第一話:物語之始④
「日常の裏側?」
「この町の名前は『
ふむふむ。あの怪物もそんなこと言っていたっけ。まだこの町から見えるはずの海を僕は見てない。
「しかし裏側ではこの町は『
嘘だ、とか想像力が豊かだね、とは思わないし、驚きもしない。さて、これは僕がおかしくなったのか、それともなにもおかしくないことなのだろうか。
「それを神社がやっつけているのですか?」
普通それ用の職業みたいなのがありそうだけど。滅!とか言って御札をたくさん持っているような人みたいな。
「飲み込みが早いようだな。この町には神社が三つ。ここ、東の
残念ながら喉元で全部つっかえている状況だが。繰り返すようだが嘘だとは思っていない。でも常人はおかゆを食べるように簡単に消化できるお話ではないだろう。
「もしかして僕も」
「なーにを言い出すか。当然じゃ、お主もこれから特訓をしてもらうから問題ない。」
いやぁ、特訓どうこうでできるようになるものでもないでしょ。なんて思ったりする僕は普通の人間ですよね。
「無理ですよ!僕神社の子でもないですし、力なんて何も持ってないですよ!」
「ん、お主はもう朝霧神社の子だが?さっきここに住むって言ったろう」
「いや確かに言いましたけど、それだけで?」
霧桜様はただ笑顔を返してきた。どうやら本当にそれだけのようだ。僕には今分からないだけでもしかしたらまゆらさんのような特別な能力が・・・。手に力を入れてみるがただ筋肉が少し疲れただけだった。
「当然のことだが普通は幽霊や妖怪は見えるものではない。だからこそ特別に『見える』権利を得たお主ら神社の人々が義務として全てを行う必要があるのだ」
まぁ言われてみればそれはそうなんだけど。僕は心の中で白旗を掲げておとなしく霧桜様の話の続きを聞くことにした。
「それで具体的に一体何を?」
「おお、そうだったな。幽霊や妖怪には三段階ある。一つ、ただ幽凪町で生活しているもの。これは妖怪のたぐいが大半だな。といってもそれほど数がいるわけでもないし、害はないから仲良くするのも良いぞ。言うなれば妖怪界から人間界にぶらりと遊びに来ているようなものだ」
『ぶらり人間界観光の旅』そんな軽いテンションで妖怪が来るんじゃないよまったく。
「二つは未練を残してさまようもの。これは幽霊のたぐいが大半。こやつらも特に害はないが、未練にとらわれすぎると何を起こすか分からん。そのためにお主らが未練を解決してそやつらを成仏させる必要がある」
聞こえはかっこいい。『悩める幽霊相談所』って感じか。しかし、年中無休、賃金0円。とんだブラック企業だ。
「三つは危害を加えるほどに暴走したもの。お主があの晩に出会ったのがこれ。二つ目の段階で言ったように幽霊は未練が強くなりすぎると何をし出すか分からん。自我を失ってしまうからだ。そのために神社の者がそれを退治、つまりは強制的に成仏するわけだ。妖怪にもたまに人間界で暴れ回るやつがおっての。そいつの始末もやるべきことかの」
突然アクションゲームのキャラクターになるようなものだ。レベル1。近所の番犬にも勝てないだろう僕がましてや幽霊や妖怪を倒すことができるのだろうか。あーやめやめ。あれこれ考えてももう遅い。
「まぁ初めのうちはあたふたするのも仕方ないわ。まゆらと協力しながら頑張ってみぃ。とりあえず話はこれくらいかの」
左手をひらひらさせながら霧桜様は家の玄関の方に向かって歩き出したが、途中で一度振り返り、
「あー、あと毎日表の神社の仕事もするのだぞ。あくまでも今までの話は裏家業だからな?一般人は誰も知らないし、知られてはいけないことだから気をつけるんだぞ」
と一言残して家に戻っていった。僕はその神様の後ろ姿を見ながらずっとその場にたっていた。朝のさわやかな風が吹き、桜の花びらが肌に当たる。その花びらはどこからか暖かみを感じた。
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しばらく心地よい暖かさと美しい景色を見た後、そろそろ家の中に戻ろうとして玄関を開けると、まゆらさんと鉢合わせになった。びっくりしてついうぉ、っと声を出してしまった。
「ごめんごめん驚かせちゃったね、おはよう」
彼女はまだ部屋着で髪の毛が一カ所アンテナのように上に向かってはねていた。寝起きのようだ。
「おはようございます、まゆらさ」
言い切る前にか彼女の人差し指が僕の唇をふさいだ。やわら、って何を思っているんだ。
「そんな改まらなくていいの!『おはよう』でいいし『まゆら』でいいの。私たちはもう家族なんだからさ、ね?」
どうやら僕は家族という言葉がなぜか聞き慣れていないようで、なんだか心がかき混ぜられるように感じる。
「お、おはよう、ま、まゆら」
「ふふっ、すごいかちこちで変。まぁ三日もすれば慣れるって掃除終わったら朝ご飯作るからそれまでゆっくりしてていいよ」
まゆらさんがそう言って僕の横を通り過ぎようとしたとき、思わず彼女の右腕を握っていた。
「ぼ、僕もやります。僕も手伝わせてください。これから住むわけだし、僕も・・・その、えっと、か、家族だし」
だんだんと声が小さくなっていたし、うつむいて地面につぶやいていたのはのは自分でもよく分かった、なんだか頬どころか耳まで熱い。なんて言うか恥ずかしい。たった三音の言葉を言うだけなのに。
次に顔を上げたときには天使の微笑と呼ぶにふさわしいような彼女の笑みがこちらを向いていた。
「そうだね、じゃあ一緒にやろっか・・・い、いずも。ふふっなんだか私もまだ慣れてないみたい」
舌をちょっと出して照れる彼女の姿が目に映る。手を当てなくても分かるくらい心臓がどきどきしている。
ただ、これは決して彼女に一目惚れとか恋とかいうものをしたから鼓動が高鳴っているわけではない。これからのことを考えるとなんだか興奮しているようだ、
記憶喪失だし、幽霊に襲われるし、神社の家に迎えられるし、突然超、能力者みたいなことをすることになるらしいし。全くもって空想の世界にしか思えない。ただこれは決して夢じゃない、現実だ。
これから自分にどんなことが待っているのかなんて分からないし、普通の人が見ればなんて非日常なことか、と思うだろう。でもそんな非日常な生活に僕はどうやらわくわくしているようだ。なんて感じている僕はもう普通の人ではないようだ。
僕は、前を歩く彼女の後ろを笑顔でついていく。雲一つない青空に満開の桜。僕の新しい日常を、いや、非日常をまるで歓迎するかのように透き通った景色の元で、僕の新しい日常が始まった。
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