第三話:梅爛旋風①
真夜中の学校のことである。小学校からの無二の親友である
「隼、びびってるんじゃねーよな」
「颯太こそ、足震えてんじゃねーの?」
「んなわけないだろ、どーせ噂だろ案あんなの。ほら、着いたぜ。音楽室だ」
最近学校で広がっている噂。よくあるような怪談話だ。
「失礼しまーす」
ちらっと颯太が音楽室の扉を開けて懐中電灯で中をきょろきょろ見渡す。どうやら誰もいない。
「なんだよ。思いっきり開けろよほら」
颯太の後ろから隼がドアを思いっきり押した。隼がぐるぐると懐中電灯の光をあちこちに当てるが、人影どころか、室内の全てのものが微動だにしない。
「ほら、やっぱ誰もいないみたいだな。颯太、やっぱ俺たち最強のコンビだぜ。噂の怪談にも負けずここまで来たんだからな。ん?どうしたよ颯太」
「あ、あれ・・・ピアノの側に・・・」
窓から月の光が入ってきていてちょうどピアノを照らしていた。その窓の側に、長髪の女性がぽつりと立って、窓の外を眺めていた。
「う、嘘だろ、嘘だよなぁ隼」
震えた声で颯太は隼に声をかける。隼は目をごしごしとこすってもう一度さっきの方向を見る。しかし人の姿はやはり消えることはなかった。
「まじかよ・・・」
二人とも足が石のように動かなくなったまま窓際の人を見ていた。
-あら、お客さん?もっとこっちにいらっしゃ
「「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」
その女性が声を出したやいなや固まっていた足はすぐに動きだし、二人は一目散に逃げ出していた。
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入学して早一週間が経った昼休みのことである。僕と志摩は学食に来ていた。二人とも選んだのはハンバーグ定食。メインのハンバーグにサラダがちょこっとついて、お茶碗にご飯。いたってシンプルな定食である。ただ給食生活をしてきた僕たち新一年生にはとても輝いて見えるのだ。あぁ、普通の生活って本当に素晴らし
『メール!メール!メールだよ! メール!メール!メールだよ!』
なんだよ。人がとても幸せな時間を過ごしているというのに。なんたる不届きものだ。
『朝霧、夕露、伊予へ。放課後屋上に集合ね』
「げぇ」
思わず苦い薬を飲んだ時のような声が出てしまった。どうやら幸せな時間はこいつの存在を忘れていたからのようである。さっきまでの時間を返せ。もうメールを見なかったことにしたい
『あ、来なかったら次の日に覚悟しておいてね。関節という関節が外れても知らないわ』
ぐらいだったのですが、それはどうやら厳しいようでございます。志摩の方を見ると携帯を見ながら苦笑いを浮かべていた。僕はハンバーグの最後のひとかけらを口に放って、はぁと大きくため息をついた。
『梅雲和泉』
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「遅い!」
屋上のドアを開けたとたんに僕と志摩はメールの送り主に怒号を浴びせられた。
「そんなこと言われても急に呼び出したのはそっちだろ。少しぐらい待っていたっていいだぐふぉ!」
文句の一つも言わせずに僕の頭にスクールバックが飛んできた。手提げ用の方は角張っていて本当に痛い。
「なにすんだよ梅雲!」
「うっさい!早くそれ拾ってこっち来る!志摩も!」
「あんた今とっても失礼なこと考えてない?」
「ん?何のことかよく分からないな」
失礼だなんてとんでもない。僕はとても尊敬しているよ。・・・もちろん皮肉だ。一字一句違わず伝えるために僕は梅雲の方に向かってにこりと笑顔を向けた。
「あらそう?じゃあ体に分からせてあげないとね」
梅雲も僕と同じような笑みを浮かべてこっちを見てくる。二人の視線のぶつかるところに火花が散っているみたいだ。
「ぜ、全員そろったことだし、そろそろ今日何をするのか教えてよ、和泉」
そう言って、伊予がぽんと手をたたいた。伊予の隣で志摩もうんうんとすごい早さで頷いている。さっきは僕ばかりが悲惨な目に遭ったが志摩だってそういうことはある。出雲:志摩=8:2ぐらいで。まぁ少ないけど。志摩も梅雲の凶暴性は知っているのだ。
「あ、そうだった。本題を忘れることだった。というわけで今日から部活を始めるわよ」
突然の宣言に志摩も伊予も、そして僕もぽかんと口をあけていた。
「何黙ってるの三人とも。これからつくるの、『異常現象相談部』を!」
きらりーんと目を輝かしているだけにその発言はどうやら本気のようだ。
「一応聞くけど梅雲さん、本気?」
志摩は答えは分かってるだろうが、それでも『一応』梅雲に聞いてみたが、
「私が中途半端にやると思ってるの志摩は。やるからには本気よ、本気」
そういうことじゃないだろ・・・。って三人とも思っているはずだ。
「でも和泉、部活を作るっていろいろ大変なんじゃないの?ほら、顧問の先生とか」
「大丈夫よ伊予。そのために入学式から一週間準備をしてきたんだから」
なるほど。だから平穏な日々が続いていたわけか。これからは二度とない平穏な日々が。
「んで?顧問は誰になったんだよ」
「そりゃ決まってるでしょ。あんたのとこの担任よ」
「え?出雲と僕の担任って、あ!」
志摩は何かを思いついて僕の方向を見てきた。どうやら考えていることは僕と同じのようだ。
「おいおいやっちまったぞ志摩。僕らはどうしてこんな簡単なことに気づかなかったんだ、そりゃそうだ、だって僕らの担任は
「というわけでよろしくお願いしまーす!梅雲せ、ん、せ、い!」
職員室のデスクに座っている彼に梅雲は軽くお辞儀をした。
はぁ、そうか。そりゃそうだ。梅雲なんて名字はそうはいないか。聞き流していたせいで全然気にしていなかったし、今まで顔を見たことがなかったからだろう。全く気づかなかった。これは誤算だ、大誤算だ。
「おう、基本行かないから勝手にやっといてくれ。ちょうど今年から奇術部の部員がいなくなったからそこの部室を使っていいらしいぞ。鍵は毎日返しにこいよ」
「はーい!ありがとうお兄・・・
「学校ではそう呼ぶなって」
「ごめんなさい、せ、ん、せ、い!」
そう言って梅雲兄、つまり梅雲先生にウィンクをする梅雲妹、つまり梅雲和泉を僕は後ろからジャンピングキックしたくなった。兄の前でかわいい子ぶるんじゃない、そして突然自分がしたいことをし始めるんじゃない!!
後ろ髪をくくる梅の花をかたどったゴム飾りは彼女の今の気分を表すかのようにきらきらと輝いていた。その梅の花をぼんやりと眺めていると、彼女は僕らのいる後ろ側にくるっと回って左手をこっちに差し出してきた。その手の中には銀色に光る一本の鍵があった。
「というわけで早速行ってみましょ!部室に!」
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