後編
──あれから何日たっただろうか。
連夜のまぐわいで、プリンセス・スペルマはすっかり透明度がなくなり、普通の人間と見分けがつかなくなっていた。
あの幻想的な半透明のボディは、透明度を失った今は、逆に、肉感的である。
そして、始めの頃は大和撫子であったのが、透明度がなくなるごとに、インラン女へと変わっていた……。
今、彼女は、プリンセス・スペルマは、こーいちのひざに頭を乗せてネコのように甘えている。
クリームイエローの可愛いパジャマを着ている。こーいちがこのあいだデパートで買って来た三十九ものだ。
当然だが、夜中である……。押し入れでネコならまだしも、女を飼っているなどということが親にバレでもしたら、危険日につけずにやって膣外射精しそこねるよりヤバい事態になる。だからプリンセス・スペルマは夜しか出してもらえない。
それに不満があるのかないのか、プリンセス・スペルマは、昼間はおとなしくしていた。ただ、こーいちが学校へ出掛けるときと、帰ってきたときだけ、人が変わったように、「寂しいよ」だ「狭くてやだ」だと言って甘えるのだ。俺にはどーも演技してるよーに見える。
だいたいあんなに、狭いだ寂しいだ暗いだヒマだと人間並に文句が言える苦痛があるなら、七、八時間、場合によっちゃあ十数時間も押し入れでじっと黙っておとなしくしてられるはずはない!
しかし、彼女は押し入れの中に閉じこめられたストレスを感じているようには見えない。そうだ。演技だ。自分のためでなく、こーいちのための演技だ。
昨日やっと分かったことだが、プリンセス・スペルマは、日毎にこーいちの願い通りの女に変化してきたのだ。
押し入れの中でおとなしくしていてもらわなければ困る、と思えばそうなる。
学校から帰って来て、再会できたときにはさびしかったと思って欲しい、と思えばそうなる。
それが矛盾した願いだとしても、プリンセスはその想いを叶える。こーいちの欲望を内包したスペルマが、プリンセス・スペルマの中に吐き出されるたびに……。
そう、大和撫子がインラン娘に変わっていったのも、こーいちの好みがそういう風に移行したからなのだ。
……なにか納得できない。こう、なんていうか……、射精直後の排尿のようなすっきりしないものがある。
こーいちと精液姫とのロマンスにケチをつけるつもりはないのだが、南條弘子のことが気になる。あれから、実質上こーいちと絶交してるようなもので……。なんでこんなことを俺が心配する義理があるか……。
そうだ。俺が何をする必要がある……。憑衣してるだけの霊の俺になにができる……。
『神』の使命なんてはっきりしてないし……。それに、もし、俺がこーいちにとり憑いたまま離れられなくても、構わない。こーいちにとり憑いてるのも居心地悪いものじゃない。精液姫とのセックスも楽しめるし……。
けど……。なにか、使命感が肩の上に、うっとうしくのしかかっている。
〈神さんよぉ。俺に一体、何しろっていうんだ……?〉
答えは返ってこない……。
こーいちとプリンセス・スペルマは相変わらずいちゃついている。
──次の日。
弘子との待ち合わせのなくなったため、プリンセス・スペルマとできるだけ長く一緒にいたいため、最近のこーいちは、遅刻寸前ぐらいに登校するようになっていた。
玄関の靴箱で靴を履き替えるこーいち。
ふと横を見ると、弘子がいた。弘子はこーいちがいることに気付いていない。
弘子も靴を履き替えるところだった。で、上靴を出そうと靴箱を開けたとき、一瞬動きが止った。そして、靴箱からサッと紙片のようなものを出しポケットにしまった。それからなにもなかったように靴を履き替え、そこを去った。
あれはおそらくラブレターか。靴箱にラブレターを入れるなどという手法は、コンニャクに切れ目入れてオナニーするのと同じくらい古いぞ。
「…………」
こーいちの意識の底にわずかに嫉妬のような感情が見えた。
しかし、その感情が表面化する前に、プリンセス・スペルマのことを思い出し、こーいちは平然としていられた。意識の底のわずかな嫉妬に自分では気付かずに……。
──昼休み。
食後のしょーべんすませたこーいちが便所から出ると、弘子と地味な男が一緒にいるのが目についた。こーいちは弘子のことを意識していないつもりだったが、結局、気にはなるようだ。
弘子と一緒にいる男は、小柄で貧弱そうな雰囲気の男だった。
何やら小声で話している。ラブレターの主か?
さすがに今回はこーいちも動揺を隠せず、早足でその場を去ろうとした。
〈ほっといていいのか?こーいち〉
「!」
驚いたように立ち止ったこーいち。
〈俺の声が聞こえるのか?〉
「誰だ?」
辺りを見回すこーいち。やっぱり聞こえているよーだ。
ここで話したら、こーいちが変人扱いされかねない。言いたいことは後にして、ここは黙っていよう。
-放課後。
俺は放課後まで待って、帰る道の途中で話しかけてみた。
〈聞こえるか?〉
ピクリと反応するこーいち。辺りを見回す。
〈見えん見えん。ゆーれいだ〉
(幽霊?)
〈そーだ。一身上の都合でお前にとり憑いとる〉
「いっ!」
びびるわな。そらぁ。
〈いや怖がることはない。俺は人畜無害合成保存料着色料無添加の幽霊だ〉
(なんのこっちゃ)
〈……とにかく害はないと言いたいんだ〉
(確かに恐いもんじゃないみたいだな……)
〈あのな〉
(ん?)
〈俺は神の使命を帯びてお前にとり憑いているんだ〉
(神様……。信じられないけど……)
信じられないが、とり憑くいた幽霊と会話しているという事実からすれば、頭から信じないわけにはいかない。
〈神ったって低級伸らしい。……そいつが、俺とお前を使ってなんか企んでるらしい〉
(何か分からないのか?)
〈教えてくれん……。ただ、プリンセス・スペルマのことだとは思うんだが…〉
(プリンセス……スペルマ……?)
〈お前の部屋の押し入れの姫だ〉
──俺は不本意ながらこーいちにとり憑くことになった経緯を話した。とり憑くハメになった
業を背負う俺の死因も、全てを打ち明けねばならんと思って仕方なく話した。
さすがにそんな業を持った霊に憑かれているってことを、こーいちは気色悪がった。
出ていってくれ)
出ていきかたが分からんって言っとろーが。…俺が気色悪いか?〉
(ああ。死に方がどうこうじゃなくて、俺の考えていることが筒抜けってのが気持ち悪い)
〈出ていけるようになったら、すぐに出ていく。だが、その為に、俺は『神』の使命を果さなきゃならん〉
(分からないんだろ?)
〈だから、自分の信じるようにする!〉
(……どうする気だ?)
〈言わせてもらう。……お前は人間の女より、せーえき娘の方がいいのか〉
(…………)
〈心で言葉にしなくても、分かるぞ……。お前は南条弘子よりもプリンセス・スペルマの方がいいと思っている〉
(………それがどうした。プリンセス・スペルマは俺の理想そのものの女だ。…当たり前だ)
ここで俺は反論しなければならないはずだった。だが。
〈……その通りだ。俺が悪かった〉
俺は呆気なく引きさがってしまった。俺に似つかわしくもなく、ただの倫理道徳感だけで、プリンセス・スペルマとこーいちとの関係を否定できるものじゃなかったのだ。
しょーがねえ。もう、俺はおとなしくしていよう。『神』の企みがどうなろうと、俺がこーいちに閉じ込められようと、こーいちがそれを嫌がろうと、どーでもいい。好きにしてくれよ。成り行きまかせだ。勝手にやってくれ!
──夜。
いつものように、プリンセス・スペルマはこーいちとまぐわう為に押し入れから出てきた。
しかし、こーいちは、元気がねーぞ。
姫がしごこうとこすろうとしゃぶろうと吸おうと、一向に立たない!
インポだな。
「どうしたの?」
プリンセス・スペルマの心配そうな顔に、
「今日はしたくない……」
「どうして……?」
「『あいつ』が、俺に憑いて、日がな俺のことを観察してるんだ。そう思ったら立つモノもしぼんじまう」
確かに……。コイてる最中にでも、人の近付く気配があると、我に返ってしぼむという経験は誰にもある。
「見てるんだろ?色情霊!」
俺は何も言わない。もうおとなしくしていることにしたんだ。俺がいなくなったと、こーいちが思うように。
「おい!出てこいよ!」
こーいちはそれからしばらく俺を呼び続けていた……。
──また、何日か過った。
あれから、こーいちはプリンセス・スペルマと、ヤッていない。インポなまんまだ。
「こーいち。やろ!」
精液姫のリップサービスも、フィンガーテクニックも、今だこーいちをおっ立てることはできなかった。
「やめてくれ……」
そして、こーいちはインポなゆえに、インランな姫が嫌になり始めていた。プラトニックな恋愛を求め初めていた。だが、その気持ちはプリンセス・スペルマを変えることはない。願いのスペルマを姫が受けていないからだ。
──朝。学校。
「ふう……」
こーいちは憂鬱なため息とともに、カバンを机の上に置いた。そして、チラッと視線を南條弘子の方に向けた。
弘子はこの間の貧弱そうな男と仲良く話していた。
「はあ…」
二度目のため息をつく。
プリンセス・スペルマから心が離れ、弘子の-現実の女の-良さを、少しだが再確認したこーいちだったが、よりを戻すにはもう遅かったようだ。こーゆーことと膣外射精はタイミングが遅れると、えてしてマズい結果になる……。
「元気ないね」
と、の声にこーいちが顔をあげると、そこに、芹沢慶子が立っていた。
「ああ……」
「後悔してるんでしょ」
「……ほっといてくれ」
「誰だか知らないけど、もう片方のコにもふられたみたいね」
「うるさいな!ほっといて……」
こーいちは慶子に向かって怒鳴りかけた。が、不思議と慶子の顔には邪気がなかった。で、こーいちは怒鳴る気が失せた。
前までそんなこと感じとるヤツじゃなかったのに……。
慶子は、こーいちのかたわらを離れた……。
「ふん!」
こーいちは机にもたれてフテ寝した。
──その夜。
こーいちは久し振りに立った。
「わーい」
喜ぶプリンセス。
しかし、俺には分かるぞ。このボッキが精液姫への気持ちでなく、単なるうさ晴らしのためのものであることを……。
プリンセス・スペルマは、喜々としてパジャマを脱いだ。そしてこーいちの上に……。
射精するとこーいちは、精液姫に背を向けた。
いつもならしばらくは抱いていたものを……。
「こーいち」
じゃれるように抱きつく姫。
こーいちは、それを引きはがすようにして、そして、言った。
「押し入れに……、戻ってくれ……」
プリンセス・スペルマは、仕方なしに、パジャマかかえて押し入れに入った。
押し入れの中でごそごそとパジャマを着ている気配に哀れささえ感じたが、こーいちはそんなことに意識は向いてなかった。こーいちはただただ、自分のことを考えていた。
──こーいちは、自分では気付いていないが、今日初めて、恋愛感情抜きに姫を抱いたのだった。
──次の日。朝。
こーいちが学校へ出掛ける前に押し入れを覗いてみた。プリンセス・スペルマは、こーいちに笑顔を見せて、
「いってらっしゃい」
と言った。
──学校へ着いた。
こーいちは最近ボーッとしていた。
(なんか最近面白いことないなぁ……)
いきなり後頭部に衝撃が。
「いってぇ……」
振り向くと、…芹沢慶子だった。
「芹沢ぁ、お前なぁ……」
「元気ないぞ!」
「ほっとていくれよ。俺だってブルーな気分に浸るときだってあるさ」
「失恋の痛手ってやつね」
「そんなんじゃない!」
「ウソォ。顔に書いてあるよ。…あたしがなぐさめてあげようか? へへ…」
「バカ」
「じょーだんよ。へへへ……」
この娘……。なかなかいーところあるじゃないか。こーいちの沈んだ気持ちがまぎれてる。
気が強いだけの娘じゃないよーだな。
──夕方。こーいちが帰って、押し入れを開けてみると、プリンセス・スペルマの姿はなかった。
「どこいったんだ……」
こーいちは押し入れをひっかき回したが姫はやはり、いなかった。
「どこへ……」
こーいちは、ハッと俺の存在を思い出した。
「どこへやった」
俺にきいている。だが、俺は答えない。それに答えを知らない。
『よくやったな』
突然声だけで現れたのは-。
〈『神』?〉
『これで、私の計画は九分通り完了した。いや、よくやってくれた。約束通り浩一から離れさせてやろう……』
〈ちょっと待ってくれ。俺は何もやってないじゃないか〉
『いや、プリンセス・スペルマとこーいちの仲を裂いてくれた』
〈俺はそんなつもりじゃ……〉
そんなつもりじゃなかったが、結果からするとそうなる……。
『落ち込むことはない。これも私の計画のうちだったのだ…』
〈とんでもねえヤツだな。『神』のくせに……。プリンセスが消えたのはどうしてなんだ〉
『プリンセス・スペルマは、精液とそれに含まれる想いがエネルギーだ。それが長く日干しにされた上、昨日は愛のないセックスだ。彼女はもうこーいちとやっていくことに不安を感じたのだ』
〈じゃあ、姫はどこへ……〉
『さてね……。さあ、浩一から離れさせてやろう』
〈待ってくれ。別れのあいさつを…〉
『いいだろう』
〈こーいち〉
「あ、でたな!」
〈やっかいものの俺は出ていく。もうお前にとり憑くことはない〉
「ああ、出てってくれ。せいせいする」
〈最後に一つ言っておく。自分に素直になれ。そうすれば、そばに来ている幸せを手にすることができるだろう〉
「そばに来ている?幸せが?」
〈俺を信じて、素直に生きていれば、それが手に入る……。じゃあな……〉
俺はこーいちの体から離れた。まるで長い間住んでいた家を出ていくような奇妙な感慨が感じられた。
──あれから一ヶ月。
今の俺は気ままな天界の浮遊霊。『神』の使命を果したため、下級天使に近い地位を貰った。
だが、色情霊としての業が抜けてないのか、俺は、正直言って、また地上で気ままに過ごしたかった。
あれからのプリンセス・スペルマと、こーいちはどーなったか?神の目的はなんだったのか?
いや、それ以前に、この神の『目的』のために、一人大きな被害をこーむったこーいちに、何ひとつ褒賞がなかったのではないか。
そのことを俺は『神』に問い正すことにした。
『お前はこーいちと離れることができたし、下級天使に価する地位も与えたではないか。何が不満なのだ?』
〈俺はいい。俺のことは文句ない……。だが…、こーいちは弘子と別れるハメになった〉
『いや、放っておいても、あの二人は別れることになっていたよ。こーいちのあの押しの足りなさではな』
〈だが、直接の原因は!〉
『たしかにプリンセス・スペルマだ。そして私のさしがねだ。……それで私にこーいちにわびろとでも?』
〈あいつは、そのせいで楽しみを失った。俺は今は気楽だが、あいつは不幸じゃないか!不公平じゃないか〉
『浩一も、プリンセス・スペルマの件で、成長した。決してあの貴重な経験は無駄ではなかったよ』
〈大人びた言葉で責任逃れをするな。こーいちに対してのフォローはないのかよ。何の役に立ったのか知らんが、プリンセス・スペルマを育てた貢献に対する謝礼は!〉
『ふ、ふふふ……』
〈なにがおかしい〉
『いや、実は私がしようとしたフォローをお前がやってしまったからな』
〈またわけの分からん言葉で……〉
『見てくるがいい。こーいちの家に行って…』
〈また股間のモザイクか!〉
俺はそう言い捨ててこーいちの家に飛んだ。
──こーいちの部屋。
〈ごめんください〉
言ったって聞こえんわな。
こーいちは寝そべってマンガを読んでいる……。
玄関のインターホンが鳴った。
親が出るよりも早く玄関に走るこーいち。
ドアが開いて入って来たのは、まさか──。
「やっほー。こーいち、元気ぃ?」
やっぱり芹沢慶子だった。
二人は部屋でボードゲームやって遊んでいる。
なるほどね。
神が言った『私がしようとしたフォローをお前がやってしまった』ってのはこういう意味か。
〝自分に素直になれ。そうすれば、そばに来ている幸せを手にすることができるだろう〟
こーいちはこの言葉の意味を分かってくれたようだ。
押しの弱い者同士だった弘子とよりも、押しの強い慶子との方が長続きするかもな……。
「あ!それ卑怯!」
慶子が言った。
「しちゃいけないってルールはない」
「ずるーい!」
慶子はこーいちにヘッドロックを決めた。
「いてててて。まいった! これなし! やり直す!」
ただ、こーいちはずっと、尻に敷かれるだろうな……。
「ねえ、のどが乾いた。ジュースない?」
「ああ。買ってくるよ」
すでに使いっ走りもやらされとるわけか。うんうんうん……。
こーいちが、近所の自動販売機の前まで来たとき、うさんくさいおっさんがあらわれた。
あ! ああ! このおっさん!
あのコートはおった「んばっ!」のバイブ売りだ。まだやってたのか。
バイブ売りが、こーいちの前で「んばっ!」とやった。
「げっ!」
驚くこーいち。
「男性用バイブレーターはいかがですか?」
営業スマイルを満面にたたえるバイブ売り。
「い、いりません!」
あとじさるこーいち。
「では、アダルトビデオなどいかがでしょうか?近くに販売車を止めていますので」
このおっさん、エロビデオの移動販売までしとるのか。
「……安い?」
こーいちはきいた。
「新作が四十%オフ!」
「見せて!」
近くにバンが止めてあった。
バイブ売りのおっさんは、バンの後ろのドアを跳ね上げた。
中にはびっしりとエロビデオが並んでいる。
「さ、どうぞごゆっくり選んでください」
こーいちは、バンの中をのぞき込んだ。
エロビデオが並ぶ棚に視線を走らせる。
「!」
こーいちある一本に目が止った。
こーいちは苦笑のような表情を見せながら、そのビデオを手に取った。
『おたまじゃくしのプリンセス』、こういうタイトルだった。そして、そのジャケットにでかでかと載ったオールヌードの写真こそ、プリンセス・スペルマであった。
なるほど、AV女優になってたか。精液姫には天職だ。
「お決まりですか?」
「いや、やっぱりいらない。持ち合わせがなかった」
こーいちは、『おたまじゃくしのプリンセス』のビデオを置いて、苦笑したまま帰って行った。ジュース買うのも忘れて……。
〈なるほど、こういう趣向だったってわけか……〉
エロビデオ&バイブ売りのおっさんは、いきなり俺の方を向いてニヤリと笑った。
俺はギクリとした。
〈俺が見えるのか?〉
『見えるに決まっている』
おっさんは口を動かさなかった。が、おっさんがしゃべっていると俺は感じた。……あ! この声は!
〈『神』!〉
『そうだ。私だ。……驚いたろう』
〈いや、知らなかった。近頃の神様ってやつは、エロ業界に進出していたとは……〉
『それはちょっと違う。……よもや、これを職業にしてるわけではないぞ』
〈バイブ売りも、あんたの『目的』のためだったのか?〉
『そうだ』
〈『神』の目的は、プリンセス・スペルマをアダルトビデオ業界に進出させることだった。ってーわけだ〉
『そう。女王不在の今のアダルトビデオ業界に新しく頂点に立つべきAV女優を……』
〈……で、見事に、AV界のプリンセス、その名もプリンセス・スペルマが誕生したってわけか〉
『その通り……』
〈俺も、こーいちもまんまとあんたの計画通りに操られたってわけだ〉
『まあ、そう言うな。私もこのためにバイブ売りまで身をやつして……』
〈へっへへへ……。あんた、色情神だったんだな〉
『バレたか……。ふふふふ……』
俺は色情神と一緒に笑うしかなかった。
こーいちは部屋に戻ったらしく、部屋から慶子の声が聞こえた。
「なに!手ブラで帰って来たの? ボケーッとしてたんでしょ! なに、その苦笑いは! もー、早くジュース買って来てよね!」
こりゃ、こーいちはずっと、慶子の尻に敷かれてるだろうな……。
おたまじゃくしのプリンセス 鐘辺完 @belphe506
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