【四話】福永君は仕事人


 ~2020年3月26日 福永 文也~


 ヘリコプターを僕ほど乗り回す人間はそうそういないと思う。


 この僕、福永 文也ふくなが ふみやは、日本の暗部、エージェントの一人である。

 新生児の中からエージェントとして選ばれてから、12歳までずっとこういう機械を扱う技術屋として育てられ今はこうしてヘリを乗り回して空を飛び、秘密裏に活動をしている。

 普段はお偉いさんの空からの護衛や様々なデータの収集などをしている。

 ただ、今回の仕事は少し特殊だった。


「福永さーん、まだつかないんですかー」

「もうすぐですよー」


 新種の人型知的生命体の輸送。

 それが今回僕に与えられた仕事だ。

 今しがた僕に声をかけ、自らの両足が再び地面に出会うのをいまかいまかと待ちわびているのか貧乏揺すり(五月蝿い)を繰り返す少年と、高いところが怖いのかその少年にしがみついて離れない少女(可愛い)、その二人がらしい――

 だが、どう見ても僕には仲睦まじい兄妹にしか見えない。


 それでも、二人がもつ白く透き通った髪を見るとどこか神秘的なものを感じ、自分達とは違うと心から思わされる。


 二人は、アメリカの研究資料の一部であるのだが、アメリカは彼等マントヒヒ人との共存を望んでいるらしく、今回はじめてその存在を公表した。それはどの国もたいそう欲しがったことだろう。今回日本政府に一時預かりの依頼がきたことは本当に運が良かったとしか言いようがない。だが―― 

 アメリカ政府はどこか肝心なことを公表せず、ごまかしている気がする。まあ俺が考えていても仕方のないことだが……


「おい、まだかよ、俺等の住む下宿先ってのは。十二時間座りっぱなしってのも案外つらいぞ」

「それを言うなら僕はお前達をアメリカまで迎えに行くのと送っていくので計二十四時間休みなしだ。もう着いたようなもんだから我慢しろ」

「ハイハイ、わかりましたよ」


 先程からこの蓮弥という少年は僕を嫌っている……いやを嫌っているように感じる。彼等が人間にされたことを考えれば当然か。


「おーい着いたぞ。目的地はこの真下だから……」

「よし真下だな!」


 そういうと彼は立ち上がった。安全ベルトをつけさせていたはずなのにいつの間にかはずされている。


「お、おいまだ危険だから座って待って……」


 そう言いかけたとき、彼はヘリの扉を開けた。

 外から一気に風が流れ込んできて少女がパニックになっている。


「このひも引けばパラシュートっていう安全装置が開くんだよな」


 そう言ってそいつはヘリに乗り込む前に説明してあらかじめ渡しておいたリュックサックを背負った。それには非常用のパラシュートがついている。


「んじゃ、行って来るわ」


 まるでコンビニにいくように軽く声をかけてから彼は飛び降りていった。


 



 僕はそれを口を開け眺めるしかできなかった。


 ……すげー、マジで飛び降りたよ。パラシュートあるとはいえあんな軽装備で4000m近くから飛ぶとか頭おかしいのか?


 この空間に残された僕と少女の間で沈黙が生まれる。




 僕は操縦を自動に切り替えてから席を立ち開かれたままの扉を閉めた。


「……今ゆっくり下降してるから下にいる君のお兄さんと案内役のやつに合流したら下宿先まで行ってね。もう立ち上がっていいよ」

「は、はい」


 少女はそれを聞くとすぐに安全ベルトを外しにかかった。よほど高いところが怖いと見える。かなり焦っているので、ベルトはなかなか外れそうにない。


「僕が外そうか?」


 かれこれ三分もベルトとにらめっこをしている。

 流石にみかねたので、少女のベルトを外しに近づ――


 びくっっっっっ


 ……気のせいだろうか?僕が近づいたとたん彼女が震えあがったんだが……


「そろそろ地面に着くし僕がベルト外すか――」

「近寄らないで下さい!!」


 ……気のせいじゃない。彼女も僕のこと人間嫌いなんだ……


「大丈夫、ベルトを外してあげるだけだから」

「そういうこと言った人たいてい悪い奴でしたから……」

「別に何も危害は加えないから」

「それも悪い奴が言ってます……」


 ……どうすればいいのこれ?














 全く、今回の仕事は災厄としか言えない。

 地面に着いたとき、同僚宮本は僕と、僕を見て怯える少女を見て勘違いをし、先に地面に着いていた少年と共に僕に有罪の判決を下した。すぐに次の仕事が入っていた僕は誤解を解く時間もなくヘリで飛び立たなければならなかった。


「災難だったな」


 急に声をかけられた。振り向くと僕のもう一人の同僚が立っていた。


「えっ政春、ここ高度限界4000m何だけど、いつの間にヘリに乗りこんだんだよ?」

「そんなの最初から24時間前にきまってるだろ」

「じゃあ今の今までどこに」

あいつらマントヒヒ人の座っていた椅子の下。この間あの椅子改造しといたんだよ」


 いつの間に……道理であの椅子だけががたつくのか……


「俺の仕事は監視だからな、近くに接近できる機会は大切にしないといけないんだよ。ひとまず観察役の奴坂本とシフト交代したし、休憩に入るかな」


 監視の仕事、シフト制なのかよ……


「おい、メッセきてるぞ」

「ん、ホントだ。『密入国者アリ、至急対応』だとよ、場所は――おっとこのちかくだね」

「どうするこのタイミングでの密入国者ってことは」

「そだね、確実に彼等マントヒヒ人がらみだね。思ってたより対応早いね、お、レーダーに映った。輸送ヘリ4機とは大胆にいくなー」

「またきた、『排除シロ』だとよ、日本政府も荒々しいな」

「OK、政春少し操縦代わって」


 そう言って僕は立ち上がり座席の後ろのレバーを倒す。座席が少し浮き上がり、出来たスペースから家庭用ゲーム機のコントローラを取り出す。


「やるのか?」

「もちろん。仕事だしね」


 コントローラと操縦席横のプラグをつなぎ、操縦を政春に任せて自分は座席の後ろに立つ。

 コントローラの電源ボタンを押すと僕の使うヘリ改造機からガトリング砲が飛び出す。


「にしてもなんでP S のコントローラとヘリのシステムつなげられるんだ?いつ見ても意味が分からん。そもそも輸送ヘリにガトリングをつけるのはどうなんだ?どんな技術」

「ふっふっふそれは秘密ってことで」


 ボタンを押すとガトリング砲が右に左に動くのを確認すると、


「それじゃ、掃討しますか」


 はるか遠くのヘリに向けて銃弾を浴びせた。





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