透矢と上月の関係を気づかれた? - 第15話

「それで、SUNの毎週の視聴を上月から義務づけられたのか」


 次の日、通学途中で山野と合流したので仔細を説明した。それを聞いた山野の表情には少しも変化が見られなかったが。


 それにしても昨日のことを考えると、口からため息しか漏れない。


「そうだよ。俺が超メガ盛りくらいにやる気あるって言ったら、じゃあ証拠を見せろってな。やりたい放題だぜ」

「立場的には有利だからな。上月の方が」


 立場的には有利――。


「そうだよ! あの女、自分が風上に立ってるからって、『そうね』とかかっこつけやがって。本当に可愛くねえ!」

「待て、八神っ。声が大きい」


 気づいたら俺は山野の肩をつかんで、ぐわんぐわんと前後に揺らしていた。声も相当大きかったのか、まわりを歩くうちの高校の生徒たちが、不審者を見ているような目でじろじろと見てくる。


 入学早々からこんなかたちでデビューしてはいけない。俺は山野から手を離して嘆息した。


「やっぱり、あいつに相談するんじゃなかったぜ」

「しかし、ドラマを毎週観るだけだったら、それほど難しくはないだろ。仮に観ていなくても、ドラマの内容なんてネットで検索すればいくらでも出てくるからな」


 一方の山野は相変わらず冷静に分析するが、お前は肝心なことを何ひとつわかっていない。


「だから、俺が不正しないように、毎週監視しにくるんだってよ」

「毎週? 監視に……?」

「そうだよ。俺がちゃんと観てるのか、横で監視員みたいに見張るんだとよ。あいつはほんと、そういうことにかけてはものすごいマメだから、もう性格悪いというレベルじゃ――」


 何気なく横をふり返ると、となりにいるはずの山野がいなかった。そのまま視線を後ろにずらすと、山野が無表情のまま足を止めていた。


「どうした? 山野」

「お前ら、仲いいな」

「どこがだよ。聞いてりゃわかるだろ。超最悪だっつうの」

「そうか? 俺には、昔から付き合っているカップルのやりとりに聞こえてくるが」


 もしかして地雷でも踏んだのか?


 山野は眉根を少し寄せて腕組みすると、数秒だけ首をかしげて、


「横で監視するということは、上月が八神の家に来るんだろ? 夜の九時に、クラスメイトの女子が男子の家に」


 まずい。何も考えていなかったから迂闊にペラペラとしゃべってしまった。


「仮に監視カメラなどを使用するとしても、好きでもない男子にそこまでするのか? そんな女子は今まで――」

「そうだ! あいつは監視オタクだから、俺の部屋に監視カメラをつけてネチネチと俺を監視する気なんだ! あいつはそういうやつなんだよ」


 とりあえず監視カメラの線で早口にまくし立ててみたが、山野からの疑惑は当然ながら晴れるわけもなく。


「やはり、上月と付き合った方が早いんじゃないか?」

「なんでだよ!? あんな性悪しょうわると付き合ったら、色んな意味で人生終わっちまうだろ」

「いや、でも、関係性と親密度の観点から分析すれば、妹原よりも上月と付き合う方が確率は圧倒的に高いと思うが」

「あのなあ」


 何が確率だ。数学が苦手なくせに理系ぶるな。


「確率が高いから付き合うなんて言ったら、世の中は不幸な彼氏彼女であふれ返っちまうぞ。大体、なんで好きでもないやつと付き合わないといけないんだ」

「普通は確率が高い方を選択すると思うが――」


 そこで不意に山野が言葉を止めて、俺の肩を叩いてきた。何かと思って指をさされた方向を見やると……ぶったまげた。


 妹原だ。妹原がそこの角から歩いてきたのだ。


「あっ」


 妹原も俺と山野に気づいて、会釈してくれた。顔を少し赤くして、恥ずかしそうに、学生カバンを両手で可愛らしく持ちながら。


 なんかもう、これだけで昨日の嫌なこととか、全部吹き飛んでしまった。ドラマ、やっぱり真面目に観ようかな。


「妹原、可愛いよな。やっぱり」

「そうだな。特殊な環境に生まれついていなければ、なおよかったのだろうが」


 山野の言葉の通り、前を歩く妹原のまわりに人垣ができていた。人数は、十人くらいだろうか。こうしてみると、妹原は本当にアイドルみたいだ。


 山野の言うとおり、妹原と付き合える確率は低い。でも、付き合う付き合わないは、確率だけでは決まらないはずだ。



  * * *



 現代文と、数学、それと英語の授業はABCのグレードに分かれているので、授業を受けるときはグレード別の教室に移動する。


 俺は体育と家庭科以外の成績はいい方なので、グレードは全てAだ。


 対する妹原も、オールAだ。


 だから教室を移動するときがチャンスなのだが、上月と山野のアホコンビのグレードがほとんどCなので、俺は単身で妹原に突撃しなければならない。


 でも俺ののみみたいなサイズの心臓でそれは決行できないので、今日も後ろの席から妹原の後ろ姿を拝見するしかない。


 まずはさりげなく会話して、妹原との親密度をあげていく――といっても、上月と山野の増援がないときびしいのが現状だよな。なんかこう、きっかけでもあれば話しやすくなるのだが。


 弓坂が傍にいれば、少しはよくなるかもしれないが、弓坂ともグレードが微妙にかぶっていないので教室は別だ。


 いや、それ以前に、


「妹原さん、昨日のSUN観た!?」

「あっ、うん」

「もう何言ってんのよ、まりってば。妹原さんはフルートのレッスンで忙しいんだから、ドラマなんて観てる暇ないわよ」

「あ、そうだよね~。ごめんごめん」


 授業前だが、騒がしいな。女子軍団は。


 妹原は真ん中の列の、前から二番目の席に座っているが、妹原のまわりを他のクラスの女子数人がとり囲んでいるのだ。


 ざっと数えて、六人か。


 仮にきっかけがあったとしても、あれでは妹原には近づけそうにないな。女子軍団全方位バリアの前には、俺の極小弾道ミサイルなんてまったくの無力だろうよ。


 妹原はいつも女子に囲まれてもて囃されているけど、あれは友達とは言いがたいよな。上月とは仲良くしゃべっているけど。


 上月以外の友達って、いないのかな。


 上月はあの性格だから友達なんて多くないが、妹原はどうなのだろうか。嫌われるタイプには見えないんだけどな。

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