第3話 不思議な友達

 クマーさんとの戦いは始めからフルパワー。早く帰って欲しいので、いきなりデレラ状態になって瞬殺体制に入ります。

 光輝く私を見たクマーさんは

「さっき感じた力はそれだ。かっこよくてすごいぜ」

 とか言って一人で興奮してます。ちょっと気持ち悪いです。でもクマーさんはさっきの継母とは比べ物にならないほどの俊足、一瞬で間合いを詰めてきました。

「邪竜真空咆哮牙」

 なんかプロっぽい名前の技をまともに全身に食らってしまいました。その動きはかなり早く、正確に目で捉える事は出来なかったほどです。おそらくは独特の足さばきと姿勢から、流れる様に高い位置から手刀を降り下ろしつつ同じ側の足で膝蹴りを繰り出す。これを左右交互に高速で繰り返している様に見えました。当たるとかなり痛くて名前に負けない威力はあると思います。


「熊でも仕留められる技だったんだけどな」

 そんなにすごい技だったんだ今の。

 ですが私も負ける気はしません。拳には拳で返すのみです。お互いに凄まじい数の拳を繰り出し、はじめはお互いに牽制しあっていましたが、次第に壁際に追いやられ、ついには両肩を壁に押さえつけられました。


 クマーさんが私の肩を掴む力は凄まじく、肩を動かせないほどでした。仕方ないので背筋の力だけで壁を破壊して、一瞬だけ自由になった身体で頭突きを食らわせてやりました。するとクマーさんは意外と怯むこともなく間合いをさらに詰めて顔がすぐそばまで来ました。

 これは不味いと気付いた時には既に遅く、クマーさんの鋭い歯が私の首元に食い込んでいました。このままでは頸動脈を食いちぎられる事は明白、私は咄嗟にクマーさんを抱えて飛び上がり、そのまま天井に叩きつけました。

 木材やらレンガなどの残骸を撒き散らして、ついには二階まで突き抜け、その拍子に二人は反対側へ弾き飛ばされます。

 やはり二人の考える事は同じなのでしょう。

 敵が体制を立て直す前に全力の必殺技で潰す。

「ダーク漆黒ドラゴン掌」

「邪竜真空咆哮牙」

 お互いに渾身の必殺技をノーガードで喰らい、弾き飛ばされてクマーさんは樽の中に、私は袋に詰まった小麦粉の中に突っ込みました。


 早く起き上がらなければ殺される、そう解っていても手足が動かないほどに私の身体にはダメージが蓄積されていました。でもクマーさんは私より頑丈だったのか、取って付けたような必殺技が効かなかったのか、立ち上がってこっちを見下ろしています。


「立てよ、まだやれるだろ」

 まだやれるって思ってるのに身体が動かないのはきっと心のどこかで諦めてる自分がいるから。そんな自分を振り切って、最後の力を振り絞って挙げた右腕が小麦粉まみれだったのを見た時、脳裏には小麦粉まみれの惨めな自分の姿が浮かびました。なんて無様な私。

 私の中の闘志を塞き止めていた何かが決壊して、ついにはデレラ状態の輝きもなくなってしまいました。


 クマーさんがちょっと引いた顔で私を見下ろしています。クマーさんを倒すにはあと少しの闘志が私にあれば、向精神薬があれば

「クスリを……私にクスリをください。勝てない。早く…………」

 近くで見ていたおばさんへの頼みは無慈悲にも断られます。

「駄目よ、今はあげないわ。負けを認めなさい」

「そんな……クスリ…………あぁ」

 クスリがないと負けてしまうのに。クスリを飲まないと、クスリが……どうしてなんでクスリクスリ早くスリ…………。


「負けたんだよ、お前」

 クマーさんのその一言で頭に水をかけられたかのようなショックを受け、一気に目が覚めました。

「お前……名前は……」

「一気通貫のリンデレラ」

「更正したらまた逢おうぜ。次はパーティーでな」

 クマーさんは格好つけて家から出ようとしましたが、二階だったので落ちました。

「うわああああああ」

 それにしてもクマーさんには何か勘違いされてる気がしますが、私にとっては初めて出来た互角に戦える強敵(ともだち)なのだと思います。


「ねぇ、あの子とまた遊びたくない」

 魔女のおばさんはまだ家にいました。

「わりと戦いたい」

「ならいい場所があるわ」


 翌日、私と魔女のおばさんは修行に行きました。

 山にでもこもるのかと思っていましたが、意外にも行き先は城下町の中心から少し外れた辺りでした。目の前には天まで届きそうな巨大な塔がそびえています。

「ここはカオスシティ43。いにしえの時代に四十三人の賢者が四十三通りの罠を仕掛けたとされる古代戦士達の修行場なのよ」

「この街でお城の次に高い建物だからタワーマンションだとずっと思ってたんですけど違ったんですね」

 中は修行に来た戦士達で溢れかえっています。

「これをあげるわ」

 魔女のおばさんが手渡して来たのは紙切れでした。それもただの紙切れではありません。お城のパーティーのチケットなのです。

「一ヶ月後のパーティーまでにこのタワーの最上階まで攻略してみなさい。ここは力だけでは攻略出来ないわ。知力、洞察力、決断力、精神力、感性、そして運。あなたの全てが問われる事になるわよ。まあどうしても駄目だったら非常用水圧エレベーターがあるからリタイアしなさい。あとそれと並みの戦士なら攻略に二ヶ月はかかるからのんびりしてたらパーティーが終わっちゃうわよ」


 私は幼い頃からお母さんに鍛えられてたので、わりと二週間くらいで攻略出来ました。最上階から見る街並みは格別なものです。今の自分より高いのは山の上のお城だけ。そこにだってもうすぐで手が届きそう。

 さて展望喫茶で休憩したら帰ろうと思います。そこで喫茶店のおばちゃんが持って来たのはアイスココアではなく、二体のからくり人形でした。

「お嬢ちゃん知ってるかい。このタワーの四十四番目の試練をな。殺れメカヘンゼル、メタルグレーテル」

「ふん、くだらん」

 修行を終えた今の私にとってはおばちゃんの操り人形などハエのようにのろく動いて見えました。二体の連続攻撃を軽くかわして、おばちゃんの喉元に爪を突き付けます。

「合格」


 カオスシティ43を卒業した私は賭場に行ってから魔女のおばさんの元へ行きました。

「意外と早かったわね。でもそれでこそデレラ拳継承者だわ」


 それから二週間は魔女のおばさんの家で基礎トレーニングと休養をとり、ついに前日の夜となりました。

「リンデレラ、この箱を開けてご覧なさい」

 魔女のおばさんが持って来たのは、ほこりまみれの大きな木箱でした。

「開けてみて」

 中には大根の漬物がぎっしり詰まっていました。

「えっ」

「これじゃない、こっちだ」

 気をとり直して二箱目。中には布のような何かが。広げるとそれは純白のドレスでした。


「それはデレラ拳の家計に伝わる幻のドレスよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る