方法54-4︰捕まったりもしてるけど、ワタシは元気です(最後まで諦めない)
最初の揺れは大きかった。もの凄い音もした。なんか、崩落してるような。一瞬、生き埋めって言葉が浮かぶ。
ダンタリオンが焦った様子で何か言ってるけど、全然聞こえない。ルシファーは儀式に集中してる。
もう一度、揺れと音がした。なんかあれだ。ビルの解体現場みたい。明らかに今ここでしちゃいけない音だ。
三度目の揺れと轟音。さっきより大きいと思う間もなく、いきなり天井が崩れた。ホコリが立ち込めて何も見えなくなる。
「いました。ここです!」
すぐそばで声がする。ん? アヌビオム? すると急に、誰かがワタシを椅子ごと持ち上げた。
「生きてるか?」
アシェトの声だ。
「もがーっ! ふがあ!」
ワタシはさるぐつわをされたまま叫ぶ。
「回収した! 離脱しろ!」
アシェトはたぶんアヌビオムに言ったんだと思う。それからアシェトはワタシを担いだまま、猛スピードで走りだした。
なんか坂を登ってると思ったら、すぐに地獄の外へ出た。
「!?」
ワタシは見えたものに驚いて、思わず目を見開いた。
ワタシたちが登ってるのは、途方もない長さの岩でできた腕だった。その先にあるのは、これも岩や土でできた巨大な体。
それは冗談みたいなサイズだった。なんせ肩口から上に、頭の代わりに百頭宮がまるごと載ってるんだもん。
振り向くとアガネアがニヤリと笑った。
「超巨大城塞型特殊兵装、
そしてアシェトは飛翔した。そのまま一気に百頭宮の正面玄関から中へ入る。背後で扉が閉まった。
それからワタシは高速で店内を飛び続けるアシェトによって恐怖のライドアトラクションを体験させてから、見知らぬ部屋で降ろされた。さるぐつわと縄を解いてくれる。
「んじゃ、私は戻るからあとは若い二人でよろしくやってくれ」
アシェトはヒラヒラっと手を振ると部屋を出ていった。
部屋の広さはよくわからない。壁にも床にも天井にも外の様子が映し出されてて、遠近感が判らなくなってるから。
その部屋の中央に、真っ黒い玉座が固定されてた。玉座の背面からは鮮やかな色とりどりのケーブルが無数に束ねられ、天井へ向かって伸びてる。目を閉じてそこに座ってたのはもちろん──。
「ヘゲちゃん……のお姉さん?」
どう見てもヘゲちゃんそっくりだけど、ワタシと同年代の人型悪魔だ。悪魔は目を開いた。
「私に姉がいるわけないでしょう? 成長したのよ」
言われてみれば、さっきまでヘゲちゃんの来てたドレスを来てる。サイズが合わなくなってあちこち破れてるけど。ま、ドレスのボロボロ具合で言ったらワタシのほうがヒドいけどね。
「時間がないわ。あなた、何かを願って私と契約しなさい」
ワタシの目の前に、一冊の分厚い本が現われる。
「最終ページを開いて。サインは甲の欄にね」
そこは上に契約書って書いてあって、その右に今日の日付、その下に空欄があって、一番下の方には甲と乙の署名する部分があった。
「願い事ってなんでもいいの?」
「ええ。もちろん。悪魔に可能なことならなんでも」
「じゃあ、悪魔になりたい。本物の甲種擬人に」
ワタシの言葉にヘゲちゃんは嫌そうな顔をした。
「あれは、その……」
「できないの? タニアだって人間から悪魔になったんでしょ?」
「そうだけれど。人間を悪魔、特に甲種擬人にするのは天界との取り決めの穴をつくグレーゾーンど真ん中。手続きも煩雑なものすごく難しいことなのよ。私、初めてするんだから……その……もっと優しいのに…………」
「けどワタシが契約できるのって一回きりじゃん。だったらそれがいい」
「だいたいどうして悪魔になんてなりたいの? 人間には戻れないのよ」
「だから? 元々ワタシ、人界で死んでるじゃん。戻ったところでいいことないよ。ワタシはさ、助けられてるだけじゃなくて、自分でも自分や周りを護れる力が欲しいの。それに悪魔になれば、ずっとヘゲちゃんと一緒にいられるじゃん。……あのさ、絶対まともに受け取らないだろうけど、ワタシ、ヘゲちゃんのこと大好きなんだからね?」
ヘゲちゃんはなんだか微妙な顔をしてから、ため息をついた。
「5年ちょうだい。5年以内ならどうにかできる、と思う」
「いいよそれで」
ワタシは願いを書く欄に“契約日より5年以内にアガネアを悪魔(甲種擬人)にする”と書いて、署名欄にサインした。
「それで?」
「契約の締結を象徴する何かをするのよ。たとえば、そうね……」
なぜかそこでヘゲちゃんは躊躇った。
「時間ないんじゃないの?」
「キッ、キス、とか?」
「ほほっ」
ヤベ。嬉しさで変な笑い出ちゃったよ。え!? マジで!? そういうこと? ヘゲちゃん成長したって、あれか。性的な意味でか! まあ、冗談はさておき、好きとか直接的に言ってくれないあたりはいかにもヘゲちゃんらしい。
ワタシはヘゲちゃんの目の前に立つと身をかがめて、唇を重ねた。
「んっ」
ヘゲちゃんの吐息にくらくらする。いかん。顔がにやける。
「それで、どうしたらいいの? 服でも脱ごうか。あ、脱がせよっか?」
ヘゲちゃんは顔をしかめた。
「まずはその不気味なニヤけ顔を元のマヌケづらに戻して。あとはボサッと立っててくれればいいわ」
言われたとおりにしましたとも。
「これが何かは聞いた?」
再び目を閉じたヘゲちゃんが言う。
「うん。汎用人型決戦兵器でしょ?」
「違うけれど、あなたにしては合ってるわ。見てのとおり巨体でしょう? とにかく燃料の消費が激しいの。もともとは短期決戦を想定していたからそれでもよかったんだけど……」
「よくここまで来れたね」
「ええ。妖精に特別な靴を作ってもらったの。一歩で千里を進むっていうアレよ。おかげで補足されずにここまで来られたわ。ただ、それで地獄をぶち抜いたら」
「エネルギー切れ?」
「そういうこと。でももう大丈夫」
ぐらりと揺れて巨人が腕を引き抜いた。見た目ほど揺れないのは、たぶんなんか魔法的なアレで保護されてるんだろうなあ。でなきゃ店内の家具とかメチャメチャになるもんな。
「ヨーミギに頼んで、魂を変換してエネルギー補給できるように改造してもらったから」
「え?」
思わずワタシは頭に手をやった。特に意味はない。
「大丈夫よ。あなたの魂でどれだけのエネルギーが得られるか、前に話したでしょう? 千年使ったところで問題ないわ。生きてる人間の魂をエネルギーに変えるには、契約してないとダメ。憶えてないでしょう? とにかくそれで、急いで契約してもらったのよ」
「急ぐ理由でも?」
「ほら、あれよ」
ヘゲちゃんが言ったときだった。グニャリと地獄を挟んで向こう側の空間が歪んだ。そして、こっちと同じくらい巨大な悪魔が現れた。
「アバドン。私と同じ精霊悪魔。地獄そのものが具象化した悪魔よ」
アバドンもまた、建造物めいてた。地獄の各階層をつなげ合わせたようでもある。頭のあるべき部分には、テラスみたいな手すりと柱が並んでる。
「勝てるの?」
「当たり前でしょう? こうやって話しながらでも余裕よ」
アバドンが吠え、肩の付け根から巨大な鎖を射出した。直撃。ぐらりと揺れる。
「……ノーダメージよ」
「ちょっとホントに勝てんの!?」
「ええ。わざわざこんな所まで来て、負けるわけにいかないじゃない」
「そこは嘘でも“あなたがいるから”くらいは言ってほしかった」
「じゃあ、これは聞いた瞬間に嘘だって解るような嘘だけど……あなたがいるからよ」
こうして怪獣大決戦がはじまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます