第18話 星野さま……もしやわざと頭をお打ちになられたのでは


 病院のエントランスから外に出たときの太陽の日差しは開放感に凄まじいものを覚えるが、今日は今日で特別だ。

 治療を終えた星野くんと揃って家路につく。

 それは一番良い結果なのだと身にしみた。


「お医者さんに奇跡だって言われてたね。良かったよ、落下した衝撃で首の骨が折れるどころか、たんこぶひとつで済んでさ」


「ならばこのコブを『星野の奇跡、さらば流星コズミック』と名づけ、後世に伝えねばならない。おい凡人、羊皮紙と羽ペンを」


 まあ大事に至らなかった事を労えばこの言い草。もしも本当に首の骨が折れていてもこんなことが言えるのか、悪魔的好奇心が滲み出てきたよ。


「そんなの持ってないってば」


「では買ってこい。雨坂文具ならば世界中の文房具が揃っているぞ」


「自分で買いなよ。そして自分で書いて」


「なにおう!星野史を編纂するのはこの星野の従者であるお前のし・ご・と!」


「ああいつから僕は君の従者になったんだい」


「今しがたさ☆この星野を病院まで連れて行ってくれた功績を認めようではないか!」


「頼むから普通に接して」


「星野に普通など存在しない!あるのはそう、普遍と書いて普遍フォシィノゥ☆」


「はいはい公衆の目がある所で、でかい声と大げさなポーズをするのやめてね」


「ふふふ。お二人は仲良しさん、なのですね」


 後ろを振り向くと、にこやかな角館さんがいた。

 慌てて学校を出たせいで、電脳姫型ぬいぐるみのしょうこさんを持っていないが、その顔つきはとても穏やかだった。彼女もまた安堵した仲間なんだ。


「やめて下さい角館さん」


「そうだとも里子ちゃん!星野とこの凡人は水と油!いや流星と彗星!否!貴族と家来の関係なのさ」


 関係性はともかく、流星と彗星の区別がよくわからないのだが。


「そんなことはありません。男の子の友情ってこういう事なんだろうなって少々羨ましく思ってしまいます」


「確か角館さんはこの春、他県から引っ越しされて来たんですよね」


「ええ。ですのでこちらではお友達と呼べる方がほとんど……」


「そこは心配ない☆この星野が、愛右衛門あいえむきっての美女であるあなたのベストフレンドとなろう」


 おい貴族っぽく優雅に振る舞うのはいいけれど、美少女相手に鼻の下が伸びてるぞイケメン。


「ふつつか者ですがご指導ご鞭撻よろしくお願い致します」


 と言って丁寧に腰を折る角館さんに、星野くんはへこへことしていた。早くもこの二人の力関係に差が出る未来が見えてきたな。


「そういえば星野くんさ」


「なんだ凡人」


「君がバカみたい、じゃなくて普遍的な事をする前に、あめあがりさんの居場所がわかったって言ってたよね」


「おおそうだとも!慧眼の星野にはわかってしまったのさ、小晴ちゃんが生配信を行ってた場所がね」


「確かアトリエって言ってたね。具体的な場所はどこ?」


「教えない」


「は?」


「教えないと言ったのさ。それでは逆に質問をしよう、行ってどうする」


「まず文句を言うんだ。なんで部員探せって言って起きながら、角館さんを危険な目に遭わすし、自分は行方を眩ませるし、なんか自分の家がごたついてるし、一体、これからどうしたいんだってハッキリさせるんだ」


「わかった。やはりそれがお前の限界だろうな」


「なんだよそれ」


 と僕が苛立ちを隠さず言うと、数台のパトカーや消防車が病院前の大通りをサイレンを打ち鳴らしながら駆け抜けていった。それらが静まるころ、星野くんはぽつりと。


「先程爆破テロが起きた」


「は?」


「場所は旧雑賀漁港近くの旧桐谷邸、こはるちゃんが生配信を行っていたアトリエさ」


「て、テロだって!あああああああめあがりさんは無事なの、ねえ無事なの星野くん!」


「無事もなにも、自分のアトリエを爆破してケガするバカがどこにいる。安心したまえ、こはるちゃんは無事だ」


「よかった……」


「星野は確かにメッセージを受け取った。桐谷邸は旧雑賀漁港、そして今日は!雑賀市長定例記者会見の日!凡人、お前この会見で何が行われるか把握しているか」


「そんなの全然わからないよ」


「雨坂とメディアの繋がりは強い。凡人、これからは雨坂のお知り合いをたくさん作ることをオススメする」


「星野さま……もしやわざと頭をお打ちになられたのでは」


 という角館さんの問いに、「それが神聖ディバイン騎士ナイト星野さ」と爽やかなスマイルを添えて返した。


「行くぞ諸君、いざ市役所へ!こはるちゃんはきっと会見の邪魔をしに来るはずさ☆」

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