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 ───トーカが警告を発した、まさにその頃。


 《ヒャッホーゥ! 見えた見えた! ビンゴだよ! あれがきっと光人の里だ!》


 帝国軍所属の二機のグランビートルが、光人の里に迫っていた。一機は空から、もう一機は地上から。


 《マジかアイセッ! さっすが最新型、パネェな!》


 《ダーコ! あんたの目鼻の先、北西一キロ!》


 《OK! こんな山ん中泥まみれになって登った甲斐があったってもんだぜ!》


 アイセと呼ばれた女が搭乗するのは、帝国の飛行型グランビートル「レディバード」。コウモリのように鋭角に伸びる形状の翼を広げ、上昇気流を利用しての短時間の滑空のみではあるが、初めて飛行を可能とした。帝国は空すらも制したと評判の新鋭機で、主に偵察目的で使用されている。他のグランビートルと比べ丸みの強いフォルムと、軽量化のため装甲の量が極めて少なく、内部の機構がむき出しの部分が見られるのが特徴だ。


 一方、ダーコと呼ばれた男が搭乗するのは、帝国の山岳・森林特化仕様のグランビートル「ロングホーン」。巨大な四角四面の鉄箱から手足が伸びたような角ばった機体、右下腕部に装着された大口径の砲アームガンは、おおむね陸戦用のグランビートルに共通の特徴だが、ロングホーンは胴にあたる鉄箱部分の幅が狭い。加えて、細長く丈夫な多関節のマニピュレータが、カメラアイを載せた頭部から伸びていて、四肢だけでなくそれを支えにしても移動できる。狭いところ、足場の悪いところの移動に適する。


 個々のグランビートル間では無線通信が可能だ。アイセが上空からダーコに呼びかけた。


 《あんた、ちゃんと隊長の命令わかってるんだろうね? 今回の作戦は隠密! 光人の里の位置を特定すること、その証拠に、なるべく強い光を放つ光人を誰かひとりかっさらってくること、今んとこはそれ以上する必要はないんだよ!》


 《ウッセェ、女のクセにオレに命令すんな!》


 甲人の兵士の大多数にとって、戦場や支配地での強奪・略取は当然の行為だった。奪われる者の苦痛など頭の片隅にもなく、収奪物は戦闘という労働に従事して得られる報酬の一部と認識されていた。市場もまた、何の呵責もなくそれを高値で買い取り、流通させた。とりわけ高値で取り引きされる商品・・は、言わずもがな、人間であった。


 甲人の兵士の少なくない数が、珍奇な種族を拉致し市場で売りさばくことを、至上の誉れと心得ていた───ダーコもまた、ロングホーンの操縦席で舌なめずりをしていた。


 (あの生意気女、知らねェのか? 光人っていや、三人も見つけりゃ一生遊んで暮らせる超レア種族だぜ……ソレが隠れ住んでるなんて、宝の山じゃねぇか! 隊長がどういう腹か知らねぇが……抜け駆けして独り占め……ヘッヘッヘ……)




 その頃───ルカは里の広場にいた。


 里の東西には崖が切り立ち、出入りの困難さに拍車をかけている。東の崖下は少し開けていて、いつ頃からか集会などを催す広場として使われていた。


 ルカは、急にかげったのに気づいて、ふっと空を見上げた。


 「なんだろ……鳥?」


 里を発見したアイセのレディバードが、中空を飛び抜けていったのだとは、知るよしもない。


 「大きかったねぇ、あんなのここらに棲んでたかねぇ」


 集まっていた里の女たちも、顔を上げて口々に言った。


 里には市場と呼ぶべきものがなく、作物や製品を定期的に広場に持ち寄ってみなで分ける。分配を仕切るのは主に女たちの仕事だった。


 殊に今日は、トーカが現れた騒ぎのせいで有力者が長老宅に集まったため、男手はなお少なく、この場にいる者の多くは母親で、連れてきた幼子たちがちゃんばらやままごとに興じていた。


 その様子を横目に見ながら、ルカも分配の輪に加わった。突然訪れた大飯喰らいの来客のために、さてどうやって分配の量を増やしてもらおうかと頭を悩ませていたルカは、すぐに「鳥」のことを忘れてしまった。

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