【二話】安藤君は苦労人

 ~2020年3月24日 安藤政春~


 ここで一度俺、安藤政春について話しておこう。


 日本は、いや日本だけに限らず世界各国は、たくさんの暗部を抱えている。日本が抱えているものの一つがこの俺だ。


 国内の様子や反乱、暴動、テロなどの情報をいち早くてにいれるために、日本は多くのエージェントを所有している。

 それは老人から社会人、子供まで多くの世代多くの職業の人間が日本のために働いている。


 15年ごとに新生児からエージェントを選び、特殊な教育を受けさせ、いざという時の戦力とする。

 エージェントとして選ばれた人間は、通常の人間と同じような生活も保証され、 法による自由も認められている。そのためエージェントのなかには警察官から教師、飲食店の経営者まで存在する。俺も15年前にエージェントに選ばれ、今年から高校生になる。青春真っ盛りの人間である。


 今日俺はエージェントの一人としての仕事でこの政府の会合に参加している。


 いつも通り早く片付くと思っていた会合だが、アメリカ政府の発言によりもうすでに30分以上もオーバーしている。


 画面のなかには未だに朝食の風景が写し出されており、画面をみつめるもの達は殺伐とした雰囲気を醸し出している。


『大嶋、醤油とってくれ』

『息子を名字で呼ぶなよ。ホラよ』


 画面から聞こえる声がこの雰囲気をさらに引き締めてくる。


「なぜそれを我々に伝えたのかね?」


 一人が口を開いた。沈黙を引き起こしたアメリカ人の男は聞き返す。


「なぜ伝えたとは?」

「未知の知的生命体だろう。その存在を明かしたら研究材料として使えなくなるだろう。この場で伝えた理由は何かね?」

「そうだ。この場で伝えたにはそちらには何かしらメリットがあるのだろう」

「ああ、そのことでしたらそのうちモニターの方で......」


 ブゥッッッッッッ!!


 モニター内の人間のうちの一人、中年の男...おそらく一家の大黒柱だろう。そいつが飲んでいた水を目の前の男...こちらはおそらくまだ未成年俺と同い年くらいだろうか?に吹きかけた。


『ゴホッ、ゴハッ』

『親父、そこまでびっくりすることか?』


 スゲー俺はじめて人に飲み物吹きかけるの見たよ。


『えっ、兄さん、急にどうしたの……』

『いや……人間の高校に行こうかと……』


 だが、会話は非常に興味深いに行く…か


 普通ならこのような家族での朝食をゆっくりと楽しんでいる家庭をみれば幸せな明るいそれを創造するだろう。だが……


 人間のそれとは思えない腕力と自然治癒力の数値――奴らは一体なんなのか?何気ない日常風景が何か恐ろしいものに感じる。


「人間の高校に行く…つまり人間…この中のいずれかの国がこいつらのを受け持ってくれ、ということか?」

「作用でございます」

「受け入れを依頼する国は決まっているのかね?」

「はい、日本に依頼しようかと」

「ほう」

「日本政府としてはこの依頼どう思われますか?不可能であれば我が国で……」

「いえ、お請けしましょう。こちらとしてもその知的生命体とやらに興味が」

「では交渉成立ですな。ここからは2国間での交渉になるので他の国の皆様は退出を。それとこの話は、秘密ということで」

「ふん、わかっている」


 そう言って部屋から出ていった男はとても悔しそうな顔をしていた。知的生命体とあやらをどうしても引き込み、実験でもしようと考えていたのだろう。そんな奴らにアメリカ政府が大事なを預ける訳がないというのに。



 部屋がアメリカ政府と日本政府の連中だけになり静かになった会議室で、アメリカ側が話を切り出す。


「今回依頼した理由は、彼らが社会に段階的になれていくためです。そのため研究等は、控えていただきたい。その代わりといってはなんですが我々の研究データを日本政府に差し上げます」

「では、先にそのデータを」


 男はうなずくと日本のお偉いさん俺の雇い主にUSBメモリを渡した。


「ただ、日本政府を疑う訳ではないですが、一応こちらの監視役を配置しても……」

「構いませんよ」

「では、教育環境等は、そちらにおまかせするので」


 そういうとアメリカ政府の連中は出ていった。


 これで会合は終わり、やっと帰ることができる――


「そうだ、安藤、お前にこの2人の観察任せるわ」

「なんですと……」


 しばらくは忙しくなるようだ……



 ~2020年3月24日 B.ジャクソン~


 交渉がやっと終わった。キャラを作ったままでいるのも疲れる。


「あ、終わったんですか。んじゃ帰りましょう」


 会議室から出ると般若の仮面をした少年が話しかけてくる。


「お前はもっと空気を読め、自分が会合に参加しないとしても、もう少しおとなしくしろ」

「はいはい、すいませーん」

「そもそもお前が説明すれば俺が疲れることもないのに」

「無茶言わんでください。俺こーいう場所無理なんすよ」

「はあ」


 こいつは、一応は俺の部下でそれなりに仕事のできるやつなんだが……上司の俺にも素顔どころか、自分の年齢、名前さえ教えようとしない変わりものだ。

 奴が、自分の呼び名は勝手につけてくれていいというので俺は……


「んじゃ、これからは監視役頼むぞ。マントヒヒ人の発見者さんマスク


 そいつ、マスクはこちらをみて……


「はい」


 心底楽しそうに笑った……

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