第4話 矛盾と転覆の探究者
ああ、アベハ。
僕のカワイイ、小さなアベハ。
僕が全て間違っていた。君の人生を奪ったのは
だけどこれだけは誤解しないで欲しい。
僕は君の兄として君だけには幸せになって欲しかった。君の人生を奪うつもりなど
だからね。
僕は決めた。
僕は君の兄として君に人生を返そう。
何が何でも送り返そう。
僕のこの気持ちは愛だ。
愛と言っても、恋愛感情だとか、親愛感情だとか、そんなちゃちな物じゃない。
これは真性で純粋な物だ。
だからアベハ。
僕の愛を受け取って欲しい。
受け止めて、歓喜に
君の笑顔が僕の
ああ、楽しみだ。
何億という
◇ ◇
目を開くと、そこには灰色の天井があった。
無機質なコンクリートの天井。牢獄かと
俺はこの天井に見覚えがあった。
いや、天井だけではない。俺にはこの部屋自体に見覚えがある。おおよそ四畳半ほどの小部屋は全方位、灰色のコンクリートに覆われていて、人の暖かみらしいものは見当たらない。唯一、人の営みを感じさせてくれるのは、俺が寝ているベッドくらいか。
だがそれもどことなく冷やかさを感じさせてくれる。
真っ白なシーツに鉄製のベッドだからだろう。多分、ベッドとしての機能さえあればいいのだ。
闇医者。ネクタル・ネズミザン。この、人について全く考えていない部屋そのものが、所有者の性格を表していた。
俺はベッドから起き上がる。
ここが俺の知り合いの闇医者の部屋であるという事は理解できた。
しかし何故、俺はこんなところにいる?
あの後、何があったのだ?
俺は確か、リュミエールに傷を治すと言われた。俺の意識が限界を迎え、気を失った後、多分具術で治したのだろう。左手は繋がっていたし、腹には穴が空いていなかった。
…………。
………………。
……………………。
夢でも見たのだろうか?
自分の着用している患者服を見てみるが、最近大きなケガをした覚えはない。
先ほどのリュベルリの時くらいだ。
やはり夢ではないのだろう。
では、誰がここに連れてきたのだ?
俺がそう疑問していると、部屋の扉が開けられた。
金属製の重い板なので、ぎぃぃ、とやけに嫌な音がする。
「ふむ? ようやく目が覚めたか。感謝せいよ。お主を担ぐのは重かったんじゃぞ」
ノラだった。
少しだけホッとする。
彼女はいつもと変わらず、へらへらとしている。どうやらノラがここまで連れてきてくれたらしい。
「お前がここまで運んでくれたのか?」
「うむ。
「どういう意味だ?」
「足しか持てなんだんじゃよ。だからあれじゃ、引きずった。後頭部がハゲておっても、怒らんでくれよ」
「おい、ちょっと待て――」俺は咄嗟に後頭部を触る。良かった。
「一度、確認した上で『……まぁ、いい』も何もないじゃろぅ」
「…………」
「そ、そんなに怒るな。儂のカワイイ冗談じゃ」
カワイイ冗談だろうが、何だろうが、状況を選んで言え。
ノラにそう言ってもなしのつぶてだろう。
俺は頭を切り替えた。
この不思議な状況に違和感を覚えない訳にはいかない。
「俺はどうして今ここにいるんだ?」
「簡単じゃ。リュベルリにお主が殺されそうになった後、儂が運んだんじゃ」
「お前、見てたのか?」
「最後のほうだけの。儂が駆け付けた時には、お主の腹に大剣が刺さっておったわ」
どうやらノラはここに逃げ込んだ後、直ぐに外に出たらしかった。
俺とリュベルリの大立ち回りは、大騒ぎになっていたので、様子を見に行ったらしい。
しかし知りたいのはそこではない。問題はその後だ。
「その後、娘っ子とリュベルリが争いだしたのじゃ。しかし、これは一瞬だったのぅ。お主もその辺は記憶があるのか?」
「ああ」
「ならよい。ただ儂としては少々疑問じゃったのじゃが、リュベルリが撤退した時にな、その場にいる『救世兵』も速やかに撤退したのじゃ」
「…………?」
「いやの、なんか不自然じゃったんじゃ。『救世兵』達はの、撤退が決まって何一つ疑問を持っていなかったようじゃった。まるで初めから既定路線だというくらいに直ぐに撤退を始めたのじゃ。えらく迅速じゃったわ――」
どういう事だろうか?
撤退するのが初めから決まっていた、という事だろうか?
しかし『救世兵』達はリュベルリを含め、俺を処刑する事が第一目標だったハズだ。
何か他に目的があったのか?
俺達は何かおかしな事に巻き込まれているんじゃないか。
一瞬、そんな変な予感がした。
「――それからはアレじゃの。娘っ子がお主に何かを話し始めた。だが、よう聞こえんかった。そのすぐあと、お主の左手が具現化された。腹の穴は分からん。遠目ではよう見えんかったしの。それにしても凄いのぅ。普通、人の身体を具現化する場合は増幅器が必要じゃし、もちろん専門的な知識がいる。見た時は驚いたぞ」
治療するとリュミエールは言ったが、医者に連れていった訳ではなかったのか。つまり妹はその場で具現化してみせた。新式具術を増幅器なしで操ったという事なのだ。
それが穢れた霊体の力だという事かもしれない。
本来、新式にしても超越式にしても、その具現化する物体に対して深い知識も持ってないと具術の使用ができない。例えばリュベルリの使っていたレーザーレンジファインダがそうだ。どんなレーザーを使っているのか分からないが、ルビーレーザーだとして、人造ルビー、キセノンフラッシュランプ、全反射鏡、ハーフミラーなどを詳細に具現化する必要がある。もちろん新式なので誰でも扱えるが、それでもやはり深い知識を求めている事は間違いない。人の肉体を具現化するのにも、人体構造を把握していないといけないのだ。
つまりリュミエールはそれを知っていた、という事になる。俺の知る限り、リュミエールにそんな知識はなかったハズだった。
…………。
リュミエールの事を思い出すと、突如、最後に告げられた言葉が頭の中で思い出された。
いや、そんな事は今考えても仕方のない事だった。
とりあえず現状を把握しなければ。
「その後、お前が俺を運んだって事でいいのか?」
「力を使って倒れた娘っ子も一緒に運んだぞ。そっちはネクタルに担いでもらったがの」
「じゃあ、カガミはここにいるのか?」
「カガミ? いや名前は知らんが、娘っ子はさっき起きたわ。だからお主の様子を見に来たんじゃ。お主もそろそろ起きたかと思っての」
とりあえずここに来た経緯は理解できた。
だが、何が起こっているのか判断材料が少なすぎる。
俺はまだ『救世兵』に命を狙われているだろうし、カガミだって四八時間以内にどうにかしないと死んでしまう。だが具体的に何をどう動けばいいのか見当がつかない。
「そう言えば、俺がここに運ばれてからどのくらい経っている?」
「ふむ? だいたいそうじゃの、二時間と言ったところか。あの娘っ子を助けるつもりなら、まだ余裕があるほうじゃないかの。まぁ、とりあえずあの娘っ子に話を聞くべきではないかの? 今は分からんことばっかりじゃ」
「ああ、そうだな」
俺はベッドから立ち上がろうとした。
俺としては、このまま『救世兵』のアクションを待つつもりはない。そんな事をすればジリ貧だろう。こちらから動いたほうがいいのだ。
俺が選ばなければならない道はまず、俺の無罪を主張する事だ。俺には人の中に穢れた霊体を入れようなんて意思はなかった。
それにできればカガミも助けてあげたい。昔から人を殺してきて、今更何を、と思わないでもないが、理由もなく人を見捨てるなんてのはやりたくないのだ。もちろんカガミを助ける事が俺を無罪にまで導く道になっているかもしれない。カガミを助けることが、俺が助かる事に繋がるかもしれないのだ。
問題はリュミエールだ。だがそれについては後で考えよう。今、どうこうできる問題じゃない。すぐにカガミを殺す訳にもいかないのだ。
その瞬間、リュミエールの言った言葉がまた俺の脳裏を刺激した。
クソッ、とその思考を打ち消そうとする。
同時に俺はよろけそうになった。血を失い過ぎたのだろうか。
だが、よろけそうになったところをノラが支えてくれた。どちらにしろ俺はまだ全快ではないようだ。
「ほれ、しっかり立て。お主をサポートするのが儂の与えられた役目じゃが、もう少ししっかりしてくれぃ」
その言葉にハッとさせれた。
ノラは軽く言ってくれている。
悪気はないのだろう。だが俺の胸にはズシリと重たいものがのしかかってきていた。
しっかりしろ。
頑張るだけでは意味がない。
そんな事は分かっている。分かり切っている。
だけど俺にはリュミエールの言った、自己満足という言葉が耳から離れなかった。
その言葉が俺の中でグルグルと回っていた。
◇ ◇
カガミの瞳はどちらも青に変わっていた。
目立つ変化はそれくらいだろうか。
赤に近い茶髪も、顔付きも、彼女はとりあえず教会で会った時と同じような状態だった。ちなみにこの二時間でリュミエールに人格が入れ替わったという事もないようだ。ノラから聞いた。闇医者のネクタルいわく、何かトリガーらしいものがあるのではないか、という事だった。
「ほんで、ウチが何をしたかって言うのを説明したらええん?」
「何をしたか、というよりは、何で木箱の中に入っていたか、という部分だな」
俺達は先ほど俺が寝ていた部屋のとなりに来ていた。
部屋の作りは変わらない為、俺とノラは立っている。
ベッドに座っているカガミを質問攻めにするつもりはないが、とにかく状況を知る事が優先だった。
「うむ。儂ら、というか、こ奴――」ノラが俺を指す。「――は木箱に『人間サンプル』を入れていたと聞いておる。じゃが、そこに何故かお主が入っておった。儂らにはその理由が分からんのじゃ」
「そっか。『人間サンプル』っていうのはようわからんへんけど。何があったかを説明すればええんよな? ……でも、その、どこから……話したらええん?」
カガミが不安そう俺を見た。
そうか、カガミは日本人だと言っていた。俺にもよく分かっていないが、一一七年前に姿を消している日本人がこの場にいるのだ。どう説明すればいいのかなんて分からないだろう。
「まず、日本人のカガミが何でここにいるのかを説明してくれるか?」
「ふむ? 日本人?」ノラが疑問する。
「後で説明する」俺はとりあえず話を進める事を優先した。
「ウチがここにおる理由って言われても、そんなん分からへん、というか、気がついたらなんか日本が日本じゃなくなっとったんやけど……」
「じゃあ、気が付いたところからでいい。カガミの分かる範囲で説明してみてくれ」
俺がカガミにそう言うと、彼女は少し頭伏せた。考えているようだ。
しかし、何故この世界にいるのかという部分をカガミすら理解していないのか。俺としては、まずその部分が大前提の疑問だったのだが……。
まぁ、それは後から考えてもいいだろう。
俺達がカガミを待っているとようやく彼女が顔をあげた。
すると彼女は一言、こう言ったのだった。
「ウチな、なんかようわからんのやけど、研究所みたいなところにおってん」
◇ ◇
ガラスの割れる音が聞こえた。
望月鏡はそのガラス音に起こされたのだと、理解できた。
外でチビ達が野球でもしているのかな、と直感的に思う。
後で注意をしようと考えた。
しかしまたバカにされるかもしれない。正直、体を動かすのは苦手だし、野球なんてできないのだ。
ふと、今日は日曜日だっただろうか、と疑問が浮き上がった。
いや、昨日は火曜日だったハズだ。
なら何故、朝から野球をやっている子供がいるのだ?
ガタンと、鏡が地面に顔をぶつけた。ベッドから落ちたのだろうか。よくある話だ。相変わらず自分は抜けている、そんな呑気な事を考えた。
だが。
あれ? と疑問に思う。
何かがおかしい。
まずブザーだ。
尋常じゃないくらい大きな警報が鳴っている。
こんな大きな音の目覚まし時計は自分の育った孤児院あっただろうか。約一七年間が過ごしているが、こんな音は聞いた事がない。
なら、この音は何なのだと、彼女はようやくそこで目を開いた。
その瞬間、鏡は目を疑った。
どこ、ここ?
彼女は今、寝転がっている。視界に入るのはコンクリートとの地面。薄暗くて見えにくいが、そこは鏡が昨日眠ったベッドとは違っていた。
それに孤児院でもない。周りを見ると棚にホルマリン漬けの容器が置かれている。色々とおかしな部屋な気がした。気味が悪い。中でも最も異質だったのは、鏡の背後にある大きな水槽のような容器か。全面ガラス張りだっただろうが、一部が破られている。もしかして自分はここから出てきたのだろうか?
どちらにしろ、見覚えのないモノばかりだった。
胸がざわざわと騒ぎだす。
いや、それはまだいい。よくないけど、いい。
何故、自分は裸なのだ? それに全身がぬるぬるとしている。ジェル状と言えばいいのか、そんな物が鏡のいたるところに付着していた。
「何なんコレ?」
どうにも覚えがない。
昨日は普通に学校へ行って、皆の食事を作って、それから寝た。特に変わったところない一日だった。こんな不可思議な事が起こる要素など一つもなかったのだ。
何が起こっているのか、まるっきり理解できなかった。
人の足音がガラガラと聞こえ始めた。早足だ。それも一人ではない。二人でもない。もっと多くの人が近付いている。この全体的に薄暗い部屋に人が来ようとしているのだ。
意味もなく隠れる場所を探そうとした。いや、その前に裸だ。何か隠す物はないかと探す。いやなんなら、もっと他の探す物があるかもしれない。
直後に、部屋の扉がバンと大きな音を立てて開いた。
白衣の人間が七人ほど、部屋に入ってきた。
カガミが裸のまま固まる。
見覚えのない人ばかりだった。
「おい、どうなってるんだ? この子、外に出てるじゃないか」
白衣を着た男が、後ろの部下のような人に問いかけていた。どうやら彼らも想定外の事態らしい。
「い、いえ。分かりません。何でこんな事になっているのか……」
「とにかく、この子を戻すぞ。マズイ事になる。皆、殺されるぞ」
「そ、そんな――」
物騒な言葉が聞こえた。
殺される。
いや、何が何だか分からないけど、その言葉が嫌に耳に残った。
鏡にはここがどこかも分からない。昔から抜けている自覚はあった。だが、寝ている間にこんなところに移動させられて、気付かない訳がない。
夢かな、と頬をつねってみる。
痛い。
もう何が何だか分からなかった。
だけどいつまでもこうしている訳にはいかない。
まだ何かを言い争っている白衣の男たちを尻目に、鏡は逃げようとした。まず立ち上がろうとする。裸である事を恥じている場合じゃない。
すると、えらく高い少年のような声が聞こえてきた。
「大丈夫。問題はないさ。これは、僕がやった事だから」
カガミはその声に注意を引きつけられた。何故か、その声には反応しなければならないような気がしのだ。
白衣の人間達がそろって後ろに振り返る。ちょうど誰もがその真ん中を空けるような形になったので、鏡にもその声の主を視認する事ができた。
それは金髪の少年だった。
身長はおおよそ一三〇センチくらいだろうか。小学生くらいに思える。だがその雰囲気はどう見ても小学生ではない。自身に満ち満ちた白人の大人。白衣を着用し、胴に入った歩き方をしている。貫禄があるというよりは、怖さを持つ少年だった。
「さ、三代目!?」
白衣の一人の内、一番偉い風の男が驚きの声が上げた。
「そんなに驚かなくてもいいさ。別に僕がここにいるのは、おかしな事じゃないだろ?」
「ええ、そうですが……。ただ現在は、その……」
「いいから黙りなよ。舌を引っこ抜くよ」
少年は白衣の男の胸倉を掴むと、一気に引き寄せた。顔を近くで静かにそう言葉にする。
白衣の男は、そこから動けなくなった。顔はひきつっている。
「うん。口答えしないならいいよ」
少年は白衣の男から手を離した。
何事もなかったかのように、鏡の元に歩いてくる。
彼は嬉しそうに、しゃがんで鏡の目線まで腰をかがめた。
そして、クククと笑い始める。
えらく口が歪んでいる。口裂け女と言えばいいのか。実際にはそんな口は裂けていないだろうけれど、そう表現するしかないのだ。
「ああ、やっぱり一二〇年周期とは正解だったんだ! 正直、オカルトかと思っていた! だが! だが、だ! 間違っていなかったんだ!」
「あの……」白衣の男が少年に問いかけようとする。
少年はそんな白衣の男は無視して、上機嫌に答えた。
「なぁ、君も思うだろ? 一一五年から一二四年という九年の誤差はあれど、これは紛れもなく一二〇年周期を表している。そう思わないか?」
「あ、いえ、その……」
「これも『大いなる意思』が望んでいるのかな?」
少年は、どう見ても自分に酔っている。
その瞳には鏡はある種の執念や、
この子はマズイ。
鏡の直感がそう告げてくる。これ以上は関わってはいけない気がした。
だが、動けない。
まるで蛇に
少年は鏡が動けない事を理解しているかのように、鏡に質問した。
「さて、君、望月鏡くんだったかな? 君に見せたいものがある。何、怖がる必要はない」
「……な、なにを……?」
「ああ、何を見せるかって? そうだね。敢えてこう言おうか。僕はこう思っているんだ、ここは地獄だと」
「……い、意味が……」
「うん、そうだね。意味が分からないだろうね。だけど君は見極めなければならない。君だけが判断を下せるんだ」
「…………?」
「いいかな? 君は判断しなければならないんだ――」
少年は邪気も感じられない笑みで、鏡の顔に近付いた。
最早、誰の事も気に掛けていないようだった。
嬉しそうに、そして、祈るように少年は鏡に向かって、最も大切な事を言った。
「――この世界が天国なのか、はたまた地獄なのかを!」
◇ ◇
カガミが説明を続けてくれている。
「ほんで、それからその金髪の子に神戸に連れて来られてん。その研究所みたいところは多分、地下にあって、外にでたら多分梅田やったと思う。それでその少年に連れられて電車に乗ってん。ウチからしたら、もうその少年はちょっと怖すぎて言いなりになるしかなったし、頼る人もおらんかったから。だから、その……」
「ああ、まぁ、気持ちは何となくわかる。だが、何故、木箱の中に入った? 確か、助けがくるって言われたんだったか?」
「あ、うん。助けがくるって言うか。助けてくれる人が来るというか、そんなニュアンスやった」
「どういう意味じゃ? 今の話を聞いて、娘っ子を何から助けてくれると言ったんじゃ?」
「何かに襲われていた訳じゃないんだよな?」
「うん。ウチがずっと怖がってたから、そんな言葉を使ったんかもしれへん。だからまぁ、その、エクさんについていったし、事情を知ってくれてるんやと思てた」
意味が分からない。
いや、内容は理解できる。だがその金髪の子とは誰だ? いや一人だけ思い付く。しかし、もし俺に罪を着せる事が目的なら、俺に対して恨みを持っている誰かなのかと思っていた。だがカガミの話を聞く限り、その金髪の少年がそんな事をする訳がない。
それにカガミの言っている事も気になる。
「カガミ、もう少し教えてくれ。その金髪の少年は一二〇年周期って言ったのか?」
「うん。ちゃんと一二〇年周期って言ってた。それが一一五年にずれる事もあれば、一二四年にずれる事もあるって。ウチには何の話か分からかったけど」
「儂も何の話か分からん。何の周期なんじゃ?」
俺には心当たりが一つだけあった。俺が旧地球時代に詳しくなければ、多分答えは出なかっただろう。俺は日本を勉強していたが、一応、日本以外の事にも注意は向けている。
だが俺の考えは正しいのだろうか。これは少し
なんとも言えない周期なのだ。
ノラが俺を見ている。多分俺が言う事を
早く、話せ。ノラは多分そう言っている。
俺は仕方なく話し始めた。
「この一二〇年周期っていうのは、一説によると世界の覇権が入れ替わる周期なんだ」
「覇権って、どういう事?」
「そのままだ。世界で最も力を持つ国や、権力者。それらには隆盛と衰退の波がある。だいたい一二〇年で入れ替わるようになっているという説だ。国が同じでも、その方向性が違えば一二〇年周期説に含まれるから、何とも言えない部分はある。本当に正しいのかもイマイチ分からないんだ」
「じゃが、そんな説があるという事はちゃんとした実例もあるのだろう?」
「まぁ、あるが……。今重要な事はそこじゃないと思う」
「じゃあ、何なん?」
「今の社会はラテラテラ教が築いた物だ。それはまぁ、かなり盤石なものだし、覇権を握っていると言ってもいい。だが、つまり一二〇年周期を気にする集団がいるという事は、現体制に不満を持った者がいて、反乱なり何なりを起こそうとしているという事になる」
「ふむ。まぁ、大なり小なりおるじゃろうな、そういう人間は」
「そう、そういう人間はいる。そういう人間が集まった組織というのも、ない訳じゃないと思う。俺達が知らないだけで」
「ふむ。じゃあ、お主は何を問題にしておるのじゃ?」
「カガミはその研究所みたいなところが、大阪の梅田だと思ったんだよな?」
「うん」
「そして金髪の少年は三代目って呼ばれてたんだよな?」
「うん」
「どこの組織じゃ?」
それならばその組織は一つしかない。
梅田はラテラテラ教の教皇領になっていて、ラテラテラ教の中でも星マークが四つ以上の人間しか住めない。そして星マーク四つは二五歳以上しか取得できないのだ。さらに教皇領の研究所と言えば、それはラテラテラ教に付属しているものなのだ。
内部で派閥闘争を常に行っているラテラテラ教だ。現体制を不満に持つ者もいるだろう。
だが三代目と呼ばれたとすると、おかしな事になる。
金髪で研究所の全員を黙らせる事のできる少年なんて一人しかいない。
現在、一二歳。
唯一の星マーク七つ。
現教皇・マントレリジューズ・ラテラテラ。
「ラテラテラ教の現体制のトップが現体制を崩そうとしているのか?」
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