昼食 de アプローチ作戦 - 第16話
授業前に突撃するのはリスクが高すぎるので、やはり昼休みに賭けるしかない。
それは山野も考えていたみたいなので、「今日は昼飯のときに仕掛けよう」と言った。
「昼飯のときに? いっしょに弁当でも食べるのか?」
「そうだ。俺は食堂で食べるようにセッティングしようと思っているが」
食堂の方が、教室で食べるよりも目立たなそうだな。
「でも妹原が弁当を持ってきてたら終わりじゃないか?」
「それは問題ない。うちの食堂は弁当の持ち込みが許可されているからな」
そうだったのか。よく調べてるな。
今は四時間目の前の休み時間なので、昼休みはもうすぐだ。少し想像しただけで緊張してきたぜ。
教室の前のドアから、現代文のBコースの授業を受けていたクラスメイトが戻ってくる。その中に弓坂の姿が見えた。
弓坂はいつも嬉しそうにニコニコしているから、
なんていうことをぼんやり考えていると、弓坂が俺に気づいて手をふってくれた。
「ヤマノン、ヤガミン。ただいまぁ」
「お、おう」
目が合うと未だにドキッとする。しかし、たまには俺からも話しかけないといけないよな。
「弓坂は、現文は得意なのか?」
すると席についた弓坂が少し困ったような顔をした。
「ううん。中学校の国語と全然違うから、大変だよぅ」
それはそうだろうな。さらに古文や漢文なんかもパワーアップしているんだろうから、国語が苦手な生徒にとっては苦痛でしかないだろうな。
そういえば弓坂は、いっしょにご飯を食べるのが好きなんだよな。誘ったら喜んでくれるだろうか。
「ゆ、弓坂」
「なあに? ヤガミン」
「あっ……と、今日、山野と食堂で、昼飯を食おうと思ってるんだが、弓坂も来るか?」
女子を誘うの初めてだからかなり緊張する。これで断られたら、相当な精神的ダメージを負ってしまうが。
でも弓坂は「わあ」と満面の笑みになった。
「うん! 行くぅ」
よし、今日も弓坂と昼飯が食べられるぜ。
「弓坂を呼ぶ必要はないんだが」
一方の山野は当惑した感じで、俺に耳打ちするように言ってきた。
「別にいいじゃんか。人数は多い方が楽しいし、それに弓坂はいっしょにご飯を食べるのが好きだからな」
そんなストイックに妹原を攻略しなくてもいいんじゃないか。恋人云々ではなく、弓坂とも仲良くなりたいからな。
理解の早い山野は意図をすぐに汲み取って、「フッ」とすかしながら息を吐いた。
「そういうことなら、異論はない」
* * *
四時間目の授業が終わって昼休みになった。
食堂は弁当の持ち込みが許可されているせいか、かなり混んでいる。体育館と同じくらいの広さだが、席はほとんど埋まっているようだ。
「わあ、いっぱい人いるね」
弓坂も食堂の人の多さに驚いている。俺も食堂に来るのは初めてだから、少し圧倒されてしまう。
それ以前に食堂のシステムというか、メニューの注文の仕方がよくわからないのだが。
「どうやらあの機械で先に食券を買うらしい」
山野が入り口付近にできている行列を指さしたので注視してみると、行列の先に二台のへんてこな機械が置かれていた。牛丼屋などでよく置かれていそうなあの機械が、どうやら食券の自動販売機のようだ。
ポケットから財布をとり出しつつ、行列の最後尾に並ぶ。
「上月にはもう言ってあるのか?」
前にいる山野に尋ねると、山野は財布の小銭を確認しながら言った。
「ああ。休み時間にすでにメールしてある」
その辺は抜かりなしか。さすがだな。
しかし、何から何まで手配してもらって、悪いよな。しゃべるようになってまだ数日しか経っていない縁だというのに。
言いづらいが、この辺りで一応、謝辞を述べておいた方がいいか。
「なんか、すまねえな」
すると山野はさも意外そうな感じで、「何がだ?」と聞き返してきた。
「いや、俺の替わりに色々と動いてもらって、悪いなと思って」
「ああ、そういうことなら気にするな。お前の間抜けな計画に首を突っ込むのが面白いだけだからな」
間抜けな計画って言うな。
「高校なんて真面目に通っても何も面白くはないが、お前のような適度な娯楽があれば多少は楽しめるからな。まあ、そんなところだから、お前は何も気にするな」
ああ、そういうことか。
俺を助けてくれるのは娯楽が主目的だから、「八神を絶対に幸せにしてやるんだ!」という、そんな熱い想いはないんだな。このエロメガネアンドロイドには。
それでも助けてくれることに変わりはないし、非常にありがたいわけだから、感謝だけはしておくよ。
そんなことを考えていると、
「ヤガミンはぁ、何を注文するの?」
弓坂が後ろから聞いてきた。
「ああ、どうしようかな。全然考えてなかった」
「食堂のメニューって、どんなものがあるのぉ?」
「さあ、どうかな。定食とかラーメンとか、色々あるんじゃないか?」
俺も食堂に来たのは初めてだから全然知らないが。
メニューなんて真面目に選ぶのは面倒だから、カレーや丼物など、一品系のメニューを適当に選んでしまえばいいんじゃないか?
「あたし、食堂のメニューって、全然わからないから、機械の前に来たらまた焦っちゃいそう」
ああ、それで困っているのか。
弓坂はきっと注文恐怖症なんだろうな。そんな精神疾患があるのかは知らないし、俺も初めて聞いたが。
「なら、カレーにすればいいんじゃないか?」
「カレー?」
「ああ。カレーなんてどこのメニューにも絶対にあるし、味もまず外れないからな。……あ、じゃあいっしょにカレーにするか?」
何気なく提案してみると、弓坂の表情がぱあっと明るくなった。
「じゃあ、あたしもカレーにするぅ」
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