見えざる者~消えゆく時の中で~

月島 裕

第1話 見えざる者

向井悠斗は普通の高校生活を送っていた

見た目は中の上ぐらい茶髪に長身

普通にモテる方でクラスでも目立つ存在だった

ある日、部活が遅くなり帰りを急いでいると道端に座り込んでいる老人を見つけた

“どうしよう…早く帰らなきゃいけないし…でも怪我してたら…”

そう思いながらも悠斗は自転車を降り声をかけた

「大丈夫ですか?」

「…あぁ大丈夫です。ちょっと転んでしまって…」

「どこですか?ちょっと見せて下さい。」

「ここなんですが…」

膝を擦りむいていてズボンに血が滲んでみえた

「ちょっと見せて下さい。」

ズボンを上げ見て見ると血が出て結構擦りむいていた

「あぁ…ちょっと血が出てますね…」

悠斗は持っていたティッシュで血を拭き取り、いつも持ち歩いてるバンドエイドを張ってあげた

「ありがとう。助かりました。」

老人は笑顔で感謝した

「いえいえ。お家は近いんですか?歩くの大変ですよね?!」

「いやいや大丈夫です。本当に助かりました。これ御礼にどうぞ。」

老人は石のブレスレットを差し出してきた

「いや!いらないです!」

「どうか受け取って下さい。」

老人は悠斗の手を掴みブレスレットを持たせた

悠斗は拒んだが老人も引かず結局受け取る羽目になった

“別に御礼が欲しくて声かけた訳じゃないのにな…”

悠斗は人が困っていると放っておけない性格で困っている人を見つけるたびに助けていた

“今度合ったら返そうっと。ヤバいかぁさんに怒られる!”

急いで帰ったが案の定怒られた

「遅くなるなら連絡しなさいっていつも言ってるでしょ!電話ぐらい出来るでしょ?!」

「ごめんなさい。焦ってて連絡するの忘れてた……今度からは気をつけます。」

「分かったならいいけど。早くご飯食べちゃってね」

「はい…」

早くご飯を食べてお風呂に入って早めに寝ようとしていた

布団に入ると

《カチャン》と何か落ちる音が聞こえ布団から起きて周りを見渡すと老人から貰ったブレスレットが落ちていた

“あっ忘れてた…どこに置いておくかな…”

置き場所に困っていると急に声が聞こえてきた

『た…す…け…て…』

「えっ!!」

周りを見渡すが何もいない

次はハッキリ『助けて…』と聞こえ振り返ると女の人が立っていた

「ぎゃーー!!」

叫び声に気づき母親が部屋に入ってきた

「悠斗どうしたの?大丈夫?」

「あっ女の人が!」

母親は周りを見渡した

「誰もいないじゃない!ふざけてないで早く寝なさい!今度騒いだら許さないからね!!」

「えっ!!」

そう言うと部屋から出て行ってしまった

“どうしよう…”

『助けて下さい』

「えっ……」

『お願い助けて』

恐る恐る振り返るとさっきの女が立っていた

泣いているようにみえ悠斗は勇気を振り絞って話しかけてみた

「ど…どうしたんですか?」

『私…殺されたの…誰も…見つけてくれない…助けて』

そう言うと女はワンワン泣き始めた

悠斗は怖いのと助けてあげたいという気持ちが入り乱れていた

「………。どこに居るか分かるの?」

『一緒に来てくれますか?』

「今日は無理なんで…明日じゃダメですか?」

『時間がないの!今日の夜に私を移動させるみたいなの!お願い助けて!』

悠斗はしばらく考えて両親が寝てから抜け出す事を伝えた

女は安心したようで泣くのを止めた

「聞きにくいんだけど…なんで殺されたの?てか何歳?若いよね?」

『19…。彼氏に殺されたんだ…』

「やっぱり年近いと思った。それで理由とか解る?」

『うん…彼氏浮気してて…問い詰めたら喧嘩になって…押された拍子に階段から落ちて死んじゃった…本当ついてないよね…』

悲しそうに話しをする女は普通に綺麗な人だった

「………。なんか辛い事聞いちゃってゴメン…」

『大丈夫…。その後、普通救急車呼ぶじゃん!呼びもしないでずっと私の事見てるだけだし!落ちた時まだ生きてたのに助けもしない!!』

怒り始めた瞬間に豆電球にしてたはずなのに電気が着いたり消えたりし始めた

「分かったから!落ち着いて!うるさくすると親にバレる…」

『あっゴメン。なんかイライラしちゃって…』

「で、なんで今日移動させるの分かったの?」

『あいつ地図見てて…明日、彼女が来るから邪魔だって言ってた…』

「……」

『だから今日じゃないと私、本当に誰にも分かられずにいなくなっちゃう…』

「分かりました。実際どうやって止めるかと貴女の居る場所が問題ですよね…自転車で行ける距離ならいいですけど…」

『場所は近いの…ここから少し離れたアパートに住んでたから…』

「どうやって止めよう…運び出し始めたら警察に電話するとか?急に行っても俺まで殺されそうだしな…」

『警察も相手にしてくれなかったらどうする?』

「……。そう言えば名前聞いてなかったね。名前なんていうの?俺は悠斗宜しく。」

『私は美加。宜しく』

悠斗は手を差し出し美加と握手をした

「えっ…触れるんだね…幽霊って触れないイメージあったけど…」

『不思議…私もそう思ってた。』

2人は笑って手を重ねた

「触れてる感触はあっても体温とかは感じないんだな…不思議だね!」

『悠斗くんの手は温かく感じるよ』

美加は嬉しそうに微笑んだ

悠斗は急に真剣な眼差しで美加に聞いた

「美加ちゃんは復讐したいとか思わないの?」

『死んですぐは殺してやるって思ってたけど…今は両親の所に帰りたいっていう気持ちの方が大きい…』

「じゃーさ。脅かすぐらいの事はしてみようよ!もしかすると自首するかもしれないし!」

『どうやって?』

「さっき怒った時みたいに電気チカチカさせたり、物浮かしてみたりとか!声とかはさすがに無理かな?」

『分かんない…やってみるだけやってみる!』

悠斗の両親が寝静まったのを確認して家を抜け出した

美加が言った通り悠斗の家から美加が住んでいたアパートまで2㌔もなかった

部屋に電気は付いていてカーテン越しに人が居るのを確認出来た

「美加ちゃん、部屋に行ってみてこれる?」

美加は震えていた

「大丈夫?」

『う…ん。自分の死体想像したら怖くなっただけ……頑張ってみる…』

「無理はしなくて大丈夫だよ!運んでる時に警察に電話すれば捕まえてくれると思うし!」

美加は考えているようで何も話さなかった

悠斗は道路から中の様子を見ていた

『ちょっとだけ行ってみてくる…』

「無理はしないでね。」

『うん…』

美加は部屋の方へ飛んで行った

しばらくすると部屋の電気がチカチカなり始め男の叫び声が聞こえてきた

悠斗は急いで警察へ電話した

「すみません。上の階の人が喧嘩してるみたいで…すごい音が聞こえるんです。叫び声も…すぐ来て下さい。」

五分後、警察が到着して例の部屋へ行くと扉が開いていて叫び声が聞こえているため部屋の中へと入ると毛布にくるまれロープでグルグル巻きにされた美加の死体を発見した


部屋に居た男は緊急逮捕され警察署へと連行されて行った

その様子を電信柱の影から悠斗は見ていた

“無事捕まって良かった…美加ちゃんどこ行ったのかな…。”

そんな事を思いながら家に帰ろうと振り返ると美加が後ろに立っていた

一瞬ビックリして固まっていると美加が話し出した

『自分の死体見るのっていい気分じゃないね…でも警察に捕まったし良かったのかもね…私も両親の所に帰れるかな…』

「…大丈夫?」

『なんだか少しスッキリしたかも…でも私この先どうなるのかな……』

「う…ん。俺も元々見えたりする人じゃないから分かんないんだよね…でも…多分このブレスレットのせいだと思うから明日聞いてみるよ!」

『それまで私どうすればいいかな?』

「俺ん家に来ればいいんじゃない?!でも学校行ってからだから時間かかるけど大丈夫?」

『ありがとう……大丈夫…時間の感覚とかないから…』

家に戻ったが美加が居るせいで緊張して寝れず寝不足のまま学校へ

学校に着いて眠気との闘いが始まった

結局、寝てしまい呼び出しを受け先生から指導を受けた

部活にも行けず落ち込みながら昨日老人と出逢った場所で待ち続け

昨日会ったぐらいの時間帯に老人が現れた

「すみません!昨日ブレスレット貰った者なんですが!」

その声にビックリしているようだった

「………。あぁ昨日の少年かぃ。昨日はありがとう助かったよ。」

「足もう大丈夫ですか?」

「お陰様で大丈夫だったよ!」

「良かった……あの…昨日貰ったブレスレットなんですが…」

「受け取っておくれ。お礼としてなんだから。」

「……。あのブレスレットって不思議な力とかあるんですか?」

「ないはずだが何かあったのかぃ?」

「このブレスレットを貰ってから幽霊が見えるようになって……」

「……………。」

「昨日、彼氏に殺された子に助けを求められて……なんとか助けたんですが…」


老人は静かに話し始めた

「ブレスレットというよりも君自身の力が発揮したんだろうなぁ…私も力は強い方だが今まで人にあげて、そんな事一度もなかったからなぁ…それで私に何を聞きたいんだぃ?」

「その子を助けてあげたいんですが…どうしてあげていいか…両親の元に帰りたいみたいなんですけど自分では帰れないみたいで。」

「その子は今どこに?」

「俺の家にいます。呼んできますか?」

「いや。それは大丈夫。この札に名前を書いて封筒に入れ両親に送ってあげなさい。札が着くと同時に両親の元に戻れるよ。あとは迎えが来るだろうから大丈夫だよ。」

老人から札の束を受け取った

「ありがとうございます。良かった……。また何かあったら会いに来ていいですか?」

「構わんよ。次は家に来ればいいよ。すぐそこの平屋に住んでいるんだ。用事がある時はいつでも訪ねておいで!」

「はい!」

悠人は深々と頭を下げて急いで家に帰った

遅くなり昨日同様に母親に怒られ落ち込みながら部屋に戻ると美加が待っていた

『お帰りなさい。』

「ただいまぁ。また母さんに叱られちゃった…」

『ゴメンね。私のせいだよね…』

「違うよ!俺が遅く帰ってきたのが悪いだけだから…。あっ!帰り方分かったよ!」

『ほ…本当に!』

美加は嬉しそうに微笑んだ

「この札に美加ちゃんの苗字と名前を書いて実家に送るだけだって!遅くても2・3日で着くと思うよ!」

『あ…ありがとう…』

美加は嬉しいのと安心感で涙が溢れ出した

「すぐに書いてポストに入れに行こう!」

『うん!』

書いてすぐにポストに入れに行った

美加はポストの前で拝んでいる

悠人も一緒に拝む事にした

拝み終わると2人で笑い遭い家に帰った

『私の身体は実家に帰れたかな?』

「ニュース観てみる?」

『……怖いんだよね…自分の事見るの…』

「じゃ俺だけ観るわ!」

そう言ってネットニュースを見始めた

身元判明と書いてあった

「たぶん、大丈夫だと思うよ。身元判明って書いてあるから」

『そっか…良かった…』

今日も美加が部屋に居るから寝れないかと思いながら横になるとすぐに眠ってしまった

翌朝起きて学校に行き帰ってくると美加の姿はなくなっていた


手紙が残されていた

《助けてくれてありがとう。最悪な死に方だったけど悠人くんに会えて本当に良かった。本当にありがとう》








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