第10話 不思議な決戦!!おやじ城

 深夜零時。

 温泉街の雀荘「不発弾」には三人がいました。一人は私。それから猫耳が生えた腐女子とキモオタの姉弟。みんなこの「不発弾」の常連ですがあと一人、空き巣のシゲさんだけは用事でこれないみたいです。

 これでは一人足りないので盛り上がりに欠けます。困ったモノですが、いいことを思い付きました。

「ちょっと待っててくださいね。一人捕まえて来ますから」

 と私は雀荘を飛び出し、山間の高台にある展望公園を目指しました。


 いました。クマーさんです。

 クマーさんは傘を一心不乱に回して、傘の上で升を転がしていました。これも修行なのでしょうか。

 そこで不意討ちで殴りに行きます。すると咄嗟に傘と升を投げつけて来たので、受け取ってそのまま回します。

「さすがにいい反応ですね」

「何しに来たんだよ」

「ちょっとバトルのメンバーが足りなくてですね」

「何っバトルだって。すぐに連れて行ってくれ」

 捕まったクマーさんは強制的に徹夜麻雀に参加させられました。


 夜も更け、朝日が登って来た頃。一人のおじさんが店に入って来たのです。お客さんかと思ったのですが、少し言ってる事が変なおじさんです。

「見つけたぞ。お前達はノブ・ナーガ軍の一派だな。このオパール様が潰してやるわ」

 とかいきなり言い出すのですから、多分酔っぱらいか何かでしょう。するとクマーさんが

「なんか知らねぇけどケンカなら買うぜ」

 とか言って酔っぱらいとケンカを始めました。

 徹夜明けとはいえ、あのクマーさんといい勝負をしている酔っぱらいの人も大したものです。

 しかし、傘を回す修行の成果でしょうか、クマーさんがあっさり蹴りを決めて、酔っぱらいを店の外まで吹き飛ばしました。酔っぱらいの人は白目を剥いて気絶しています。なので早く麻雀を再開したいです。


 そんな私の願いは見事に打ち砕かれる事になりました。

 今度は魔女のおばさんとノブ・ナーガ様とその他が店に入って来ます。

「大変よ、ブラック白雪姫の仲間の七人のおやじの内の一人、オパールがこっちに向かっているって 情報が入ったわ」

「その人なら多分店の前に転がってますけど」

「えぇ……、まあいいわ。問題はこれだけじゃないの。実は昨夜、城下町の南方、スノーマターの街に一晩で謎の要塞が出現したわ。私達はこれをブラック白雪姫一派のものと見ている わ」

「明日でいいですか」

 徹夜明けなので私達は疲れていました。

「いい訳ないでしょ、さっさと馬車に乗り込んで」

 例のUMA車が既に雀荘の前まで来ていました。でも、ここから城下町までは二時間はかかります。仮眠くらいはとれるでしょう。

「車を改造したから十分で着くわよ」

 なんて余計な事をしてくれるのでしょうか。


 すさまじい勢いで城下町を抜けて南へ走ると、大きな城が見えて来ました。あれが一晩で出来たのだから欠陥建築であることは明らかです。

「欠陥建築でしょうし、こんなの無視していいんじゃないですか」

「そうもいかないわ。異世界へ通じるゲートが城のすぐ隣にあるのよ」

 確かに回り込んで見ると、空間を無視して大きな扉が立っています。これが異世界へ通じるゲートの様です。そして、この城が守っているのでしょう。そうなると、やっぱりこの城は攻略しないといけないみたいです。


「フフフ、遂に来たわね」

「六年くらい待ったのよ」

 良く聞こえないけど多分こんな事が上から聞こえて来ます。城の天守を見ると双子のオカマが屋根の上に立っているではありませんか。

「アイツは七人のおやじ」

「そうよ、私はルビー」

「そして、私がサファイア」

 あんまり戦いたくないタイプの二人です。昔、お母さんから聞いた話ですが、双子のオカマのコンビネーションは凄いそうです。


 屋根の上からだと声が良く聞こえず、会話が成り立たないので、オカマの二人は天守の最上階の中に戻ってしまいました。攻略しろという事でしょうね。入れそうな所といえば石垣が坂道になっている場所が一ヶ所だけあります。傾斜が四十五度くらいありますが、なんとかなるでしょう。


「じゃああとは前衛の二人で頑張ってね」

 魔女のおばさんが私達の肩を押します。

「来てくれないんですか」

「めんどくさくはないけど、後衛だから私」

「いいんじゃねぇか、私達で全員倒してやろうぜ」

 大将のノブ・ナーガ様を敵陣に入れるのは危険だし、ラン・マールさんとOICHI様はやっさやっさ言いながら踊っているだけです。ここは私達が行くしかないでしょう。


 坂道を登り始めると上からゴマ油が流れて来ました。なんでしょうコレ。

「ガハハハハ、良く来たな。俺は七人のおやじの一人、ダイヤモンド様だ」

 今度は大柄のおやじです。

「お前達にこのゴマ油の滝を登りきれるかな」

 絵的になんと地味な戦いでしょう。徹夜明けにはつらいですが、先に登りきったのは私でした。

「この坂を登りきって疲れた奴を倒す、これがこのダイヤモンド様のバトルゥスタァイル。容赦なく殺してやるぜぇ」

「そんな、私は殺し合いなんて出来ません」

「うるせぇ、これが弱肉強食じゃ」


 これは正当防衛なので仕方なくなのですが

「デレラ拳十七大奥義黒金の唄」

「ぐわぁっ」

 これは肋骨と肋骨の隙間を突いて直接内蔵にダメージを与える技です。ダイヤモンドは血を吐いて倒れましたが正当防衛なので大丈夫です。


 さて、やっと一人始末したと思ったら今度は下が一大事な様で、魔女のおばさんとノブ・ナーガ様の前に三人のおやじが表れました。

「どうやら分断作戦は成功の様だな。俺はゴールド」

「その高い石垣からは一気に降りる事は出来ないだろう。俺はエメラルド」

「三対二で殺してやる。俺はプラチナ」

 やっさやっさ踊っている二人は敵のカウントに入ってないようです。


「ここは私の魔法に任せて城を攻略しなさい」

 魔女のおばさんの頼もしい一言です。

「おいおい、おばさんよぉ、随分舐めた事言ってくれるじゃねえか」

「思い知らせてやんよぉぉぉ」

 おばさんは迫り来るゴールドとエメラルドの間をすり抜けます。

「待てっゴールド、エメラルド」

 プラチナの忠告も間に合わず

「えっ」

「あっ」

 魔女のおばさんがそれぞれの頭を片手で地面に叩きつけます。

「やっぱりそうだ。この女は先の大戦で……」

 何か言いかけたプラチナに拳を叩き込み、十メートルほどむこうまで突飛ばしました。プラチナは血を吐いて白目を剥いて倒れています。少しやり過ぎじゃないでしょうか。


 色々あったけど残りは双子のオカマだけになりました。オカマの高笑いの聞こえる城内を、私とクマーさんは登って行きます。

 この時、私達はまだ双子のオカマのやっかいさを知らないのでした。

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