第11話「文殊の知恵×5」

・11・「文殊の知恵×5」


「……って、なーんかいい感じで結束したのは良いけど、ホントに見つかるか?」

 真っ先に音を上げたのは和馬だった。

 彼らはあの後、場所を賢太の家に移し、本を調べていた。

 皆、一様に本を覗き込みながら、


 あーでもない、

 こーでもない、

 そーでもない、


 と、議論を交えて読み進めていく。

「とりあえずさ、何が分かった?」

 和馬は内容を書き留めたノートを賢太からひったくる。


・高校は戦前と戦中は小学校だった。

・空襲により校舎は全壊、その後再建。


「花子さんっていうと、昭和的な服装のイメージがあるよね。おかっぱにサスペンダー付きのスカートで……」

 朱音は畳の床に寝そべる。彼女は健康的な肢体を惜しげも無く和馬の目の前で見せた。

「おひょー!」

 もちろん、和馬が食いついたのは言うまでもない。

 更にまがのい様に鉄拳(手があるかどうかは相変わらず不明だが)で制裁されるのも、言うまでもないことだ。


「……気になる」

 小声でぽつりと言い出したのは静。彼女は先程から別の用紙に釘付けだった。

「どうしたんです?」

 朱音は寝転んだまま尋ねる。

「花子さんの噂。行動が不可解なの」

「フカカイ?」

「噂はいくつあった?」

「確か四つ位です」

 答えたのは朱音である。

「ある噂で花子さんが取る行動。覗き、悪戯。便器の中に引きずり込むと、殺しにかかるのを別と考えたら、行動にバラつきが出るのよ」

 しばらく皆、押し黙る。

「あ、本当だ」

 和馬が声をあげた。

「その内一つが本当だと考えると、他の噂は何だろう?」

 賢太は考え込む。

「なぁ、本当に一つだけなのか?」

 と、和馬。

「もしかすると、全部本当だったってのはなし?」

「まさか! だったら、花子さんが沢山いる事になっちゃうよ」

 朱音は笑う。この頃には、南極がなんと言っていたか、すっかり忘れていた。


「迫田……空襲について書かれたページってどこだっけ?」

 賢太は尚も読み進める迫田に尋ねる。迫田は無言でそのページを開いて渡す。

 しばらく賢太はそのページを読み、顔を上げた。


「逃げ遅れた女子生徒がトイレで一人死んでるみたいですね。偶然にも名前が花子でした」

「おっ、ビンゴか?」

 和馬が顔を上げた。


「もう一つ。三十年前にも生徒が一人、女子トイレで死亡しています。どうやら心臓の持病か何かによる突然死だったみたいですね。でも、名前は…花子じゃない」

「でも、あのトイレって男子用だよ?」

 と、朱音が疑問を口にする。


「昔からずっと男子トイレって訳じゃないかもしれない。そもそも、あの校舎に出るんだったら新校舎になってからの時代に焦点を当てるべきなんだろうけど、そうなると特に目立った情報は無いね。どれもこれも学校の功績を褒め称えているばかりだし」

 ページをめくりながら賢太はぶつぶつと不満を漏らす。


「そういうモノよ。素晴らしいお話は、さも素晴らしく、永遠に語り継がれ、醜い話は根も葉もない噂として、人々の好奇心を満たす為に姿形を変え吹聴される。それが血なまぐさい事件でも死人が出ても、みんな面白がって聞いて話して……」

 急に静は苦笑い。

「私もその内の一人だけどねぇ」


「花子さん騒ぎも、そうやって作り変えられた噂の一つなのかな?」

 朱音は身を起こし、物憂げな様子で言う。

 壁にぶち当たった時に感じる、重い空気が場を包み始めた。

「……本人に直接訊けば手っ取り早いんだけどなぁ」

 和馬は溜息をついた。

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