第7話 不思議な黄金戦士
初めてお母さんからデレラ拳を習ったのはいつのことだったか。はっきりとはしないけど、物心ついた時にはその基礎を身に付けていた。
どんな修行で、何を感じ、どんな気持ちだったのかも覚えていない。ただ戦う事がお母さんと私を繋ぐ何かだったのは確かだ。
お母さんがいなくなってから、私は戦う事をやめた。好きじゃないから?相手がいないから?お母さんがいないから?
よく覚えてはいないけど、賭場に通いだしたのもその頃だったと思う。
控え室に戻ったらクマーさんが仕出しの手羽先弁当を食べていた。彼女は私が思っている以上にタフなようで。私を見つけるなり
「お前やっぱり強かったんだな。それで次はいつ戦ってくれるんだ」
「いや、別に戦う気とかないんですけど……」
「まだ一勝一敗。ここからが本番だろ。それに残りの奥義も見せてくれよ。あるんだろ凄いのが」
クマーさんは気持ち悪いくらい興奮していました。
「それは凄いのはあるけど…………」
使えば本当に誰かの命を奪ってしまうかもしれません。
「じゃあさ、お前の母さんと戦わせてくれよ。強いんだろ」
「えっ何言ってるの」
「だってさ、お前にデレラ拳を教えた人なんだろ。うんそれがいい」
「勝手に決めないでくださいよ」
でもクマーさんは一人で納得するとこっちの話なんてまるで聞いていないようで
「そういう訳だからノブ・ナーガ様に負けるんじゃねぇぞ」
と訳のわからない応援をされる始末で。
「二人ともすっかり仲良くなったみたいね」
控え室に魔女のおばさんが入って来ました。
「あっ変態のおばさん」
「たくさん食べて力(パワー)をつけなさい」
魔女のおばさんはなぜか台車に大量のお好み焼きを乗せてきました。
「強くなったわね。あなたならきっと勝てるわ。ついに願いが叶う時が来たのよ」
魔女のおばさんにそう言われると、少しは自信が沸いてきます。
それからお好み焼きは
「出汁の香りが主張していない。もっと全体のバランスを考えた素材選びをした方がいいんじゃないか」
と知らないおっさんが控え室に入ってきて文句をつけながら食べていました。
いろいろな人の思いが交錯する中、いよいよ決戦の時が来ました。
日もすっかり落ちて、燃え盛るかがり火が舞台を赤く照らし出します。そこにノブ・ナーガ様が現れると観客の歓声が巻き起こり、観客の興奮は最高潮。
そして、戦いの始まりはやっぱりシャーマンの奇声から始まります。
「シャァァァァァァァ」
いざノブ・ナーガ様と対峙してみてわかること。まるで隙のない人です。そして、次にどう出てくるか、全く読めません。
「わしは油断はしない。常に全力で戦うのだ」
全力宣言をするとノブ・ナーガ様は、体になにか気的なものを集中させ始めました。
「ハぁぁぁぁぁぁ」
するとどうでしょう、ノブ・ナーガ様の体がどんどん金色になっていきます。その輝きはかがり火よりもはるかに目映く、夜に修行とかしてると苦情が来そうなほどです。
「わしはな、これをリアルゴールド状態と呼んでおる」
「はぁそうですか」
昔お母さんが言っていましたが、金色になる系の変身はだいたい強いらしいです。なので私もしっかりデレラ状態になります。最後の戦いなので全てを出しきる以外はないでしょう。
「わぁぁぁぁぁぁぁ」
ノブ・ナーガ様と激突、拳と拳、全力の攻防を繰り広げます。ノブ・ナーガ様の拳は一撃一撃の重さが尋常ではありません。ガードしていても弾き飛ばされそうで。崩れそうになった所をすかさず突いて来る。明らかに格上の身体能力です。しかも黄金の身体がまぶしくて目に優しくないです。
攻防ではわずか一分ほどで劣勢に。いよいよ舞台のすみまで追いやられます。やはり奥義を使わなければ負けてしまう。ですが使えば人を殺してしまうかもしれない。さっきクマーさんに久しぶりに奥義を使い、それを思い出したのです。それでちょっと考えましたがやっぱり使おうと思います。
「デレラ拳十七大奥義粥の五月雨」
精神を集中してから両手を広げて顎を突きだします。
おかしいのです。何も出ません。
「何やってんの君」
ノブ・ナーガ様も引いてるしなんかすごく気まずいです。
「おかしい……技が出ない。なんで」
なぜか奥義がうまくできません。
「爆裂ひまわり音頭」
「天空の甘栗」
「春の午後のやわらかな木漏れ日」
駄目です。どの奥義も出ません。それどころかデレラ拳の輝きも弱くなっていきます。
「なんで」
「であるか……勝負ありだな」
私は膝をついてしまいました。こんな事は前にもあった気がします。どうしても自分より強いと思った敵と対峙すると心が砕けてしまいそうになります。はじめからわかっていたのかもしれません。ちらし寿司食べたい。所詮は勝てる相手にしか本気を出せないクズなのです。
「戦う意志があるのなら十数える内に立て。ないなら正座してろ」
ノブ・ナーガ様の無慈悲な宣告。まだ戦いたいという気持ちはどこかにあるはずですが
「二」
それで足が鉄の様に重くて
「三」
何をやってるんでしょうか私は
「四」
本当に愚かだと思います。
「六」
その時でした。
「七」
どこからか私を呼ぶ声が。
「リンデレラ貴方はここで負ける人間じゃないわ」
魔女のおばさん。
「八」
「そうだぜ。お前が負けたらお前のお母さんと戦えないだろ」
クマーさん。
「九」
「リンデレラちゃん負けんじゃねぇ」
「おっさん達も応援しとるよ」
「諦めんといてぇ」
「わしの97兆4500億がぁぁ」
「頑張れや大穴」
賭場のみんなまで私を応援してくれています。みんなの声援がこんなにも暖かいなんて。身体の奥から力が沸いてくるようです。
「私はもう大丈夫」
「であるか……」
立ち上がっていました。戦いの楽しさはわからないけど。みんなの声援が身体を動かす。今は物凄く戦いたい。すると身体が再び耀き始めました。そして、耀きはさらに増していき
「今の私はデレラ状態を越えたデレラ状態。スーパーデレラ状態って所でしょうか」
「であるか……」
今なら勝てる。そんな確信と共に繰り出した渾身の一撃。
「うおぉぉぉ」
ノブ・ナーガ様がガードするよりも疾く。私の拳が黄金の肉体を打ち砕き、ノブ・ナーガ様は舞台からお城の壁まで吹き飛びました。城壁が粉塵を巻き上げて崩れ落ちます。
ですがまだ終わりでは……。
「であるか……」
崩れた城壁の中から、その黄金の姿を私の前へ露にしたのでした。
「何度立ち上がって来ても、返り討ちにしてみせますよ。王子様」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます