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「なんだ……コレ……」
またしてもコーキには何が起きたかわからなかった。次から次に起きる不可解な現象をなかったことにしたがって、頭の片側がきりきり痛んだ。
椅子が宙に浮かんでいて、彼はそれに座っていた。背凭れが小さく、むしろ馬の鞍のようだ。前傾していて、攻め駆けのように四つんばいに近い姿勢になる。倒れないよう前に伸ばされた手は、確かに何か円盤状のものを握りしめて体を支えているのだが、光が凝縮してできた謎の球の中にあって、指先が見えなかった。
「どこだ……ココ……」
空気の流れがかすかにしかなく、閉じ込められている感覚は伝わってくるのに、周囲は見えていた。曲面の壁に、周囲で何が起きているかが映し出されている。グランビートルがカメラアイという機構を持っていて、閉ざされた中にいても外の様子がわかるという話は、コーキも漠然と聞いたことがあった。つまりこれは……。
「ここはファイアビートルの内部よ。操縦席」
トーカの声がして我に返った。彼女の座席は背もたれの高いいすの形状で、コーキの座席の右横のやや低い位置、ほぼ死角にあった。
「そうじゅう……」
「そうよ。キミが操縦するの。このファイアビートルを」
「なんで……」
「この機体は、光人にしか動かせないの。私のレンズに秘められた、『ファイアビートル Type-G』は、そういうものなのよ」
トーカの座席の前には、いくつものボタンやレバーが備わったパネルがあり、周囲には、何やら数値を映し出したり線を映し出す薄緑色の枠が浮かび上がっていた。彼女の指がそのパネルの上を踊ると、薄緑の枠に "FireBeetle Type-G9 Starting up..." と文字が浮かび上がった。機体情報、戦闘状況、レーダーとして敵の位置をも表示する高密度なディスプレイであるが、文字すら知らぬ今のコーキには理解の外だ。
「俺、グランビートルの操縦なんて……」
「グランビートルじゃない、ファイアビートル!」
「だけど」
「思えば動く! 動きをイメージして!」
イメージといわれてもよくわからなかった。だが、球の中の円盤をぎゅっと握り締めると、球がまとう光が、さっと彼自身の光である紅炎の揺らめきに変わった。同時に、機体の外で、ファイアビートルの鋼の手と指も、ぎゅっと同じ動きをするのが見えた。自分とこの巨体とが
そしてもうひとつ、直感で理解できたことがある。真正面に、ルカを捕らえたまま放さない、グランビートル・ロングホーンの映像が映し出されている。ルカを救うには、ロングホーンを制するだけの力が必要だ。自分が操縦するこの巨体には───その力が、ある!
今の彼には、まだその良し悪しは吟味できない。しかし、ルカを救うため、コーキは自らの本心を必死で鼓舞した。できる、さっきまでは足をすくませていたかもしれないが、今はやれるだけの力がある。立ち向かうのだ、立ち向かって救うのだ。川の流れの中で丸木を待ち構えた、あの時の感覚がよみがえる。腰を据えろ、歯を食いしばれ、決して流れに負けぬように!
光球が輝きを増した。その様子を見て、トーカもきりりと表情を引き締めた。
棒立ちだったファイアビートルが、ゆっくりと腰を落とし、足を前後に開き、いわゆる半身に構えた。
里の広場。ときは真昼。突き抜ける青空の下、片やコーキとトーカが搭乗する、我らがファイアビートル Type-G。対するは、帝国軍人ダーコの操るグランビートル・ロングホーン。その腕に、捕らえられているルカ。上空を、アイセのグランビートル・レディバードが旋回している。
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