第8話 不思議な真実
拝啓お母さん
私は強くなりすぎてしまいました。
鋼の様に堅かったノブ・ナーガ様もいまやおでんのこんにゃく程度にしか感じません。
スーパーデレラ状態の私はノブ・ナーガ様を城内まで追い詰めます。その勢いはまるで大家族のおでん。うまい具は即完売、残っているのはがんもどき、そして厚揚げ。例えるならばそんな状況でしょうか。
おでんにうるさい私はついにお城の最上階までノブ・ナーガ様を追い詰めます。
「さあ御用改まってまいりましたよ」
などと自分でもよくわからない事を口走ってしまいましたが。しかし、ノブ・ナーガ様は
「であるか……」
と真剣に受け答えしてくれるあたりに人間性の差を見せつけられてしまいました。まあ、結局は力で勝てればいいんですけどね。
さて、すっかり覚醒したところで本格的に自分の力を試してみたいと思っていた矢先。ノブ・ナーガ様の身体が黄金から通常時に戻っていき、口から味噌を吐いて倒れました。これはこれでチャンスですね。
「まいった」
「えっ」
「やはり現れたか。シンデレラの血を引く兵(つわもの)よ。ずっとこの時を待っておったぞ」
「とりゃあああ」
「げぇッ」
とりあえずノブ・ナーガ様を倒しておきました。するとどうでしょう、下の階から爆発音が聞こえ、お城が揺れ始めました。
「なにこれ、アラーム?」
「違うわ、ノブ・ナーガを倒したからお城が崩壊し始めたのよ」
いつの間にか魔女のおばさんがいました。
「やっぱりお前凄いなぁ」
そして、クマーさんもいました。
「うーん、これはまずいなぁ。とりあえず逃げましょうよ」
私達は崩壊する天守閣から離れ、無事に日常生活に戻っていったのでした。
一ヶ月後
茂る緑が眩しい初夏の朝、私はキャベツを刻んでいました。ついに念願の一人暮らしです。というのも、味噌カツサンドの店を始めたのです。
それからはあの戦いの日々が嘘の様に、毎日が平穏です。お店の経営は至って順調ですが、どういう訳かお金は貯まっていません。
それから、崩壊したお城は百人の日曜大工おじさん達の手で元通りです。これにはノブ・ナーガ様も大喜びだったようです。
クマーさんはたまに店にやって来ては、バトルを挑もうとしてきます。割と迷惑です。
魔女のおばさんはいつの間にか家に居て、勝手に商品を食べてたりしたかと思うと、突然姿を消したりと忙しそうです。
これは噂で聞いた話ですが、継母達はハローワークに通い始めたとか。
そして、今日はお城へ行く日です。実は数日前にお城から使者がやって来ました。その要件と言うのは、お母さんの事だそうです。ついにお母さんが釈放されるのかと思うと、なんだかわくわくしてきます。
お城へ登ると会議室へ通されたのですが、そこには意外な人物が。
「やぁ」
「よぉ」
なんと魔女のおばさんとクマーさんでした。
「何でいるんですかぁ」
「呼ばれたんだよ」
「私もよ」
この二人まで呼ばれるなんて、なんか不穏な雰囲気1000パーセントです。
「これはどういう事です」
「リンデレラよ、お前には真実を話さなくてはいけない」
普段から硬いノブ・ナーガ様の表情がさらに硬くなりました。
「真実ってなんです」
「今回のパーティーで行われた最強決定トーナメントの目的はブラック白雪姫と七人のおやじ達と戦える人材を探す事じゃ」
ブラック白雪姫、なんかブラックモンブランみたいなセンスの名前ですね。
「ブラック白雪姫一派は七年前に突如この国に現れた革命勢力じゃ。ここからは紙芝居を用意したのでそれで理解して欲しい」
とか言って手書きの紙芝居を出してきました。私にはノブ・ナーガ様の思考が理解出来ません。でも七年前って確かお母さんがいなくなった年じゃ……。
「ギエフ王国vsブラック白雪姫」
かつて平和で豊かな素晴らしい国、ギエフ王国がありました。
しかし、ある時にブラック白雪姫と七人のおやじ達が現れ、街で破壊工作活動を開始したのです。川は味噌で溢れかえり、大地にはういろうが生い茂る、そんな天変地異を引き起こし、ついに王国は滅亡寸前までいきました。
これに危機感を感じた若きノブ・ナーガ王子は、城下の実力者達を引き連れてブラック白雪姫一派との全面戦争に。ギエフ王国は素晴らしい。
仲間達は次々と傷付いて倒れていき、温泉に療養しに行きました。そんな多大な犠牲を払い、ついにブラック白雪姫を追い詰めましたが。
しかし、牛乳を飲んでパワーアップしたブラック白雪姫の力は凄まじく、誰一人として勝つ事が出来ませんでした。ギエフ王国は素晴らしい。そこでブラック白雪姫を亜空間に封印することになったのです。ただしそれにはブラック白雪姫の力を抑える者が必要でした。その役目を果たした人物こそデレラ拳継承者のヒンデレラだったのです。そして、ヒンデレラはブラック白雪姫と共に封印されてしまいました。
多くの犠牲を払い、ようやく平和が訪れました。ギエフ王国は素晴らしい。
おわり
「えぇっ、ヒンデレラって私のお母さんじゃないですか」
七年前に逮捕されて今は服役中だと思っていたお母さんがまさかそんな大変な事になっていたなんて。
「えーと、でも封印されてるブラック白雪姫とまた戦うんですか」
「その通りじゃ、封印には消費期限があったのじゃ。それがもう間もなく過ぎようとしておる。だからこそこうして実力者を集めておる」
なんということでしょう。
「でも封印が解けるって事はお母さんも助けられるって事ですよね」
「その通りじゃ。ヒンデレラを助け出してブラック白雪姫を再び封印しなければならない。頼む、ギエフ王国に力を貸してくれ」
「すげえ、また強い奴と戦えるのかよ」
クマーさんは相変わらずの戦闘民族のようです。
「ああ、また強い奴と戦える。だが、今度の戦いは試合ではない。ブラック白雪姫一派との殺し合いとなるかもしれん」
「私は猟師だぜ、毎日が自然との殺し合いなんだ」
こんな時、頭悪そうな人はうらやましいですよね。
「そんな、殺し合いだなんて……。私にはそんなこと……」
「でも、戦わないとあなたのお母さんは助けられないのよ」
今までずっと黙っていた魔女のおばさんが言いました。
「そうですよね。殺し合いとかは出来ないけど、お母さんを守る事は出来るんだ」
「じゃあやろうぜ」
クマーさんが私の手を取ります。
「あのー盛り上がってるとこ申し訳ないが、危険手当が出るから一応契約書にサインして欲しい」
「あっはい」
かくして、私達はブラック白雪姫と戦うために強化合宿を行うのでした。
私達の戦いはもうちょっとだけ続きます。
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