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 広場では、もうもうと土煙が上がっていた。


 ついに光人の里にたどり着いたダーコのグランビートル・ロングホーンが、東の崖から、巨体を躍らせて飛び下りたのである。その衝撃は地面を割り、えぐり、大穴をうがつほどのものだった。


 広場にいた多くの者が、驚きのあまりに、隠しきれず光点を光らせた。特に子供はまるで制御が利かなかった。やがて風が土煙を晴らすと、ロングホーンのカメラアイが、次々にその輝きを捉えていく。ダーコの目には、まるで宝箱を開けたかのように映った。


 「コレ全部、光人か? ヒィャッハァァァァ! すげぇすげぇサイッコォォォ! オレはもう、大金持ちだ! コレ全部、オレのモンだぁぁぁ!」


 《あんた、何突入してんの?! 命令違反だよ!》


 アイセの声をダーコは無視した。滑空しかできず離着陸が自由でないレディバードには、独断専行を留めるすべはないと、承知の上での行動だった。アイセは舌打ちを繰り返すよりない。


 ダーコはロングホーンの頭部カメラを回転させ、辺りを見回した。片っ端から捕まえ、詰め込めるだけ「虫籠」に───グランビートルの背部の格納スペース、正しくは「バックパック」だが、ダーコのように奴隷売買に手を染めた者どもはそう呼んでいた───詰め込んでずらかるつもりだった。


 「どれがいいかな? どれがいいかな? どれから捕まえるかな? ヒハハハハハ」


 やがてダーコは、ロングホーンの着地地点のすぐそばでへたり込んでいるひとりの五歳ほどの子供に目をつけた。まったく現実を受け入れられないようで、泣きもせず驚きもせず、ただ放心している。だが彼の足にある光点は、とどめようもなく点灯しっぱなしだ。


 グヮシン! グヮシン! と濁った金属音を立てながら、ロングホーンの巨体が歩み寄り、「まず一匹目ェ……」鋼の腕を伸ばし、哀れな子供をつかみ上げようとした、そのとき。


 間に割って入り、手を広げて立ちふさがった者がいた。


 ルカだ。


 なぜそうしたかは彼女自身もわからなかった。考えるより先に体が動いていた。


 「逃げて! 早く!」振り向いて放心している子供に向かって叫び、我に返ったその子が四つんばいでわたわた離れていくのを確かめると、「何をする気?! やめなさい!」ひるむことなく、睥睨するロングホーンのカメラアイを見据えた。


 怒りの視線と同時に、威嚇でもするかのように、胸の光点から清廉な純白の輝きが放たれた。服を通してさえ、強く目を刺すほどに。


 その神々しさたるや。


 周囲で見ていた光人たちが、禍々しい脅威の存在を一瞬忘れて、その場に膝を折った。


 上空からそれを見たアイセもまた、おののいた。心の奥底から、何か熱いものがこみ上げてくるのを感じて、胸元をぎゅっと握りしめた。


 しかし、こらえた。崇拝はすなわち屈服ではないか。屈服は恥であると、帝国兵は叩き込まれている。


 生粋の甲人兵士であるダーコはなおさらだった。彼の場合、生きとし生けるものにとって崇拝よりもはるかに強い衝動、つまり欲望にこそ忠実だった。


 彼は一瞬手を止めたが、それはまぶしかったからに過ぎない。さもなくば、自己を犠牲にしてより弱い他人を救うという、甲人には縁の遠い発想に驚いたのだ。そしてすぐに、今の状況を、カモがネギをしょってきた、と理解した。


 「チビッコがチビッコを守るってか? バッカじゃねぇの?! 弱ェ奴ぁおとなしく俺らの食い物になってりゃいいんだよ!」


 ロングホーンの鋼の手が、あっさりとルカを捕まえた。緩く握るようにしてつかみ上げ、カメラの近くまでその姿を寄せる。


 「まだガキだが、カワイイ顔してんじゃねぇか。おめぇみたいなのがいっちばん高く売れるんだぜェ……? ヒィッヒィッヒィッ、大金が勝手に飛び込んで来やがるんだなァここは! たまんねぇぇぇ!」




 かくして。


 捕らえられたルカの姿を。


 彼女をつかみ上げるロングホーン、その巨体が里の広場に立ち、怯えた女子供らが逃げ惑う姿を───。


 コーキは、見た。


 「ルカぁ!」妹を呼び、手を伸ばした。


 「お兄ちゃぁん!」兄に応えた。


 だが、声以外には何も届かない、届けられない。初めて見るグランビートルは想像以上に大きく威圧的で、ひとりの人間はあまりにちっぽけで頼りなかった。伸ばした手は、震え出して垂れ下がった。その場を、動けなかった。

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