【三話】大嶋君は日本に行く

 

 ~2020年3月24日 大嶋蓮弥~


 俺は現在、親父に水を吹きかけられ、従妹に肩を揺さぶられ、ここ最近の中でも、かなり不運な朝を過ごしていた。


「いや、いやいやいや兄さん、だって人間だよ!そいつらの高校に行くとか何考えてんの!!」

「まぁ、俺も抵抗は多少あるが……」

「でしょう。兄さんはこれまで通り私達と独学でも勉強していればそんなところにいかなくても……一緒に住めなくなるし……」

「そうだぞ、人間なんて、俺達マントヒヒ人がこうも不自由な生活を送っているのは全て奴ら人間が戦争をもたらしたからで……」

「いや、でも……」

「「でもじゃない!!!」」

「は、はい……」


 親父と瑠奈に責められれば、こちらも言い返すことができない。


「とにかく、兄さんはそんなところにいかなくてもいいんだからね!」

「お前はただマントヒヒ人の未来について考えていればいいんだ!」

「いやいや、少し落ち着いてくれよ……少し冷静になれば……」

「「冷静になるべきは兄さん(お前)だよ!!」」


 結局二人が落ち着くまでの三十分間、俺は二人の言葉を耳が痛くなるほど聞くことになった。





「つまり、お前が奴らの高校に行くのは、奴らの事について詳しく知るため。で良いのか?」

「そ、だから俺も行きたくはないがいつかマントヒヒ人の繁栄のため、この経験が大事になると思うんだ」


 俺は、人間が嫌いだ。

 奴らが俺達と同じ見た目をしていることが許せない。

 自由で豊かな暮らしをしていたマントヒヒ人だが、人間がやって来て全てが……マントヒヒ人の平和が終わってしまった。

 自分達の利益しか考えない奴らの考え方が理解出来ないし、理解する気もない。

 まぁ、もちろん例外はいると思ってはいるが。


 そんな俺のもとに現在俺達を管理しているアメリカ政府の連中から連絡が入ったのは3日前のこと。


『日本の学校に行く気はないか?』


 俺達を直接管理している男は、日本の般若の面?というものを着け自分のことをマスクと呼ばせているような変人で、そいつとはよく会話をしていた。

 はじめは、そんな嫌いな生物のたまり場になど行きたくなかったが、たとえ人間でもなんだかんだ信頼していた奴の説得と、人間について知るいい機会ということで、奴の話を受け入れることにした。


「そういうことなら仕方ない……月1できちんと連絡は入れるんだぞ」

「サンキュー親父」


 やたら時間がかかったが親父の説得に成功して、ようやく日本の高校行きが決まった。


「仕方ないじゃあないでしょおじさん。兄さん本当に向こう行っちゃうんだよ!」


 今まで静かにしていた瑠奈が口を開いた。


「いや、そんな俺も別に帰ってこない訳じゃないし」

「それでも私は兄さんといたいの!」

「そういわれてもなぁ……」


 確かに、瑠奈や親父、お袋と離れるのは、不安だがマスクの話だともう向こうの高校に行く手続きは済んでるらしいし……


『なら二人一緒に向こうに行くってのはどうかな?』


 突然 声が聞こえてくる。俺が、端末をポケットから取り出すと、画面には般若の面をした男が写っている。


『一昨日ぶり、蓮弥』

「二人一緒ってのはどういうことだよマスク」

『そのままの意味だよー。日本は、少しでも多くマントヒヒ人を受け入れたいみたいだし、二人一緒でも大丈夫だよ。それに君としてもかわいい従妹と離れたくないだろう』

「まぁ、その通りなんだけど……」

『それにお前の行く学校は政府直轄のもので幼から高まで揃った一貫高校だからお前は高校、瑠奈ちゃんは中学で同じ学校に通えるから』


 確かに、家族と離れるのは辛いが、瑠奈を向こうに連れて行ってもいいのだろうか?


 だが、普段自分のことしか考えない奴の言葉にしては、少々違和感を感じる。


「瑠奈はどうしたい?一緒に来るか?」

「もちろん!」


 即答だった。


「いや、だって兄さんとおじさん達のところ離れて二人で暮らすっていうことで、兄さんと二人ってことはつまり――」


 あれ、なんかこいつ変なこと言い出したんだが……


『んじゃ、決まりな。手続きは俺がしとくし。一応明後日出発予定だからそれまでに準備よろしく』

「あ、ああ、頼むわ。手間とらせてすまん」

『いいってことよ。ただ……』

「ただ?」


 マスクは珍しく少し言葉に詰まった。そして普段の奴からは考えられないような気弱な声で……


『今回は、なぜか嫌な予感がするからさ』


 苦笑いしながらそう言った。




 これが俺の新しい生活の始まりだ。

 そんな風に俺と瑠奈の学校生活が始まった。

 だが、俺は後々この提案に乗ったことを後悔し、マスクのこの親切心が俺の感じていた違和感の通り全て奴が望んだ通りに動かすための駒の一つとして俺達が必要だったからと知る――

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