第4話 不思議な最強決定トーナメント
シンデレラの家系に伝わる伝説のドレスは防虫剤の臭いがしました。
「くさいですねこれ」
あんまりこれを着てパーティーに行こうとか思いません。
「これで行くんですか本当に」
「いや……その…………一応伝説の装備だし……みたいな」
これじゃあ王子様に逢わせる顔がありません。
「そんな顔しないで、ほら香水をつけてあげる」
魔女のおばさんは瓶の液体を散布してきました。
「くさい」
「えっ、これはまぁ十種類の香辛料をブレンドしたオリジナルだから大丈夫よ」
「はぁ」
何が大丈夫なのかはさっぱりわかりませんが、とりあえず変な臭いが合わさって最悪に思えます。でも私はこの匂いを知っている。
一晩たってもドレスは臭いままでした。
「早く起きなさいリンデレラ。お城へ行くための馬車をつくるわよ」
このおばさんはなぜ突然思い出したかの様に魔女らしい事を言うのでしょう。
「馬車ってあの馬車」
「そう、私の魔法で作るのよ。とりあえず台所でかぼちゃとドブネズミを捕まえてきなさい」
この家ドブネズミ出るのか。
「かぼちゃありました。あとドブネズミはいなかったけどホンドカヤネズミならいましたよ」
「それって主に河原のカヤやススキ等の高茎植物に生息する小型のネズミじゃない。外来植物の繁茂や開発による生息域の減少のせいで急速にその数を減らしているのによく見つけたわね。まあそれでいいわ」
それでいいのか。
それから魔女のおばさんは何かを唱え始め
「ムゲッ」
というかけ声と共に手から一筋の光が放たれると、光を浴びたかぼちゃは馬車の荷車の部分になりました。
「服の臭いを取る魔法とかはないんですかね」
「そんな都合のいい魔法あるわけないじゃない」
「あっはい」
それから、ホンドカヤネズミにも
「ムゲッ」
と光を浴びせるとおっさんの姿になった。
「あぁ、俺は助かったのかぁ」
「ムゲッ」
と魔女のおばさんがもう一度光を浴びせるとおっさんは白馬の姿になった。
「ねぇ今の何ッ」
「気にしてはいけないわ。いいわね、これは馬よ」
「UMA」
「馬ッ」
私達は一度紅茶を飲んでから、何事もなかったかの様にお城へ行く支度を続けた。
「まだリンデレラに渡してなかった物があるの。クツオブザガラスよ」
それはガラスで出来たなんともきれいな靴でした。
「この靴に選ばれるのはデレラ拳の継承者だけだと言われてるわ」
「じゃあ、私なら履けるはずです」
「履いてみて」
なぜだろう。ガラスなのに硬くもない、冷たくもない、とても自然な感じ。むしろこの履き心地は
「とても暖かいです」
「それはさっきまで私が懐で温めていたからよ」
「あっはい」
あまり深く考え始めると頭がおかしくなりそうなので、とりあえず紅茶を飲んでからお城へ向かう事にしました。
さあ、やるぞっと意気込んで魔女のおばさんの家から出るとそこには見慣れた顔が。賭場の仲間達でした。
「みんなどうしてここに」
「リンデレラちゃんお城のパーティーに行くって話を聞いてな」
「わしらも応援しとるけんな。頑張りや」
「俺なんてリンちゃんに小遣い全部賭けたんだぜ」
「みんなありがとう。私頑張ります」
みんなの声援を浴びてUMA車は発進します。
標高329メートル、三方を川に囲まれた天然の要害、ゴールデンフラワーマウンテンの頂上にお城はありました。お城までは川の水流の力を利用したロープウェイで一気に登る事が出来ます。
ロープウェイの周囲には既に屈強な男の人達が何人も集まっていました。その中に紅一点、長身の女性が混ざっています。赤ずきんのクマーさんでした。
「よお、待ってたぜ」
「どうも」
それからロープウェイの中では微妙に気まずい雰囲気でしたが景色はきれいです。
ロープウェイが到着すると屈強な男の人達はお城に併設されているリス園の方に行きました。残った私とクマーさん、そして付き添いの魔女のおばさんはいよいよお城に入ります。
お城の中では既にバーベキューパーティーが始まっていました。
「すげえ、本物の牛肉だぜ」
「食べ放題みたいですよ」
「ちょっと二人とも、プラチナチケットを持ってる人は受付に行かないと」
と魔女のおばさんが何か言っていますが
「プラチナチケットってなんですか」
「パーティーで行われる最強決定トーナメントに参加出来るのはプラチナチケットを手に入れた八人だけなのよ」
「お前そんな事も知らなかったのかよ」
とクマーさんにまで引かれてしまいました。
まさか魔女のおばさんにもらったチケットが八枚しか存在しないプラチナチケットだったなんて。でもこれで無条件で最強決定トーナメントに参加出来る訳です。
手続きをしているとあわただしく時間は過ぎていき、すぐに開会式のためにステージに参加者が登ります。なんとこのステージ、このトーナメントのために崖の上に設置された木製空中ステージ「ヒノキマックス」なのです。このステージを観客達は見下ろす様にお城や庭から眺めています。
「さあいよいよ開幕だぁ、実況はこの僕モモターロがさせてもらうぜぇ」
声の大きい実況の人が自己紹介すると歓声が沸き上がります。
「それじゃあイカした参加者達を紹介するぜ。まずは一番人気にして前回チャンピオン、ご存知王宮の近衛騎士ラン・マール氏だ」
「今回も勝利は我が主に捧げるのだ」
ラン・マール氏はマッチョな青年でした。鍛え過ぎててなんか少し気持ち悪いです。
「最強猟師が山から降りて来た。今度は誰を狩るんだ。赤ずきんのクマーだ」
「全員狩ってやるぜ。覚悟しな」
クマーさんは観衆に血で染めた手拭いをふってみせます。相変わらず不衛生そうで気持ち悪いです。
「なんと王宮のお姫様が参戦。王子様の妹の実力見せてください。我らのOICHI様だ」
「ラン・マール殿には負けませんよ」
OICHI様はさすがにリアルお姫様なだけあって美人でしたが、どこか人を見下してる感じが透けて見えて気持ち悪いです。
「まさに究極生物、半牛半人怪物が今ここに。魔獣キンタウロスだ」
「ぐおおおおおおお」
もはや人ですらない化け物です。息が荒くて気持ち悪いです。
「一体誰なんだ、仮面の復讐者がやって来た。謎の復讐者マーマ・ハーハだ」
「デレラ殺ス」
仮面とマントをつけているためどんな人物かはわかりませんが、とりあえず気持ち悪いです。
「普通に強い拳闘士のアレックスだ」
「なかなか強者揃いの今大会ですがしっかり自分の実力を出しきって優勝を狙いたいですね」
なんと言うか普通の拳闘士すぎて逆に気持ち悪いです。
「バトルは知識が物を言うか。生粋のバトル評論家が自らバトルに参戦だ。小太りのジ・イサン」
「バトルというのはですな、常に相手を倒そうとするのではなくてですね、えーと時には守りを固めることでな、まずは自分の弱点を見つめ直して」
この老人はずっと一人でしゃべってるし小太りだし言うまでもなく気持ち悪いです。
「最後は実力は未知数、城下町からやって来た賭博少女。一気通貫のリンデレラだ」
「えっと……頑張ります」
あまり言うこともなくて、実況の人に適当な紹介をされているあたり私も気持ち悪いに違いありません。
「そして、このトーナメント優勝者には我らが王子ノブ・ナーガ様と戦う権利が与えられるぞォォ」
「いかにも、わしと戦いたければこのトーナメントを這い上がってこい」
この人が王子様、噂通りの美男子です。この人にデレラ拳の実力を認めてもらえればきっと服役中のお母さんも恩赦で助けてもらえるはずです。
だから私は絶対に負けられない。
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