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ファイアビートルの操縦席では、トーカがものすごい勢いでコーキの耳に情報を流し込んでいた。
「敵は二機。でも、空にいる奴に攻撃の意志はないようだから、前にいる一機に集中して」
まるでそれが何年も前からの仕事であるかのように、計器を見つめ、操作し、トーカは冷静に状況を分析していた。
「グランビートルの弱点は、通常頭部から背中にかけて設置される光エンジンよ。破壊すればグランビートルは行動不能になる。ロングホーンの場合、人間でいえばちょうど心臓の裏側あたりね。……気にするだろうから先に言っておくけど、グランビートルのコクピットは腹部にあるわ。そこに攻撃を直撃させなければ、人は殺めなくてすむ。光エンジンの爆発は、見た目は派手だけど、火薬や燃料を積んでるわけじゃないから、搭乗者はめったに傷つかない」
それがグランビートルによる甲人の席巻を許した理由のひとつでもあった。こうした搭乗兵器では、機体の製造や維持より、操縦者の養成が難しいからだ。……まして知力に劣る甲人には。
「ともかく、エンジン狙いで思いっきりやれってことか?」
「そういうこと!」
「でもあいつ、ルカを持ったまんまだ……このまま殴り合いなんかできねぇぜ?!」
一方、ダーコは、突然現れたファイアビートルに当惑していた。
「なんだぁ、ありゃあ……どこから出てきやがった? 奴らグランビートルなんて持ってたのか?」
だが彼の目には、ファイアビートルが脅威とは映らなかった。甲人軍人の、いかなる敵をも恐れぬ蛮勇は美学であるとも言われるが、今のダーコにその美学は当てはまらない。光人を奴隷にして売り飛ばし、自分は札束や宝石に囲まれて豪遊する以外の未来が、見えなくなってしまっているだけだった。
「まぁいいや……多少は抵抗もねぇと張り合いがねぇしなぁ! どうせ最後っ屁だ、さっくりぶっとばしゃあ、奴らおとなしくなるだろうよ」
ファイアビートルに立ち向かおうとするロングホーン。と、ここで無線が金切り声をあげた。
《ちょっと待ちなよ! 何する気だい、あんた!》
レディバードのアイセが、上空から口を挟んだのだ。
《なんかヤバいよ?! 光人が帝国にないグランビートル持ってるなんて聞いてないし! 仕事は済んだんだからさっさと引き揚げるよ?》
「んだとアマァ?」
今のダーコにはとても受け入れられない言葉だった。ここにあるキラキラの宝箱、オレ様ボロ儲けのチャンスを前にして、悲しいかな彼には、負けることも逃げることも想像の埒外だった。
「だったらてめぇはシッポ巻いて逃げやがれ! 隊長に伝えな、オレはもう部隊にゃ戻らねぇ!」
《何だって? あんたまさか、》
「てめぇは大好きな隊長さんにホメてもらえりゃそれでハッピーなんだろうが! ───ほぅれ、みやげだ!」
《ちょ……なんてこと!》
あせるアイセを意に介さず、ダーコのロングホーンは、手に持っていたルカの体を、まるでだだっ子がおもちゃを扱うように、空高く投げ上げた。
「キャアアアア!」ルカの悲鳴が響き渡った。胸元からの光が、震える心を表すように明滅しながら、空へと昇っていった。
「な……?」思わずコーキは、ルカが投げ上げられた先を眼で追ってしまった。すると、ファイアビートルの体も同じように頭部が上に向く。
急降下してきたレディバードの機体下部のアームが、ルカの体を脇の下から抱えるようにしてつかみ上げ、光もその爪に隠れてしまうのを見た───かと思うや、「そぅれガラ空きだぜ!」ダーコがロングホーンを突進させ、構えが崩れて無防備な胴体に体当たりをぶちかました。
吹っ飛ばされるファイアビートル。ずずん、と背中から落ちる。近くにいた里の人々が悲鳴を挙げ、もんどりうって逃げ惑った。
「よそ見しないの!」ファイアビートル内部でもトーカの声が飛んでいた。「もう気づいてるはずよ。ファイアビートルは操縦者の感覚や動作の意図に連動するの。キミが動きたい方向に動く。だからよけいなこと考えてると、ファイアビートルもよけいなことをする!」
「ルカのことがよけいなことかよ! ふざけんな!」
「集中しろって言ってんの!」
「わかってる!」
そうやってごちゃごちゃとかみ合わぬ間にも、戦闘慣れしたダーコは、むろん黙って見ていたりはしない。
「ヒャーハハァ! グランビートル同士の戦闘は先手必勝ってなァ!」
アームガンを、倒れたままのファイアビートルに向け、遠慮なく
ダーコの思惑ではこれで勝負がついていた。この至近距離ならば、砲弾はたやすくグランビートルの装甲を貫通するからだ……操縦者もろとも。
しかし───硝煙が晴れたとき、ダーコは括目した。「……傷ひとつないだと……?!」
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