだって忙しいでしょう。こうやって、君の物語に遠くから参加できること、とても誇らしいです。とはいえ、あまりのめり込みすぎて、体調に支障がでないように。
君が今回の物語で描きたいこと。幸せな命をくれた世界に、何を返せるかということ。
ひとりでは成し得ないその答えは、きっと少なくない人も抱いているものです。私もそのひとりです。
信じてください。君を待っている人は、君が思うよりもずっと沢山います。そのためにも、未来を掴む戦い、一緒に頑張りましょうね。
……けど、差し当たって明日は、部活の集まりでしたか。
なんだろう、君はスポーツは苦手ってこと、読んでると実感するようになってきました。そんな君でも楽しく運動できるその場所、改めて素敵な所ですよね。
ぜひ全力で楽しんで、けど怪我には気をつけて。
*
「……という感じにプロットは固まったので、次の練習で意見を聞こうかと」
「追い出しスポーツ大会」なる合唱部の集まりが開催されるその日。会場の公民館へ向かう電車の中で、
ミュージカル企画。次の
「へえ、やっぱりすごいや、まれくんは……役決めとか練習とか、すごく楽しみ!」
はしゃいでいる詩葉とは対照的に、結樹は釈然としない顔だった。
「上手くまとまっているのは同意なんだが……
結樹の言うとおり、紡の協力があってこそ描けた物語だったが。
「斬り合い撃ち合い騙し合いだらけの話ばっかり読んでる訳じゃないんだよ、結樹さんと違って」
「悪かったな、人が死ぬ話ばかり読んでいて……しかしまあ、楽しくなりそうじゃん?」
いつになく上機嫌な結樹に、詩葉も「でしょでしょ!」とすり寄る。
夏頃には、壊れてしまうかに思えた景色だったが。
内心は変わりつつも、ゆるやかに三人での時間は続いていた。ふとしたときに、その心地よさに泣きそうになる。
とはいえ、人間模様は大きく変わった訳で。
「あ、ヒナちゃんだ」
駅の改札の先、詩葉を待ち構えていたらしい
「あの子のルートって反対側じゃなかったか……」
結樹は苦笑と共に陽向に手を振ってから、詩葉の肩を押す。
「行ってやれ」
「うん、お先ね」
軽い足取りで陽向へ駆け寄っていく詩葉の後ろを、のんびりと歩きながら。仲睦まじい二人のことが、結樹にはどう見えているのだろうと不思議になる。
同性愛の存在を知りつつ、差別の意図はなく、それでも身近にいるとは思わず……結樹は以前の僕と同じく、そんなタイプだと思っていたが。
「……似合うな、あの子たち」
そう呟いた、眼差しの奥。恐らくは二人の関係性も、あるいは詩葉が自身に向けていた感情も、察しているのかもしれない。
しかし、それを確かめることはしないと決めていた。詩葉と決めたのだ、詩葉の本当の気持ちも、僕と詩葉の間にあったことも、結樹には伝えない――友達のままでいよう、と。
だからこそ、戯けてパスを出す。
「僕らも出会って五年たって、たいがいお似合いじゃありません?」
中学時代にクラスメイトから冷やかされて結樹が激怒していたネタを引っ張ると、じろりと睨まれる――その頃から「飯田は友人としても仲間としても感謝してるが、絶対に男としては見ない」という宣言はもらっていたので、完全にボケというか振りである。
「……その首、六条河原が似合いそうだな?」
「待って、ここ平成、戦国じゃない」
「担当のサンソン氏は腕利きだから安心してほしい」
「革命期のフランスでもねえよ!」
そんな不毛な会話を挟みつつ、会場に到着する。
*
春から地元を出る卒業組が多いことから、その前に集まろうという催しは去年もあったが、今年はそこにプチ運動会が加わった。発端は
ちなみに種目は、ドッジボールにバレーボールにバスケットボールという定番である。希和にとっては球技というだけで活躍は望めないが、何をやっても盛り上がるムードだろうという予感もあった。
実際に。
「ここでサプライズ、MVPにはお兄の塾バイト代から賞金が!!」
「出ない!!」
「え~、
「お、おに……どこから突っ込めと?」
おまけに和可奈まで便乗する始末だった。
「よ~し、和可奈ちゃんは陽子お兄さんとデートだ」
「え、いいの
「俺に聞かないでください」
きっと何年経っても、この賑やかさは変わらないのだろうと思いながら、全員が揃うのを待つ。
まずは二チームに分かれてのドッジボール。同性で体格や運動経験が近い同士でジャンケンをし、その勝敗でチーム分けをすることになっていたのだが、ひとつ問題があった。
五学年で十八人、全体は偶数。しかし性別で見ると、男子が七人で女子が十一人。
「という訳で、誰かが女子扱いになる訳だけど……そうだね、多数決で」
なんとなく流れを察しつつも、倉名の仕切りに従って一斉指名が始まる。
「せーの」
全会一致で希和だった。身長でいえば倉名が最も小柄だが、運動能力全体で見れば、ぶっちぎりで僕がワーストだと(僕自身も含めて)全員が判断したらしい、完全なる予定調和である。
「今日だけは百合に混ざれますよ希さん」
「男の娘は百合じゃないってキレてたの君だよね」
同じように女子側で「男子扱い」となった香永とジャンケン。ちなみに彼女とは以前に腕相撲で対決したが、散々遊ばれた挙げ句に瞬殺された。
そうして決まった初戦の編成。二世代の部長がばらけたため、その名前がチーム呼びになり。
「和可奈チーム、みんな頑張ろうね!」
弦賀、和可奈、
「陽子軍……気合い入れっぞオラァ!!」
倉名、陽子、
「余計なこと考えて足引っ張ったら許しませんからね」
「逃げ専だから安心して、君こそどうなの」
「苦手ですけど、なんとでもなります、します」
勝敗条件は一方の全滅、または十五分経過時の生存数だ。
各コートに別れ、外野が散開。真田と中村のジャンプボールで開始、という段取りになる。
「それでは皆様――Are you ready to fight?」
トス役の清水が呼びかけ、確認が取れたところで腰を沈める。
「せー、の!」
高く上がったボールが落ちてきたのを狙い、同時にジャンプ。
「――こいっ」
「もらいっ」
掌ふたつ分、真田が高かった。叩き落とされたボールを、待ち構えていた陽子がキャッチ。
「さあ――戦闘開始だぜ、お前ら!」
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